TORWAISTUDIO-shutterstock
<メンタル不調は誰にでも起こるもの。早めに気づいてセルフケアを。そして会社の相談窓口、利用できる外部のサービスも増えている>
「やらなければならないことがあるのに、集中力が続かない」「つい他のことに気を取られてしまって仕事が進まない」「ぼんやりしていてケアレスミスをしてしまう」というご経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
体調がよく、集中力が維持でき、仕事がはかどるという方の話を聞くと、コンディションの整え方が上手な場合が多いです。
また、いつも元気で頑張っているわけではなく、調子が悪いときには早めに気づき、回復できるよう、自分で自分のケア(以下、セルフケア)することが上手です。
最近では、個人で努力するだけでなく、メンタル不調は誰にでも起きうるという前提のもと、組織としてメンタルヘルスケアを取り入れている会社も増えています。
今回は、本格的なメンタル不調にならないために、働く方が早めに気づいてセルフケアができるように、そして、組織としては従業員のメンタル不調の予防や早期発見のために何ができるかについて、解説していきます。
自律神経の乱れの徴候?ささいな体調不良に気づこう
自律神経とは「自分でコントロールしなくても動く神経系」ということで、呼吸や循環、体温の調節、消化など身体の機能が必要に応じて動くように調整してくれている神経のことです。
自律神経には、交感神経と副交感神経があり、仕事など「頑張って戦うモード」のときには交感神経が優位になります。一方で副交感神経は、リラックスして身体の回復をするときに優位になります。
状況に応じて、交感神経と副交感神経がうまく切り換わってくれるのが理想的なのですが、仕事のストレスで交感神経優位の状態が続くと、うまく切り換わらなくなってしまい、仕事が終わった後や休日などでもリラックスや回復モードに入れないということが起こりえます。
自律神経がうまく切り換わって働かないと、身体の反応としていろいろなところに支障をきたします。よく見られるものとしては、めまい、動悸、手足の冷え、疲れやすさ、抑うつ気分や睡眠障害などです。
(参考記事)メンタル不調で休職...産業医がいない企業で実施すべきメンタルヘルス対策とは
集中力低下や自律神経の乱れに気づいた際の対応
それでは、「最近仕事に集中できないな」「なんとなく身体がだるくて元気が出ないな」と気づいたら、どのようにすればよいのでしょうか。
■対応1:自分にとって必要な睡眠をとる
やはり自分にとって必要な睡眠を確保することが大切です。産業医面談で話を聞いていても、仕事などが忙しいと睡眠時間を削る方が多いようです。
必要な睡眠時間は努力によって短くできるわけではなく、無理して睡眠を削っても睡眠負債が積み重なるだけなのです。
睡眠負債が積み重なると、自律神経の乱れや集中力低下、業務遂行能力の低下、ひいてはメンタル不調などといった影響を及ぼします。
また、睡眠は身体機能にも密接に関わっています。睡眠が不足すると、食欲に関するホルモンにも影響し、太りやすくなるともいわれています。
成人では一日7~9時間の睡眠時間が必要とされています。ただ、どうしても一日7~9時間の睡眠時間が確保できない方もいらっしゃいますし、一人ひとりに必要な睡眠時間は異なります。まずは、自分の現状を知ることから始めましょう。
一つの目安としては、日中の眠気の有無です。午後1時から3時頃に眠気が起こるのは自然なことでもありますが、仕事中に居眠りしたり、いきなり寝落ちしたりするようなことがあれば、夜間の睡眠が足りていないことが懸念されます。
まずは自分の睡眠の現状を把握し、自分にとって十分な睡眠時間はどれくらいなのかを見つけていきましょう。
【出典】
A Narrative Review of the Literature on Insufficient Sleep, Insomnia, and Health Correlates in American Indian/Alaska Native Populations/Lombardero A, Hansen CD, Richie AE, Campbell DG, Joyce AW
National Sleep Foundation's sleep time duration recommendations: methodology and results summary/Hirshkowitz M, Whiton K, Albert SM, et al.
■対応2:一つのことに集中する習慣をつくる
次に取り組んでいただきたいのが、マルチタスクを避けて、一つのことに集中する習慣をつくることです。
マルチタスクをすると、リソースが分散されて、作業効率が悪くなります。効率よく進めようと同時並行でタスクに取り組んでも、実は逆効果なのです。
そこで、マルチタスクはできるだけ避けて、一度に取り組むタスクは一つにして、上手に注意を切り替えていくことが重要なのです。
ただ、注意を切り替えようとしても、心配ごとがあればそちらに注意が向きがちになったり、チャットなどの通知音に注意が妨げられて、うまく集中できないということはよく起こります。
集中したい大切な作業のときは、通知音や呼び出し音をオフにしておく、関係のないものをデスクから遠ざけるなどの環境づくりも重要です。
(参考記事)曖昧な休職ルールはNG。メンタルヘルス不調者に対応する就業規則のポイント
セルフケアがうまくいかない場合の対策
睡眠、リラックス、マルチタスクを避けるなどのセルフケアに取り組んでみても、今一つ効果が感じられない、あまり状況がよくならないというときは、専門家に頼ることもご検討ください。
どのような相談窓口があるかについては、会社の体制によって異なります。社内に保健師や産業医などの医療職が常駐していて、希望すれば面談を受けることができる会社もあれば、外部の相談窓口と提携していて電話でのカウンセリングサービスを利用できる会社もあります。
社内で相談窓口がなくても、睡眠や身体的な不調についてはメンタルクリニックの受診、悩みごとに関してはカウンセリングサービスを使うなど、利用できるサービスは近年増えています。最近では、オンラインでの診察やカウンセリングを受けられる機関も増えています。
組織としてメンタルヘルスケアを推進する
業務量や内容、職場での人間関係などの仕事に関することがストレスの原因になることも多いですから、個人の努力に任せるだけでは十分ではありません。
ストレスチェック制度が始まって数年が経ち、ストレスチェックの実施については、だいぶ馴染みのあるものになっているのではないでしょうか。今回は、もう一歩進んだ取り組みをしたいという企業のために、厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」についてご紹介します。
「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、4つのケアということで、①セルフケア、②ラインによるケア、③事業場内産業保健スタッフなどによるケア、④事業場外資源によるケアが提唱されています。
事業場の規模によって、どういうサポート資源が利用可能かについて制約があるかもしれませんが、ラインによるケアについては、上長と部下という関係性があればどのような組織でも実施可能です。
ただ、上長の方の役割や、何を期待するかについては設定しておき、研修などで対応方法を伝えることは必要です。
部下を持つ人、特に管理監督者に期待される役割としては、部下の様子をみて、健康問題の予兆があれば、ケアをする、あるいは適切な相談先につなげる、ということです。ケアというのは問題を解決したりアドバイスをしたりということではなく、あくまでも業務に関しての調整です。
たとえば、体調が悪くて業務効率が落ちているようであれば、一時的に業務量を減らす、あるいは、負担になっている業務や人間関係と距離を取れるようにするという調整です。
人事的な処遇や医学的なアセスメントに関しては、人事や産業保健職などの専門家に任せてもらってかまいません。
セルフケアに関する情報提供や、ラインケア体制の整備など、組織的にメンタルヘルスケアに取り組む場合は、できるだけ働く人のニーズに応じたサポート体制をつくれるよう、衛生委員会などで従業員のニーズをつかむことから始めてみましょう。
【参考】労働者の心の健康の保持増進のための指針/厚生労働省
最後に
今日は、集中力低下などのメンタル不調の徴候に気づく方法、セルフケアの方法、組織的にメンタルヘルスケアに取り組む際の情報源についてお伝えしました。
厚生労働省のサイト『こころの耳』には、さまざまな情報が集められています。読者の方の組織、会社、事業者に合った情報を選べる情報源ですので、ぜひ活用してみてください。
【参考】働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳/厚生労働省
[執筆者]
日下慶子
労働衛生コンサルタント
産業医
・精神保健指定医
・社会医学系専門医・指導医
2004年京都大学医学部卒業
アジア経済研究所開発スクール
京都大学大学院医学研究科(単位取得退学)
Parsons School of Designにて学ぶ。
専門は、公衆衛生(産業保健)、精神保健(地域精神保健、精神科救急)
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。