マツダのミドルクラスSUV、CX-60の販売が伸び悩んでいる。発売から7年も経っているCX-5よりも売れていないのだ。CX-60はなぜ売れていないのか、その理由に迫ってみたい。

文:渡辺陽一郎/写真:ベストカーWeb編集部、マツダ

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■マツダの国内販売台数が不振

2012年12月に初代が登場し、2017年に現行型へとモデルチェンジしたCX-5。こちらは直4エンジンを搭載し、駆動方式はFF

 2024年度上半期(2024年4~9月)におけるマツダの国内販売状況を見ると、昨年度の上半期に比べて22%減った。国内市場全体は3%のマイナスだから、マツダは減り方が大きい。国内市場におけるメーカーの販売ランキングは、上からトヨタ、スズキ、ホンダ、日産、ダイハツと続き、マツダは6位だ。

 マツダの国内販売台数が昨年度の上半期に比べて22%減った背景には、複数の理由がある。まずは国内におけるマツダの最多販売車種になるマツダ2の不振だ。

 コンパクトカーは売れ筋カテゴリーで、各メーカーとも国内で販売台数を稼ぐ基幹車種を投入するが、マツダ2は2024年度上半期の1か月平均が約2000台に留まった。1か月平均が約2000台の販売実績は、エクストレイルやジムニーシエラと同等で、ルーミーの28%に過ぎない。マツダの国内販売1位がこの台数では辛い。

 マツダの国内販売2位は、ミドルサイズSUVのCX-5だ。マツダを支える重要な車種で根強い人気を得ているが、現行型は発売から7年を経て、古さを感じる。そのために前年度の上半期に比べると、国内の売れ行きが20%以上下がった。2024年度上半期の1か月平均は約1600台だ。

 マツダの国内販売3位は、コンパクトSUVのCX-30。発売から約5年を経て、これも売れ行きが先細りになった。2024年度上半期の1か月平均は約1100台で、売れ筋カテゴリーのコンパクトSUVでは少ない。シビックを下まわった。

 ちなみにマツダでは、先代CX-5を皮切りに、2012年から魂動デザインとスカイアクティブ技術に基づく新世代商品のラインナップを充実させている。これらのマツダ車は、外観がカッコ良く、内装も上質で走行性能も優れている。運転感覚も楽しく、クルマ好きのユーザーから歓迎された。

 ところが近年は、前述の通り設計の古い車種が増えた。CX-3も発売から10年近くを経過して、マツダ3も5年以上を経た。設計の古い車種が増えると、売れ行きが伸び悩んで当然だ。特に国内で人気のカテゴリーとされるコンパクトカーのマツダ2、コンパクトSUVのCX-3やCX-30が落ち込むと、マツダの国内販売全体に悪影響を与えてしまう。

 そして設計の古い車種だけでなく、CX-60も伸び悩む。発売は2022年9月だから、マツダ車では設計が比較的新しい。それなのに2024年の1か月平均は約600台と少ない。発売時の国内販売目標は1か月当たり2000台だったから、実際の売れ行きは目標の3分の1だ。発売直後の2023年時点でも、1か月平均は2000台弱だから目標を割り込み、2023年はますます低下した。

■CX-60の評判

CX-60のボディサイズは全長4740×全幅1890×全高1685mm。ホイールベースは2870mm

 なぜCX-60は低迷するのか。販売店に尋ねると「乗り心地が硬い、変速ショックが大きいとお客様から指摘され、CX-60の売れ行きにも影響を与えた」という話が聞かれた。

 この背景には、SNSの普及も影響しているだろう。購入したり、試乗した人達がSNSで発信すると、情報が幅広く共有される。特にマツダ車に関心を寄せるユーザーには、クルマ好きが多いため、SNSでもクルマ関連の情報を積極的にチェックする。そうなるとCX-60の欠点に関する情報も拡散されやすい。

 また乗り心地は、走行中は常にすべての乗員が体で感じている。エンジンの吹き上がりが分かるのはドライバーで、実感するのも峠道や高速道路の進入時に限られるが、乗り心地は違う。したがって売れ行きを左右しやすい。

 もうひとつの理由として、乗り心地が小回りの利きや車内の広さと違って感覚に基づくことも挙げられる。味覚にも似て、大勢の人達が「硬い」と指摘しているのを知っていると、自分もなんとなく硬いように感じてしまう。

 特に今のクルマは、走りに関係する欠点を見つけにくい。走行安定性が悪かったり、動力性能が著しく低いクルマはほとんどない。そのために欠点の指摘対象が、乗り心地、ステアリングの操舵感、エンジンの回転感覚、トランスミッションの変速ショックなど、感覚的な部分に偏りやすい。その結果、クルマ関連の媒体を含めて、乗り心地が欠点として指摘されやすい。

■CX-5とCX-60を改めて比較してみる

CX-5のボディサイズは全長×全幅×全高:全長4575×全幅1845×全高1690mm、ホイールベース2700mm

 このほかCX-60の販売が低調な背景には、CX-5との機能的な重複もある。CX-60の駆動方式は、後輪駆動とこれをベースに開発された4WDで、エンジンは縦向きに搭載する。そのために前輪駆動の横置きエンジンでは困難な直列6気筒3.3Lクリーンディーゼルターボも設定できた。

 ボディサイズにも違いがある。両車を比べると、CX-60の全長はCX-5よりも165mm長い。ホイールベースも170mm上まわる。それなのに車内の広さはあまり変わらず、身長170cmの大人4名が乗車した時、後席に座る乗員の膝先空間は両車とも握りコブシ2つ分で同等だ。

 荷室容量も、CX-5は522L(サブトランクを含む)、CX-60は570Lとされる。リアゲートの開口幅はCX-60が少し広いが、荷室の広さに大差はない。

 このようにCX-60の全長とホイールベースがCX-5よりも長いのに、車内の広さが同程度になる理由は、CX-60が後輪駆動を採用してボンネットが長いためだ。CX-60が全長を165mm伸ばした内、120mmくらいはボンネットの拡大に費やされた。そのためにボディが大きい割に、居住空間や荷室はあまり広がっていない。

 その一方で価格はCX-60が割高だ。CX-60・25S・Sパッケージ(322万3000円/2WD)と、CX-5・20S・ブラックトーンエディション(323万9500円)を比べると、価格はほぼ同額だが、装備はCX-5が充実する。

CX-60のコクピット

 CX-60に標準装着されない後方の並走車両を検知して知らせるブラインドスポットモニタリング、ハイビームを保ちながら対向車などの眩惑を抑えるアダプティブLEDヘッドライト、運転支援のレーンキープアシスト、渋滞時の運転をラクにするクルージング&トラフィックサポート、リアゲートの電動開閉機能、運転席の電動調節機能、前席のシートヒーターなどがCX-5には標準装着される。

CX-5のコクピット。特別仕様車のレトロスポーツエディションを含め、さまざまな仕様が用意されている

 エンジン排気量はCX-5が2L、CX-60は2.5Lという違いがあるが、実用重視のユーザーにはCX-5が買い得、CX-60は割高と受けとられる。

CX-60のフロントシート

 以前の3列シートのCX-8は、CX-80の発売前に廃止されたが、CX-5とCX-60は実用性が同程度なのに併売されている。そのために人気と売れ行きが二分されてしまった。

 以上のようにCX-60とCX-5を比べると、走りのメカニズムや運転感覚は異なるが、居住性や積載性は同等だ。しかも価格はCX-60に割高感が伴う。外観はCX-60のボンネットが長いものの、魂動デザインだからCX-5と比べて大きな差はなく、ユーザーを奪い合っている。CX-60では不利な条件が重なった。

テラコッタ×ブラックを基調としながら、どこかセンスの良い大人の趣味部屋のようなCX-5のインテリア。とはいえマツダ車のインテリアは総じてオシャレ

 しかし、朗報が入ってきている。2024年10月10日に発売を開始した新型CX-80の知見を活かしたマイナーチェンジが行われ、乗り心地やシフトショックなど指摘されているネガティブな部分が改良されるという。そのマイナーチェンジモデルはどのようなモデルになっているのか、しっかり改善しているのか、期待して待ちたい。

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