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<経営でも課長のマネジメントでもサッカーチームの運営でもチームビルディングは永遠の課題...。株式会社ポーラの及川美紀社長にインタビュー>

株式会社ポーラの社長である及川美紀さんは、同社の経営理念にある「永続的幸福」の追求のため、2021年に「ポーラ幸せ研究所」を立ち上げました。目的は、幸せのメカニズムを科学的に分析し、ポーラでの実践を重ねて得た知見を社会に提供すること。その集大成が、ポーラ代表取締役社長を務める及川美紀さんと、幸福学の研究者である前野マドカさんの共著『幸せなチームが結果を出す』(日経BP)です。

幸せで成果の出せるチームづくりの秘訣とは? 及川さんはどんなリーダーシップを大事にしているのか? 人生に影響を与えた本とともにお聞きしました。(※この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です)

「チームビルディングは永遠の課題」、ポーラ社長拝命で痛感したこと

──及川さんが『幸せなチームが結果を出す』を執筆されたきっかけは何でしたか。

きっかけの1つは、ポーラの社長を拝命したときにさかのぼります。「及川さんには足らないところがたくさんある」「あなたには変えたいことがあるんでしょう」といわれたんです。これは、周囲の優秀な人たちとチームをつくって新しい価値をつくり、変えたいことを変えていきなさい、というメッセージだと受け取りました。そのとき、経営でも課長のマネジメントでもサッカーチームの運営でも、チームビルディングは永遠の課題だと気づいたんです。

社長就任から数か月でコロナ禍になり、ポーラは会社存続にかかわる危機を迎えました。ポーラショップの強みは、お客様の手に触れ、対話を重ねて商品を販売するプロセス。こうした価値が届けられなくなってしまったのです。

ポーラショップを運営するビューティーディレクターたちは個人事業主。月々の売上が減るとその分収入が途絶えてしまう。そんな状況下で、自分たちができることを見出して未来に向かうチームと、「会社はどうしてくれるのか」と他責の思考になりがちなチームとに分かれていったのです。

前者のチームは、「こんなときでも来てくれるお客さまや一緒に働く仲間がいる」と、手元にある資産に目を向けて、自分たちでできることを探していった。すると、どのチームもコロナで売上が下がったのに、リカバリーで差が出てきたんです。

ポーラの幸せ研究所の調査では、未来に向かっていくチームは、メンバーの幸福度が高く成果も出るチームでした。しかも、ポーラショップで働く人と一般の働く女性の幸福度を比較したところ、前者のほうが幸福度が高いことがわかりました。

個人事業主であるビューティーディレクターたちが、なぜこんなにも幸福度が高く、チームとして現場を支えているのか。これを解き明かすなかで見えてきた「幸せなチームづくりの7か条」を、会社に限らずさまざまなチームに知ってもらいたい。それが本書の執筆動機でした。

幸せなチームが結果を出す
 著者:及川美紀、前野マドカ
 出版社:日経BP
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株式会社ポーラ 代表取締役社長(flier提供)

「幸福度は高いが、成果を出せていないリーダー」との違い

──及川さんは2021年に幸せ研究所をつくり、所長になられました。設立の経緯はどのようなものでしたか。

ポーラの企業理念は「美と健康を願う人々および社会の永続的幸福を実現する」。では私たちが実現したい幸せとは何なのか改めて考えよう、というのが設立のきっかけでした。「美と健康を願う人々」とは、ポーラの社員とビューティーディレクターをはじめとするビジネスパートナーのこと。まずは社員とビジネスパートナーの幸せを、そしてお客さまの幸せを追求しようとして行きついたのが、幸福学を研究する前野隆司先生の著書『幸せのメカニズム』でした。読み進めると、幸福学のソリューションとポーラの状況がまさにピッタリだと気づいたのです。

──「幸せで成果を出すチームの共通項」のなかで、特に印象深い発見は何でしたか。

読者から反響があったのが、「本人の幸福度が高く、成果を出しているリーダー(オーナー)」と「本人の幸福度は高いけれど、成果を出せていないリーダー」を比較した結果でした。

前者のリーダーは、相手の幸せを自分の幸せと捉え、「利他」の精神を持っていました。そして、幸せなチームづくり7か条にもある、「ジャッジをしない・正解を求めない」「任せる・委ねる・頼る」という行動を徹底していたのです。彼女たちが大事にしているのは、「相手にとっての幸せ」は何かを考えること。その結果、命令をせず、まずは自分が動いていた。

一方、後者のオーナーは自分のためにメンバーを動かし、メンバーを変えようとしていました。メンバーのことを、自分が幸せになるための「道具」のように捉える「利己」の精神が見受けられたのです。

──大事にする起点が「相手」なのか「自分」なのかで、大きな違いが生まれたのですね。

たとえばメンバーに行動の改善を求めたい場合にどうするか。幸福度と成果がともに高いリーダーは、「なぜ~~できなかったの?」と追及するような聞き方はせずに、「次からあなたはどうしたいと思う?」と意見を聞く。すると、メンバーは委ねられることで自分が必要とされていると感じ、自主的に行動するようになる。大事なのは、リーダー自身が、相手ではなく自分が変わるというマインドでいることです。

短期的には指示命令をするほうが成果は出るかもしれません。ですが、長期的に成果を出せるチームになるには、「自分で考えて動ける人」が育つことが大事です。危機に瀕したときに、自分で考えて判断し、試行錯誤したケーススタディーがちゃんと蓄積しているかどうか。そういう経験を積んだ人は、今後自ら動くリーダーになれるかもしれないですよね。

幸せ研究で、「一般社員」が変わった

──幸せ研究を継続するなかで、ポーラの社内で起きた変化があればお聞きしたいです。

1つは、社内の部長や課長たちを対象にリーダー研修をしたときに、彼らが自身の内面に向き合うようになったことです。リーダーたちに「幸せとは何なのか」という問いを投げかけたところ、参加者の一人が「及川さん、僕って幸せなのかな。うちのメンバーは僕と働いていて幸せなんだろうか」と言い始めて。

幸せについて問われると、誰もが会社の業績よりも、ひとりの人間としての生き方や、周囲との関係性と向き合うようになっていく。リーダー一人ひとりの鎧がとれていく瞬間に立ち会えたのはよかったですね。

また、ポーラ内で起きた変化といえば、マネジメント層以上に、一般社員がチームビルディングを盛り立ててくれていることです。たとえば、大阪のある社員が幸福学に共感してくれて、「(幸せ研究所の)近畿支部をやらない?」と尋ねたら、彼女が支部長として近畿地区の幸せ座談会を開くようになりました。また静岡地区では、ある女性社員が「静岡のチームを幸せなチームにしたい」と考え、幸せコンサルになるためのワークショップを開くなど積極的に展開しています。

ビジネスパートナーたちを幸せにするには、社員の自分たちが幸せにならないといけない。そんな思いから、一社員が起点になってチームビルディングを行い、各地で立ち上がったワーキンググループがさまざまな「幸せ活動」を始めてくれています。

人事や上司が呼びかけるのでなく、個々の社員が自分たちを「幸せ研究」の研究材料にして、発表に向けたアウトプットを出そうとしてくれる。これってとてもありがたいことですよね。私は、役職にかかわらず小さなリーダーがいっぱいいるのが理想だと思っています。「この指とまれ」と言って、一人でもフォロワーができれば、その人はリーダーですから。

──幸せなチームづくりの活動を組織内に広めたいものの、経営層がピンときていない場合、マネジャー層や人事はどんな働きかけをするとよいでしょうか。

自分たちの企業理念やビジョンといった原理原則に沿うことが大事だと思います。ポーラの場合は、ポーラの企業理念を錦の御旗にしたんです。「美と健康を願う人々および社会の永続的幸福を実現する」と謳っているのだから、永続的幸福とは何かを考えることが大事だよね、と。幸福とは、ポーラの商品とサービスを通じて実現するだけでなく、もっと社会に広く働きかけることが必要ではないか? これはコロナ禍で出てきた問いでした。

社会に対してなら、より視界の開けたアウトプットが求められるし、幸せについて考える集団がいてもいいのではないか。そう話すと、取締役会の参加者たちも「たしかにそうだね」と納得してくれました。

この例のように、企業理念に紐づけて、幸せについて考えることの意義を経営層に伝えていくことで、理解してくれる人が増えていくのではないでしょうか。

「他責思考」を全否定してくれた、茨木のり子の詩集

──及川さんの人生やキャリアに影響を与えた本は何でしたか。ご自身に与えた影響とともにお聞かせいただけると幸いです。

人生に影響を与えたバイブルは、茨木のり子さんの詩集『おんなのことば』です。手に取ったきっかけは、30代の頃のマネジメント研修ですすめられたこと。子育てに追われていた時期で、詩集なら読めるかなと手に取ったら、「自分の感受性くらい」という詩に叱咤された。「初心消えかかるのを 暮らしのせいにはするな そもそもが ひよわな志にすぎなかった」「自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ」。こうした言葉が、当時忙しさを言い訳にしていた自分にズシリときたんです。まさに他責思考を否定してくれましたね。この詩集は好きすぎて、色々な人にプレゼントしているので、10冊くらいストックしています。

2冊目は、精神分析学者のフランクルが「人生を肯定する」ことを訴えた『それでも人生にイエスと言う』。40代の壁にぶつかっていたときに、フランクルの『夜と霧』を読んで感動し、この講演集にも手を伸ばしました。

印象的だったのは、「人生に意味を問うのではなく、人生の意味に応えるような生き方をしなさい」という示唆でした。仕事も同じで、意味をつくらないといけないなと。もしも労働者が「会社のために自分の時間を使っている」という発想でいたら、まるで奴隷のようになってしまう。一方、「企業理念を実現するために、あなたは何をしますか?」と問われているのなら、仲間と手を取り合ってその実現のために働いていると思える。すると労働者は奴隷ではなく、社会的責任を果たす存在になる。そんな気づきをくれた一冊です。

人生を変えた本の3冊目は、前野隆司先生の『幸せのメカニズム』。この本のおかげで、持続的な幸福感を高める「幸せの4つの因子」の考え方に出合い、ポーラ幸せ研究所の設立につながりました。

幸せのメカニズム
 著者:前野隆司
 出版社:講談社
 要約を読む

読書自体が、多様性を育んでくれる「対話」になる

──ポーラは「D&Iアワード2023」で最高評価の「ベストワークプレイス」に認定されるなど、ダイバーシティ&インクルージョンの最前線といえます。D&Iの考え方をチームに広げていくうえで、おすすめの本はありますか。

多様性を学ぶというと、ブレイディみかこさんの本がおすすめです。英国の「最底辺保育所」で働きながらライター活動を始めた方です。「エンパシー」という言葉を日本へ広めた『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』をはじめ、ブレイディさんの本は全て読んでいます。

また、経営学者である宇田川元一さんの著書『他者と働く』は、関係性の溝に橋を架けていく「対話」に関して学びが多く、何度も読みました。『社員の力で最高のチームをつくる 1分間エンパワーメント』(ケン・ブランチャード、ジョン・P・カルロス、アラン・ランドルフ著)も、マネジメントの実践編といった位置づけで、対話のヒントを山ほどくれましたね。

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
 著者:ブレイディみかこ
 出版社:新潮社
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他者と働く
 著者:宇田川元一
 出版社:NewsPicksパブリッシング
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多様性を学ぶ際のおすすめは児童書です。たとえば灰谷健次郎さんの『兎の眼』。新任の女性教師が子どもたちとともに成長する姿が描かれています。社会人になってからは、「ひとりの女性の自立の物語」として読むようになりました。読むたびに新たな気づきがある本で、大人にも深い学びを与えてくれる本です。

そのほか、重松清さんの『青い鳥』もよかったし、黒柳徹子さんの幼少期を描いた『窓際のトットちゃん』もおすすめです。トモエ学園の小林先生の、トットちゃんを受け入れられる度量の広さに感服してしまいました。大人になって読むと目線が違ってきますよね。

何の本を読むか以上に、読書自体が多様性を育むことに大いに役立つ「対話」だと考えています。小説でもビジネス書でもいい。その本のどこに共感したのか、どこに反論したのか。自分の心の動きに注目し、書き留めて整理しておくといいと思います。

リーダーは「精神的支柱」でないといけない

──最後に、及川さんがめざしているリーダーシップとは、どのようなものですか。

リーダーは、半人前でいいけれど、みんなの「精神的支柱」でないといけないと思うんですよ。足らないところはメンバーにお願いしていきますが、「私たちはここをめざすんだよ」という北極星をちゃんと示すのがリーダーの役割です。

「及川と一緒にここに行ってみたい」と思ってくれる人を増やしたい。だからもっと人間力を磨いて、みんなが心から一緒に行きたいと思うゴールを掲げていきたいですね。その1つが幸福学の研究であり、企業理念の追求です。社員が全員幸せかというと、まだまだ現状に不満をもつ人もいる。

そこで一番大事なのが対話だと考え、当社の取締役たちと全国各地に飛んで、対話プログラムを進めています。社員全員と毎日対話するのは難しくても、リーダーを通じて聞く仕組みを整えることはできます。対話を重ねて企業理念を追求していくと、必ず業績もついてくると思うんですよね。


及川美紀(おいかわ みき)

株式会社ポーラ 代表取締役社長

ポーラ幸せ研究所 所長

宮城県石巻市出身。東京女子大学卒。1991年株式会社ポーラ化粧品本舗(現株式会社ポーラ)入社。子育てをしながら30代で埼玉エリアマネージャーに。2009年商品企画部長。12年に執行役員、14年に取締役就任。商品企画、マーケティング、営業などバリューチェーンをすべて経験し、20年1月より代表取締役社長(トータルビューティー事業本部長兼務)。誰もが自分の可能性を拓くことができる社会をミッションに、パーパス経営・ダイバーシティ経営を牽引している。

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flier編集部

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