現在販売されているトヨタのハイブリッドモデルのほとんどに、ひっそりと搭載されている機構が「バネ上制振制御」だ。カタログなどで名前を見たことがある人はいると思うが、実際に何をしているのかは結構ナゾなシステム。ただ、この謎のシステムは、ミニバンやSUVの快適性を大きく高める魔法の技術なのである。

文/佐々木 亘:写真/トヨタ

■元はアベンシスに搭載された技術! HEVではプリウスαが先駆者

バネ上制振制御はトヨタ アベンシスのディーゼル版に搭載されていたが、アベンシスのディーゼルは国内導入が無く、「知る人ぞ知る」技術だった

 バネ上制振制御が世に広まったのは、初代プリウスαの登場がきっかけだ。それ以前にも、この技術はあったわけだが、駆動用モーターを積み込まない純エンジン車では、ディーゼルエンジンの方が相性は良く、アベンシスに搭載されていた。

 だが、アベンシスのディーゼルは国内導入が無く、プリウスαの登場でも当時は比較する車両が無かったため、ディーラースタッフの中でも「こういう機能があるのね」くらいにしか思われていない機能だった。時は2011年のことである。

 その翌年、21系クラウンが登場。これを機に、バネ上制振制御の優位性がディーラースタッフにも、自動車ユーザーの中でも、直に感じられる存在となっていった。

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■バネ上制振制御って一体何をしているの?

初代トヨタ プリウスαの登場で世に広まった「バネ上制振制御」。実はスゴい機能なのだ

 この機能は、駆動用モーターを使うため、ガソリン車とHEV車が併売されているモデルでは、HEV車にしか搭載されていない。機能の目的は、乗り心地を向上させることにある。システム概要は次の通りだ。

 路面の起伏に応じて、リアルタイムに駆動用モーターのトルクコントロールを行う。これにより、路面からのピッチ挙動を低減することができる。

 例えば、フロントタイヤが路面から入力を受けると、通常は車両がリフト(車両前部が上がり後部が下がる状態)する。この時にモーターの駆動力を弱めることで、アンチリフト(車両前部が下がり後部が上がる状態)方向に車両をコントロールするというもの。

 逆に車両がダイブ(車両前部が下がり後部が上がる状態)では、モーター駆動力を強めて、アンチダイブ方向へ車両をコントロールする。

 これにより、車両の前後方向の揺れ(ピッチ)が低減され、乗り心地が良くなるのだ。

 乱暴にわかりやすく言うと、クルマがアクセルを踏んだ時のように「ふんぞり返る」状態のときには、ブレーキをかける要領で車両を前に「つんのめらせ」て、車体の水平を保つ。クルマがブレーキをかけたときのようにつんのめったら、モーターで加速させて水平をとってくれるのだ。

 これをドライバーに加減速がほとんど伝わらないように行うのが、バネ上制振制御のすごいところ。車両姿勢の安定は、タイヤの接地性を高めることにもつながり、操舵フィールも高まる。

 バネ上制振制御は、乗り心地と走りの良さに直結する魔法の技術と言えるだろう。

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■セダンでも体感できる制御の差! 姿勢変化の大きいミニバンならなお効くぞ

2012年登場の14代目トヨタ クラウン。ハイブリッド車でバネ上制振制御を採用し、ガソリン車よりも格段に乗り心地がよかった

 恥ずかしながら筆者は、バネ上制振制御のことを、21系クラウンの発売後に行われた営業スタッフ向けの研修で知った。

 研修前にクラウンのガソリンとHEVの試乗車が店舗にあり、乗り比べをするとHEVの方がどっしりとしていて、明らかに乗り心地が良いのを体感できたのだ。

 乗り心地の良い理由はバネ上制振制御の賜物だと説明されるまで、「HEVだからバッテリーの分で重くて、どっしりしているのかな」くらいに思っていた。機能を知らなくても、その差は歴然と感じることができる。

 特に車体が重く、重心の高いミニバンでは、この制御の有り無しで乗り心地や車酔いのしやすさが大きく変わってくるのだ。アルヴェル・ノアヴォク・シエンタなど、ガソリンとHEVを併売しているトヨタミニバンを買う際には、ぜひバネ上制振制御のすばらしさを試乗の際に感じてほしい。

 HEVとガソリン車の違いは、燃費差をフィーチャーしがちだが、こうした乗り心地の差も考慮に入れると、30万円程度の価格差も、より小さく見えてくるのではないだろうか。家族のためのミニバンをトヨタで買うなら、バネ上制振制御搭載で乗り心地の良いハイブリッドモデルを強くおすすめしたい。

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