(ブルームバーグ):米金融政策や経済状況、米大統領選に対する疑問が渦巻く中、ウォール街ではっきりしていることが少なくとも1つはある。人工知能(AI)への支出は依然として最優先事項だということだ。

企業はAIインフラとサービスの構築に数百億ドルを投じており、その恩恵を受ける企業、特にエヌビディアは成長見通しが確実視されている。エヌビディアの来週の決算は、AI需要の強さを一段と浮き彫りにし、株価を再び最高値水準に押し上げる可能性がある。

ボヤ・インベストメント・マネジメントのリード・ポートフォリオ・マネジャー、エリック・スウォーズ氏は「AIインフラの構築は完了までにはほど遠く、今後数年間に期待できる成長見通しは非常に明るい」と指摘した。

さらに、このテーマは終盤に差し掛かっているというより、「まだダッグアウトから出たばかりだ」と述べた。「そのため、短期的には値動きが荒くなるだろうが、中長期的にはAIハードウエア銘柄に関して全く懸念していない」と続けた。

エヌビディア株

この決算シーズンは支出水準に注目がより集まっており、株主還元策よりも設備投資を優先した企業の株が売られるケースもある。AI投資の見返りに対する懸念から、先ごろハイテク株は売られたが、経済成長が底堅く推移し、AIへの投資そのものが堅調に推移するとの見方が高まる中、これらの銘柄には押し目買いが入った。

AIハードウエアおよび半導体銘柄は、ナスダック100指数が8月の安値から反発するのをけん引。最もパフォーマンスが良いエヌビディアは30%近く戻し、最高値まであと6.1%に迫った。同業のマイクロン・テクノロジーやマーベル・テクノロジー、スーパー・マイクロ・コンピューター、ブロードコム、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ、ARMホールディングスも反発に寄与した。

マイクロソフトやアマゾン・ドット・コム、アルファベット、メタ・プラットフォームズなど、エヌビディアの売上高の40%余りを占める巨大企業グループは決算でAI投資に対するコミットメントを強調。その数週間後にエヌビディアの決算は発表されることになる。半導体の受託生産最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の月間売上高も力強いAI需要を示している。

アルファベットやメタを含むハイテク大手の最高経営責任者(CEO)は、AI技術への投資が不足するリスクを冒すくらいなら、むしろ過剰に支出すると述べている。これら企業の資金力を考えると、このような発言は、たとえ経済情勢が弱くなったとしても、AIへの支出が持続することを示唆している。

オールスプリング・グローバル・インベストメンツのシニア・ポートフォリオ・マネジャー、ブライアント・バンクロンカイト氏は「どう考えても、これほどの大企業にはリソースの限界がなく、AIを逃すと自社の優位性が危うくなると思えば、何年でもAIに費やすことができる」と言う。

AIインフラの構築は、莫大(ばくだい)かつ長期にわたることが予想される。生成AIインフラ企業のCEOとの会話を引用したニーダムによると、生成AIをサポートするために必要なデータセンターインフラへの投資は6兆ドル(約870兆円)に達する可能性がある。

それでも、このトレンドが市場で十分に反映されていない論拠もある。UBSグローバル・ウェルス・マネジメントの米州担当最高投資責任者、ソリタ・マルチェリ氏は2025年には大手ハイテク企業の設備投資が最大25%増加する可能性があり、コンセンサス予想の10~15%増を大きく上回ると予測している。これは、「特に半導体分野のAIイネーブラーにとってプラスに働く」と記述している。

AIへの支出は、エヌビディアの大口顧客の成長と効率性の劇的な改善にはまだ結びついていない。しかし、アナリストは現在の支出ペースが持続可能であると確信している。モルガン・スタンレーは、売上高に対する設備投資の割合を示す設備投資集約度の平均は約25%で、これは 「健全な水準 」だと記述。設備投資の対EBITDA(利払い・税金・減価償却・償却控除前利益)比率は「支出に十分なキャッシュフローを示している」という。

エヌビディアの決算は「懸念を払拭(ふっしょく)し、AIサプライチェーン全体の株価回復を促すだろう」と、モルガン・スタンレーのアナリスト、チャーリー・チャン氏は予想している。

確かに、失望の余地がほとんどない高いバリュエーションでAIハードウエア関連銘柄が取引されていることを考えると、AI支出がAIハードウエア関連銘柄を押し上げ続けるのに十分だとまだ確信できない向きもある。スーパー・マイクロやデル・テクノロジーズなど、このグループに属する企業の中には、最近の好調さをもってしても、今年初めの勢いを取り戻すのに苦労している銘柄もある。

オールスプリングのバンクロンカイト氏は「エヌビディアのバリュエーションは、収益基調の持続可能性を保証できるのであれば正当化できる。しかし支出している企業が支出を止めれば、そうした企業は報われる一方でハードウエア企業にはマイナス面しかないため、リスクは大きいと思われる」と指摘。「株の投げ売りが出るような段階にはないが、AIの投資収益率(ROI)が疑問視され始めており、それは劇的な動きになる前の最初の1歩だ」と述べた。

原題:Nvidia Eyes Return to Record as AI Spending Bonanza Continues(抜粋)

--取材協力:Subrat Patnaik、Jeran Wittenstein.

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