D型や楕円型、上下端がない飛行機の操縦桿のような形状など、多様な形状をしている昨今のクルマのステアリングホイール。形状だけでなくその太さも変わってきており、以前と比較して、2倍くらいはあるんではないかというくらい、昨今のステアリングホイールのグリップは太くなってきている。なぜステアリングホイールは太くなったのか。そしてそもそも、ステアリングホイールは細いほうがいいのか、太いほうがいいのか!??

文:吉川賢一/写真:TOYOTA、HONDA、NISSAN、MITSUBISHI、Mercedes-BENZ、BMW

軽やコンパクトカーも含め、全体的に太いグリップへとシフトしてきている

 軽自動車やコンパクトカーでは比較的細めのグリップが多く、スポーツタイプのクルマには太めのグリップとなっていることが多いクルマのステアリングホイール。同一車種でも、ノーマルグレードとスポーツグレードとで、ステアリングホイールの径やグリップの太さなどが違うものもある。

 また、メーカーによってもグリップ太さの特徴は若干あり、たとえば、トヨタや日産、ホンダのベーシックなクルマは中間的な太さをしているが、マツダは「馬に乗ったときの手綱を引く」イメージにコクピット周りを近づけているそうで、比較的細めのグリップだ。

 ただ、昨今はその全体が、太めのグリップへシフトしてきている。(太さではなく)ステアリングホイールの直径については、パワーアシストが同じならば、テコの原理によって、直径が大きいほど軽い力で回すことができ、小径になると操舵力は重たくなる。また、ギア比が同じならばタイヤの向きを変えるための動作は、直径が大きいほど増え、直径が小さいと、わずかな動作で回すことができるが、グリップの太さに関しては、太さによってステアリングホイールを回す力に明らかに違いがでる、というわけではない。

ノートオーラのステアリングホイール。グリップは一般的な太さだが、本革素材によってハンドル操作は滑りにくい
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人間工学の成熟によって、ある程度の太さがあったほうがいいことがわかってきた

 グリップが太くなってきている理由のひとつは、人間の手の開き方に関する人間工学の研究が成熟したことで、握りこむことなくステアリングホイールを回すには、ある程度の太さが必要だとわかってきたためだ。握ってしまうと自然と力がはいってしまうため、力をいれずにステアリングホイールを回すことができる太さを求めた結果、ある程度の太さが必要だとわかってきたのだ。

 またもうひとつの理由が、ステアリングホイールに機能操作スイッチやバイブレーション機能、ヒーター機能などの装置が仕込まれることが増え、かつてのような細めのグリップのステアリングホイールをつくることが物理的にできなくなってきたためだ。最近のクルマに搭載されているADASは漫然運転になりやすいため、ステアリングホイールの振動でドライバーを覚醒させるバイブレーション機能はもはや必須、またBEVではエアコンのスイッチをいれると航続距離がガクッと減るため、冬場でもステアリングホイールのヒーターでしのぐことも少なくない。これらの機能をステアリングホイールに持たせるためには、かつてのような細いステアリングホイールでは成り立たないのだ。

 こうした理由によって、昨今の自動車はどこも似たような、「やや太め」のグリップに落ち着いている。ちなみに、ここ40年の日本人の平均身長はほぼ変わっておらず、手や指のサイズも極端に変わったという記録はない。

N-BOX JOYのステアリングホイールのグリップはやや細め。本革巻きで滑りにくい素材を使っている
マツダ3のステアリングホイール。グリップ部分は比較的、細めに作られている

軽く握ったときの隙間に合うのが相性のいい太さ ただ、最終的にはユーザーの好み

 ただ、手の大きさは人によって違う。手の小さい人だと「太すぎて操作しづらい」という車種もなかにはあるだろう。最適なグリップ太さは、手を軽く握ったときにできる、親指と人差し指の隙間と同じ太さだといわれている。この隙間にステアリングホイールのグリップが収まると、握り込む力はいらずにハンドルが手に収まるため、もっとも自然なフォームとなる。これよりも細くても太くても、筋肉には負荷がかかり、疲れやすくなってしまう。

 ただBMWは、太めのグリップのほうが、ステアリングホイールと手のひらが触れる面積が増えるため、滑りにくく、繊細な操作が可能で、なおかつ疲れにくい、としている。実際にBMWのクルマは全体的に太めで、特に、Mスポーツ仕様は極太グリップだ。

 筆者は最近、3シリーズ(G21型)のMスポーツに乗り換えた。初見では驚いた極太グリップだが、BMWの言う通り、手とグリップの隙間が減ったことで自然と手が密着するようになったせいか、以前よりもステアリングホイールをきちんと握るようになった。ただそのため、重ための操舵力もあいまって、ハンドル操作による疲れが増えた。筆者としては、もうちょっと細くてもよいのでは、と感じている。

 外径や太さの他にも、断面形状や表皮の素材、縫製方法、劣化の具合など、様々な要因によって、操作しやすさは変わってくるが、BMWの見解と筆者の感じ方が違うように、ステアリングホイールのグリップ太さは、最終的にはユーザーの好みだと思う。クルマを購入する際は、新型車でも中古車でも、少なくとも一度は運転席には座って、ステアリングホイールのグリップ太さや表皮素材などを確認してから、購入を決めるようにしてほしい。

BMW3シリーズ Mスポーツのステアリングは全体的に太め。10時10分あたりのグリップ部分が非常に幅広くなっている

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