家事や家族のケアの労働に対価が払われることはない pexels
<低賃金のエッセンシャルワーカー、さらに無償のシャドウワーカーがいなければ日本社会は成り立たない>
働く人は、いくつかの観点から分離できる。まずは性別だ。時代と共に働く女性は増え、現在では有業者の男女比はほぼ半々だ。しかし性別構成が著しく偏った職業が多い、同じ仕事なのに男女で給与が違うといった、いわゆる「ジェンダー格差」が問題になっている。
その次は従業地位だ。会社や官庁に雇われて働く雇用労働者は、正規雇用と非正規雇用に分かれ、両者の間では「身分格差」と言っていいほど待遇に違いがある。今では働く人の3人に1人は非正規雇用で、日本の快適な暮らしは非正規雇用者の犠牲の上に成り立っているのではないかと、海外の人には思われている。
あと1つは、年収階層による区分だ。「安いニッポン」と言われて久しいが、労働者の稼ぎは年々下がる一方で、最近では約半数が年収300万円未満のワーキングプアだ。これは、雇用の非正規化の影響が大きい。また稼ぎ人とそうでない人の格差も開きつつある。前に筆者が試算したところによると、日本の労働者の収入ジニ係数は米国よりも大きい。
この3つの観点を組み合わせて、日本の有業者(約6100万人)をグループ分けし、人数が多い順に抽出してみると、最も多いのは年収100万円未満の女性非正規雇用者(579万人)、その次は年収100万円台の女性非正規雇用者(540万人)となる。日本で働く人の2割弱、すなわち5人に1人が年収200万円未満の非正規女性ということだ。
産業も絡めてみると、日本社会がどういう人で支えられているかがリアルに見えてくる。<表1>は、人数が多い上位20位を抽出したものだ。
この表に載せた20のグループだけで、有業者全体の27%(4人に1人)に相当する。上位を見ると、女性、非正規、産業では卸売・小売、医療・福祉が多く、年収は押しなべて低い。
今の日本社会は、安い女性エッセンシャルワーカーで支えられているのが分かる。介護労働者の不遇に象徴されるように、辛い思いをしながら働いている人が多いだろう。社会を支える土台が、いつ崩れるか分からない。待遇の改善が急務だ。
なお、家事や家族ケアをしている人も社会の維持存続に寄与している。家族依存型の福祉が根強い日本では、なおのことだ。しかしこうした労働は対価が払われることがなく、「シャドウワーク(影の労働)」と呼ばれたりしている。
社会が安い労働力に支えられていることは、有業者の年収ピラミッドを描いてみると分かるが、この下に無償の家事労働をしている人を据えてみるとどうか。<図1>を見てほしい。
一番下の家事とは、労働力状態が「無業・家事」の人を指す。家族のために、家事・育児・介護等を長時間している人と見ていいだろう。その数は1940万人で大半が女性だ。無償のシャドウワークをしている人も加えてみると、日本社会が、女性の安い(無償)の労働で下支えされている構造が露わになる。
仮に女性がストライキをしたら、社会は即フリーズだ。ジェンダー平等先進国のアイスランドで半世紀前に実際にあったことだ。日本でも、女性の(静かなる)異議申し立ては始まっている。止まらない未婚化の進行は、家事や家族ケアを一手に負わされることへの「NO」の意思表明と言っていい。
<資料:総務省『就業構造基本調査』2022年>
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