高齢ドライバーによる事故ときいて、真っ先に思い浮かぶのは、アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故でしょう。しかしながら、内閣府がまとめた75歳以上の高齢ドライバーによる死亡事故における人的要因比較(2019年)をみると、アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故は、たったの7%。安全不確認(23%)や内在的前方不確認(漫然運転等、18%)、ハンドル操作不適(13%)のほうが実は多いのです。
なかでも多い安全不確認については、加齢による動体視力の低下や有効視野の狭小が関係しているかもしれません。
文:エムスリープロダクション/アイキャッチ画像:Adobe Stock_AYANO/写真:HONDA、Adobe Stock、写真AC
加齢によって動体視力は低下し、有効視野は狭くなる
ホンダが紹介している「高齢者の交通安全」によると、人は加齢によって、認識や認知が可能な「有効視野」が狭くなる傾向があり、動体視力も年齢とともに低下していくとのこと。動体視力に関しては、30歳から34歳あたりから徐々に低下し、70歳以上ではピーク時の半分ほどに低下、周辺視機能に関しても、若年層では左右90度の位置でも見落とし率が10%もないのに対し、高齢者になると60%にも上ってしまうそうです。加齢による目の変化というと、近くのものが見えづらくなる、いわゆる「老眼」を思い浮かべますが、それだけでないのです。
運転シミュレータを用いた高齢ドライバーの視認性を把握する研究でも、加齢による反応速度の低下のほか、端部の視野が狭くなることがわかっており、日産の研究でも、高齢者は中心に注意を向けていると、周囲への気づきが遅くなる傾向があることがわかっています。
動体視力の低下は、距離感覚を鈍らせるため、適切な車間距離が取れなくなって追突事故に至ったり、車線変更が難しくなるなどを引き起こします。また、有効視野の狭小は、横から飛び出してくるクルマや自転車、歩行者への注意力が低下してしまうことに繋がってしまうなど、交通事故のリスクが増えてしまう可能性があるのです。
眼鏡等を使って目の機能の変化を補うほか、安全確認の際には首を動かして確認すること
加齢による視覚能力の変化については、防ぎようがありませんが、これらの変化をすこしでも補うため、やはり視力にあった眼鏡を使うことは大切とのこと。視覚能力の変化を自覚していなくても、年を重ねてきたら定期的な視力検査をうけ、必要に応じて遠近両用眼鏡を適切に使い、遠・中・近距離の視界を確保するようにしましょう。
また、疲労による動体視力の低下を防ぐため、こまめな休憩も大切。高齢になると、疲労を自覚するのにも時間がかかるそう。疲れたなと感じる前に休憩をとることも、視覚能力確保のためには大切です。
そしてもちろん、走行速度を控えることも重要。速度が低いほど、見落としや判断ミスを防ぐことができますし、危険に気づいたあとに回避する時間も確保できるほか、万が一事故となってしまった場合でも、被害が少なく済みます。また、安全確認もしっかりと頭を動かして行うようにしましょう。周囲の状況が把握しやすい明るい時間帯に運転することも大切です。
「自分が思うほど見えていない」と、認識をしておくことも大切
75歳以上の高齢ドライバーにおいては、運転免許更新時の講習において、DVD等で交通ルールや安全運転に関する知識を学んだりするほか、器材で動体視力と夜間視力、および視野の測定も行われますが、75歳に満たなくても、年を重ねてきたら若い時とは見え方に違いが出てくることは、認識をしておくべきこと。「自分が思うほど見えていない」と、認識をしておくことで、自分の視覚能力を客観的にとらえ、的確な判断や行動をすることができるようになります。
運転は、認知して判断し、そして操作するの繰り返しですが、最初の認知の8割は視覚による情報。見え方には個人差も大きいようですが、正しい判断と操作に結び付けるため、定期的な検査と慎重な安全確認を心がけましょう。
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