本誌でのVWゴルフVII試乗記事をプレイバック。日本導入発表まで間近に迫ったタイミングで、自動車評論家 国沢光宏氏が現地に赴き、導入予定の気筒休止付きの1.4TSIに試乗して国産車と徹底比較。果たしてゴルフVIIは国産車ユーザーを振り向かせることができるか?(本稿は「ベストカー」2013年4月26日号に掲載した記事の再録版となります)

文:国沢光宏

■国産ライバル車と比較してどこがいい?

ゴルフVII。ゴルフVIに比べ全長が56mm長く、全幅が13mmワイド、全高が28mm低い全長4255×全幅1799×全高1452mm。見た目の質感は非常に高い

 ゴルフVIIが欧州COTYを受賞した。ラテン系の選考委員が多いヨーロッパCOTYはドイツ車にとって不利だといわれる。しかしゴルフVIIにとっちゃまったくハンデにならなかったようだ。

 2位の86/BRZにダブルスコア。有力候補だと目されていたボルボV40も3位だった。圧倒的な評価を得たということ。果たしてゴルフVIIってそんなにいいクルマなのか?

 ちなみにオーリスの開発担当は「徹底的にコストダウンしているため走りはイマイチ」と言っていた。ゴルフVIIに乗っていなかったため、その時は反論できず。

 6代目までのゴルフを見てきたが、先代より悪くなったケースなど見たことない……。

 試乗車は日本に導入予定のゴルフVIIのうち、上級グレード用の1.4L、140psの7速DSGのモデル。

 排気量を見ると先代と同じながら、まったくの新設計となる。

 排気システムを簡素化するため後方排気になっており、4気筒エンジンで初めての気筒休止装置も付く。

 では走り出しましょう! Dレンジをセレクトしてアクセル踏むと、軽快かつスムーズに走り出す。さすがに約100kgの軽量化が効いているようだ。

 ターボラグもほとんど皆無に近い。ベンツAクラスのツインクラッチMTもスムーズで驚いたけれど、ゴルフVIIときたらそれ以上。

ダッシュボード上部には触り心地のいいプラスチック素材が使われ、センターコンソールがドライバー側に向けられている。ダッシュボードも400gの軽量化が図られている。運転席はMQBプラットフォームによりシートポジションは20mm後方に移り、シフトレバーの位置が50mm高くなった

 熟成の仕上がりといっていいかもしれません。絶対的なパワーは必要にして充分。ヨーロッパ仕様の最高速は212km/hとのこと。

 アイドリングストップは全グレードに標準装備される。可能な限りエンジン止めよう、ということなんだろう。

 ブレーキペダルから足を離すとエンジン始動するが、動いていない状態で踏み直してもエンジン止まる。こうじゃなくちゃアカン。

 気筒休止もキッチリ効いており(休止状態になったことはわからない!)、VWによれば欧州燃費計測モードの70%は2気筒で対応できているそうだ。

 街中での燃費は16~18km/Lというイメージ。

 足回りはどうか? すばらしいのが乗り心地。このゴルフから「MQB」という新しいコンセプトのシャシーを使っている。

 初期モデルにありがちな完成度の低さなど出てるかと思いきや、そんなことまったくなかった。

 荒れた路面を走ったってボディはミシリともいわず。ボディまで響くような入力なし。道路の大きな継ぎ目を通過しても「パタン、パタン、パタン」と、軽快に乗り越えていく。

 かといって柔らかいのか、と聞かれたら答えは明確に「いいえ!」。

 アウトバーンで200km/h出し、その速度から急ブレーキ掛けたってビシッと安定している。

 ダンパーが滑らかに動いているのだろう。2号前のベストカーでゴルフVIIを「クラウンより乗り心地いい」と紹介していたが、ウソ偽り誇張じゃない。

 クラウンどころかレクサスGSと比べたって負けておらず。だからこそヨーロッパCOTYなのだろう。

軽量化しても手抜きなし。ボンネットやフェンダーの隙間も少なく、ボディはガッチリしている

 こうなると弱点を探したくなる。今回試乗できなかった1.2Lのベースグレードはリアサスに簡易なトレーリングアームを使ってます。

 こいつの乗り心地が悪いに違いない、とオーリスの開発チームは言っていた。短い時間だったけれど試してみたところ、まったく問題なし。

 言われなければ今回試乗したマルチリンクと区別できないほど、知っていても判別は難しいかもしれません。

 日本車のライバル達と比べるとゴルフVIIの凄さが明確にわかる。項目別に紹介してみたい。

■エンジン&動力性能

 ゴルフVIIの1.4Lエンジンは馬力こそ高くないものの、1500~3500回転という幅広い回転域で25.5kgmという2.5L級のターボなしエンジンと同等のトルクを出す。

 しかも車重1200kg程度! 軽いです。動力性能でインプレッサの2Lを圧倒。プリウスや2.5LのマークXよりトルクフルな走りをみせる。

 太いトルクを幅広い回転域で発生するアテンザは強敵ながら、300kgもゴルフVIIのほうが軽い。絶対的な動力性能を含め、140ps仕様を選べばスポーティモデル並みといってよかろう。

リアビュー

■ハンドリング

デュアルクラッチMTの7速DSGはキャリーオーバー。相変わらずつながりはスムーズで秀逸

 高速の直進安定性から、タイトなワインディングロードでハンドルを大きく切った時まで含め、抜群の安心感を持つ。乗り心地とも大きく関係してくるのだけれど、サスペンションの動きが滑らかなので、幅広い速度域で穏やかな挙動なのだ。

 コーナーに入るやジワッとロールを開始。そのまま必要なだけのグリップ力を発生し、粘る。

 さらにハンドルを切り込んでいっても、ペタンとロールすることもなし。

 インプレッサやアテンザも悪くないが「曲がる楽しさ」という点でゴルフVIIと比べ物足りない。

■乗り心地

乗り心地は極上! クラウン以上!?

 これはもう日本車をてんで相手にしない。

 プリウスは日本車トップクラスのガタガタ車だから論外。ハンドリングのいいアテンザも乗り心地については平均的な日本車レベル。マークXはマイナーチェンジでむしろ悪化した。4車種の日本勢で最も好ましいのはインプレッサながら、ゴルフVIIと比べると「残念ながら届いていません」。

 現時点でゴルフVIIに勝てる乗り心地の日本車は存在せず。強いていえばリーフくらいか。VWのように良質のダンパーを使わないかぎり、乗り心地じゃ勝てないと思う。

■居住性

 ゴルフVIの数少ない弱点がリアシートの居住性だった。プリウスと比べるとレッグスペースで厳しい。

 いや、格下のフィットと比べてもゴルフVIは負けである。このあたり、VWも「なんとかしなくちゃ!」と思っていたのだろう。

 59mm拡大したホイールベースを生かし、183cmの私でも座れるようなレッグスペースを確保してきた。

 大雑把なイメージとしちゃプリウスやインプレッサとイーブン。マークXに少し届かず。当然ながら大柄なアテンザに勝つことはできない。

体型にうまくフィットするフォーム材の形状、コードフォーム材により弾力性と衝撃吸収性を確保。長距離走行で疲れない快適性、サポート性を実現
室内長は14mm長くなり、後席はレッグルームが15mm、ショルダールームは30mm、エルボースペースも20mm広くなるなど居住空間が大幅に拡大
全長が56mm、ホイールベースが59mm延長したことにより、室内長は14mm拡大。Cセグメントで、ゴルフの後席の広さは抜きん出ている
通常のラゲッジ容量は30L増えた380L。6対4分割可倒式の後席や助手席を折り畳むと最大1270Lまで拡大。トランクの開口部も665mmと低くて便利

■低燃費性能

 街中ですら20km/Lを割らないプリウスと勝負したら厳しい。ただゴルフVIIだって流れのよい郊外路なら20km/Lに近い実燃費となる。

 インプレッサなどハイブリッド車以外の燃費と比べれば圧倒的に優勢。また、冷却水容量が少ないシリンダーヘッドを独立させた冷却系にしているため、寒い日でもエンジン始動した直後からアイドルストップする。

 ヒーターはシリンダーヘッドの「お湯」を使うため、暖房だってあっという間に効く。冬場ヒーター効きにくく、10分以上経ってもアイドリングストップが始まらない日本のエンジンとまったく違う。

■安全性

 昨今急速にニーズが増えてきた「衝突被害低減ブレーキ」は、up!と同じくレーザーセンサー使い30km/hからの自動停止を行なう。

 世界トップレベルの自動停止性能持つアイサイト付きインプレッサにこそ届かないまでも、オプションのミリ波レーダーを装着すれば停止まで行なう「アダプティブクルーズコントロール機能」と、高速からの衝突被害低減ブレーキが稼働。

 さらにゴルフVIIには『多重衝突ブレーキ』が標準装備される。

 2重衝突を防ぐため、衝突した時点で稼働するブレーキなのだけれど、被害拡大防止効果は抜群とのこと。

■総合評価 

 クルマの仕上がり具合で評価したならゴルフVIIの勝ちである。しかしライバルの国産車達は得意技を持つ。プリウスの燃費、インプレッサのアイサイト、マークXのバリュー感、アテンザのディーゼルといった具合。さすがのゴルフをもってしても手強い。

 日本だと輸入車価格というハンデを付けられてしまうからだ。

 ということで大きなポイントはゴルフVIIの価格である。期待より安ければ大幅に販売台数を伸ばすだろうし、割高感出てしまうと伸び悩む。同じ輸入車であるボルボV40の269万円という価格も手強い存在。

■ゴルフVIIにはどんな安全装備が付いているのか?(編集部)

 最近、急速に充実してきている安全装備。もちろんゴルフVIIにも満載されている。

 まずマルチコリジョンブレーキ。衝突した際、残存する慣性エネルギーを大幅に減少させるため、自動的にブレーキをかけるシステムで、人身事故のうち4分の1が二次的な衝突を発生、複数回の衝撃が加わっているという研究成果をもとに開発。

 フロントアシストはレーダーセンサーにより、前走車に接近しすぎると警告を発し、それでも近づくと自動的にブレーキをかけ衝突の回避もしくは衝突時の衝撃を最小限にとどめる。

 そのフロントアシスト警告時にかけたブレーキが足りない場合に必要なぶんのブレーキ力を自動的に補うのがシティエマージェンシーブレーキで車速30km/h未満で作動。

 プロアクティブ乗員保護システムはブレーキアシスタンスが作動するような急ブレーキにより事故に至る危険が検知されるとドライバーと助手席乗員のシートベルトを自動的に巻き上げ、エアバッグやシートベルトによる乗員の保護効果を最大化するように準備。

 ESPが介入するようなオーバーステアやアンダーステアなど極めて危機的で不安定な運転状況が検知されると、頭部およびサイドエアバッグが最適に作動するためにサイドウインドウとスライディングルーフが自動的に閉じる。そのほかアダプティブクルーズコントロールやレーンアシストなど最新装備を満載。

プロアクティブ乗員保護システム

■1.4L直4TSIエンジンは気筒休止システム付き!(編集部)

 これまで6気筒や8気筒、12気筒エンジンに採用された例はあるが、4気筒の気筒休止システムはVWが初。この気筒休止システム(ACT)が採用されたのは140ps仕様の1.4L TSI。2気筒の作動領域はエンジン回転数が1400~4000rpm、発生トルクが8.7kgmの範囲内。

 休止中の第2、第3シリンダーはドライバーがアクセルペダルを強く踏み込めば、気付く間もなく瞬時に4気筒に切り替わる。すべての切り替えはクランク回転が半回転するうちに完了し、これに要する時間はエンジン回転数により0.013~0.036秒という早さで完了する。欧州複合燃費は1.4TSIのACTなしが5.0L/100km(20.0km/L)、ACT付きが4.7L/100km(21.3km/L)

メーター内の表示に気付かなければ気筒休止になっていることがわからない

■まとめ:新型ゴルフVIIの注目ポイント

新世代プラットフォームMQB(モジュラー・トランスバース・マトリックス)

・ポロからパサートまで同一のプラットフォーム、さまざまなエンジンを同一のマウント方法で搭載できるように設定された新世代プラットフォームMQB(モジュラー・トランスバース・マトリックス)を採用。
・エンジン40kg、足回り26kg、ボディや室内の構造物が37kgなど合計100kgの軽量化。
・気筒休止システム(ACT)を採用した1.4L直4TSIエンジンをラインアップ。
・高張力鋼の使用率を66%から88%に、一般的な鋼板の最大6倍もの強度を誇る熱間成形パーツの割合を6%から28%まで拡大。
・現行に比べ全長が56mm長く、全幅が13mmワイド、全高が28mm低い全長4255×全幅1799×全高1452mm。ホイールベースは59mm拡大。
・居住性、特に後席、ラゲッジ容量が拡大。
・シティエマージェンシーブレーキ(衝突低減ブレーキ)、衝突時に自動的にブレーキをかけ二次被害を防ぐマルチコリジョンブレーキ、急ブレーキにより事故に至る危険が検知されるとシートベルトを自動巻き上げ、サイドウィンドウなどが自動的に閉じるプロアクティブ乗員保護システムの採用など安全装備が満載。

VW ゴルフVII 1.4TSIブルーモーションテクノロジー 主要諸元

(内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)

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