SUVブームが到来する前から、海外を中心に圧倒的な人気を誇った名車ランクル60。その人気モデルにトヨタがかつて生産していたセンチュリー用のV12エンジンを積んだらどんなモデルになるのか? そんなクルマ好きの妄想を実現した会社がマレーシアに存在した。

文:古賀貴司(自動車王国) 写真:ベストカー編集部

■ランクル60とセンチュリー、夢の合作

一目で大幅な改造、モデファイが施されていると分かるルックス。どんなハードな改造も自然に見えるランクル60はやはり偉大である。

 長年、トヨタ・センチュリーはセダンのみをラインナップしてきたが、最近では“SUV”スタイルのボディも用意されている。なお、トヨタでは「新コンセプトショーファーカー」と謳っているだけで、SUVともクロカンとも呼んでいない。

 そんなセンチュリー、旧型モデルでは日本車として唯一市販された5L V12エンジンを搭載していた。日本市場専用モデルだったので、諸外国のエンスーからは“幻のトヨタ12気筒エンジン搭載車”として羨望の眼差しが向けられてきた。

 そして、ここで紹介する1台のランドクルーザーは、そんな幻の12気筒エンジンを搭載してしまった、というものだ。

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■様々な難題をクリアして実現したエンジンスワップ

こちらがV12エンジンが収まった状態。補器類がついていない状態とはいえまだ余裕がありそうに見える。

 トヨタが誇る二つの名車、ランドクルーザー60系と、最高級車センチュリーのV12エンジンを組み合わせるという大胆な発想。その斬新なアイデアを実現させたのは、マレーシアのカスタムビルダー、USJ 4×4ガレージである。

 ベースとなったのは1987年式のランドクルーザー60系。当時のハイグレードモデルである、4.0リッター直6ターボ(12HT)エンジン搭載の5速マニュアル、ハイルーフ仕様車だ。

 60系が選ばれた理由の一つは、広大なエンジンルームだったという。トヨタのエンジニアたちは、様々なエンジンバリエーションを想定して、余裕を持った設計を施していたのだろう。移植されたのは、トヨタの至宝とも呼べる1GZ-FE型V12エンジン。

 センチュリー専用に開発されたこのエンジンは、片バンクごとにDOHCを備え、可変バルブタイミング機構や10.5:1という高圧縮比、電子燃料噴射システムなど、当時の最新技術を結集していた。

 片バンクの6気筒にトラブルが生じても、残りの6気筒が機能して走行できるようになっているほか、ブレーキもバックアップのための2重系統化が施されている。

 公表されていた最高出力は5,200rpmで295馬力、トルクは1,200rpmから295lb-ftと控えめな数値だった。

 だが、USJ 4×4ガレージが行ったダイノテストベンチでは、ホイール側で250馬力以上を記録。駆動系のロスを考慮すると、クランク出力は優に350馬力を超えているはず、とのことだ。

 エンジンの移植は、単なる「載せ替え」では済まなかった。専用のマウントと排気系の製作は当然として、トヨタ・センチュリーのオートマチックトランスミッションをランドクルーザーのトランスファーケースに結合させるという難題も克服しなければならなかった。

 また、片バンク6気筒での走行を可能にする純正ECUの機能も維持することで、未知の領域を走破する4WDに相応しい信頼性も確保している。

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■フレームやサスペンションも強化してまさに無敵に

エンジンスワップだけでなく全部位を大幅に改良。エアサスペンションシステムなどランクル60の悪路走破性をさらに高めるカスタムが随所に施されている。

 足回りは、V12エンジンのポテンシャルを活かすべく、大胆な強化が施された。14インチものストロークを誇るエアサスペンションシステムを採用し、前後のアクスルにはARBエアロッカー、RCVクロモリシャフト、ユーコン4.88ギアを組み込んだ。

 38.5インチという巨大なマキシストレパドールタイヤの採用は、このマシンのオフロード指向を如実に物語っている。

 ボディは“全バラ”されフレーム補強、2ドア化による軽量化、オーバーハング短縮によるアプローチ/デパーチャーアングルの改善など、オフロード性能の向上に主眼を置いた改造が施されている。

 フロント/リアバンパーやリアのキャリアセクションには、軽量かつ高強度なクロモリチューブが採用された。マレーシアという地は、実は壮大な4WDの実験場でもある。

 ゾウやトラが生息する原生林から、山岳地帯まで、あらゆる地形が存在するのだ。その過酷なフィールドで鍛え上げられた技術の結晶が、このV12ランドクルーザーなのであろう。

 現在、このユニークなマシンは7万ドルで販売中だ。USJ 4×4ガレージいわく、製作費を大きく下回る価格だそうな。

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