金融政策決定会合に出席するため、日銀本店に入る植田和男総裁(31日午前)

日銀は31日の金融政策決定会合で、0〜0.1%としている政策金利を0.25%に引き上げると決めた。賃金の上昇などで物価と景気の見通しがなお上向き基調にあると判断した。国債の買い入れ額を月6兆円程度から2026年1〜3月に月3兆円程度にまで半減させる計画も発表した。日本経済は「金利ある世界」に一段と踏み込む。

0.25%の政策金利は8月1日から適用する。植田和男総裁が7月31日午後3時半に記者会見し、決定内容を説明する。

日銀は声明文で、物価2%目標の持続的・安定的実現の観点から「金融緩和の度合いを調整することが適切だと判断した」とした。今後も経済・物価が日銀の見通し通り推移すれば「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整する」という。

日銀は3月にマイナス金利を解除し、無担保コール翌日物レートを政策金利として0〜0.1%に誘導してきた。短期金利はリーマン・ショック直後の08年12月(0.3%前後)以来、15年7カ月ぶりの水準に戻る。

植田総裁は6月の決定会合後の記者会見で、日銀の予測通りに物価上昇が続けば「政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していくことになる」と指摘していた。

インフレ率は目標の2%を上回ってなお上昇基調にある。6月の消費者物価指数(CPI、生鮮食品除く)は前年同月比で2.6%の伸びとなり、27カ月連続で2%を上回る。

31日公表した7月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」でも26年度まで2%前後で推移するとの見通しを維持した。24年度は2.5%、25年度は2.1%、26年度は1.9%と示した。

今回の会合では国債の買い入れ額をどのようなペースで減らしていくかも決めた。3月の大規模緩和を解除した後も長期金利の急騰を避けるために国債の買い入れ額を月6兆円程度で保ってきた。

具体的には、8月から買い入れ額を4半期ごとに4000億円程度ずつ減らし、26年1〜3月に月3兆円程度にまで半減させる。今後は買い入れ額よりも保有国債の償還額の方が明確に大きくなり、国債の保有量を減らす量的引き締めに移行する。

今回の追加利上げには9人の政策委員のうち中村豊明委員と野口旭委員の2人が反対した。

中村委員は反対した理由について、次回9月の決定会合で法人企業統計などを確認してから判断すべきだとした。野口委員は賃金上昇の広がりによる経済状況の改善をより慎重に見極める必要があるとした。

日銀は13年からの大規模緩和で国債を大量に購入し、24年3月末時点で国債発行残高の53%を保有している。日銀が強い影響力を及ぼしてきた債券市場は、民間取引主体の「金利が動く世界」に向かう。

今回の利上げ幅は0.15%にとどまるため日銀内では「景気や消費に大きな影響は生じない」との見方が強い。もっとも、個別の企業や家計にとっては恩恵と負担の双方をもたらす。企業の借り入れコストは増えるものの、新陳代謝を促して成長力を高める効果も期待できる。成長分野への労働移動が進めば賃金の上昇にもつながる。

マイナス金利解除後、銀行は17年ぶりに普通預金の金利を引き上げた。住宅ローン金利が上がればマイナスの影響が出る家庭も想定されるが、家計全体でみれば預金の方が多く、「差し引きでプラス」(日銀関係者)との見方がある。

日銀は1999年にゼロ金利政策に踏み込み、超低金利政策を続けてきた。

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