ダンロップタイヤの住友ゴムが7月22日に発表した「SYNCHRO WEATHER(シンクロウェザー)」。大谷翔平選手をメインキャラクターとしたことからもわかるように、オールーシーズンタイヤとはいうものの、厳しい冬の凍結路から、ドライの舗装路面まで、さまざまな路面コンディションで一流の高い性能を発揮するのがポイント。10月1日より販売が開始されたシンクロウェザーの総合力の高い性能とは、実際どんなものなのか? 試乗レポートを交えてお伝えしよう。

文/梅木智晴(ベストカー編集委員)、写真/住友ゴム工業、ベストカー編集部

厳冬の旭川で実感したシンクロウェザーの冬タイヤ性能

2月の北海道旭川市郊外でシンクロウェザーの冬タイヤとしての高い性能を確認した

 真冬、旭川のテストコースでシンクロウェザーの氷雪路性能を確認した。比較としてスタッドレスタイヤの「WINTER MAXX02」(WM02)、オールシーズンタイヤの「ALL SEASON MAXX AS1」が用意された。

 結論から言えば、シンクロウェザーは圧雪路面、氷上路ともにスタッドレスタイヤのWM02とほぼ同等の安定したグリップと制動性能を発揮し、オールシーズンタイヤのAS1を圧倒的に凌駕する性能を見せつけた。これはかなりの驚きだった。

一般的なオールシーズンタイヤが苦手とする凍結路面でもシンクロウェザーはしっかりとグリップ力を発揮する

 一般的なオールシーズンタイヤは、圧雪路面やシャーベット路面では充分なトラクションやブレーキング性能を発揮するが、凍結路面は苦手。タイヤメーカーでも凍結路面での使用は「推奨せず」としているケースがほとんどだ。しかし、シンクロウェザーは表面がツルツルに磨き上げられたミラーバーンでもしっかりとしたグリップ力を発揮するのだ。ここがシンクロウェザーの驚きの性能の第一弾だ。

ドライ路ではプレミアムコンフォートタイヤよりもしっかりと走る!!

 サマータイヤとしての性能はダンロップのプレミアムコンフォートタイヤ「ル・マン5+」との比較で行った。ル・マン5+はソフトな接地感で穏やかな操縦性が特徴的で、乗り心地がよく、静かなタイヤだ。

V字型トレッドパターンのタイヤでは、どうしても“シャー”という高周波のノイズが出がちだが、シンクロウェザーはこのノイズがしっかりと抑えられているのが印象的

 シンクロウェザーで走り出すと、ル・マン5+に対しやや硬さを感じさせる乗り味だが、V字パターンから連想させるような“シャー”といった高周波のパターンノイズはよく抑えられている。さらに速度を上げていってもタイヤ由来のノイズはしっかりと抑えられていて、高速巡航でもストレスは感じない。

 100km/h、さらに120km/hでの直進性も安定しており、微小舵を与えた際の反応も手応えがあって安心感がある。この速度域で危険回避を想定した、やや強めのレーンチェンジを試してみた。ル・マン5+と比較すると後輪の追従性に若干の遅れと揺り戻しを感じたものの、単体で評価すれば充分に高性能。コーナリング時のグリップや操縦安定性など、一般的なサマータイヤとしての安心感を実感した。

テストコースでは緊急回避を想定した急激なレーンチェンジも試したが、操舵に対する反応のよさ、収束性の安定感を実感した

 スタッドレスタイヤのWN02でもドライ路を走行したが、両者と比較するまでもなく、切り出しの反応はふにゃりとした感覚でやや遅れ、強めのレーンチェンジを試すと後輪の追従遅れと揺り戻しを感じ、速度を抑えた走行となる。

サマータイヤよりも「雨に強い」シンクロウェザーは安心感の高いタイヤだ

 驚くべきはウエット性能。テストコースの散水旋回路で定常円旋回を試すと、ル・マン5+よりも3~4km/h速度を上げ、約60㎞/h弱でもラインを外さず、安定したグリップを見せるのだ。

ダンロップのプレミアムコンフォートタイヤよりも高いウェットグリップを発揮するシンクロウェザー。雨に強いタイヤでもある

 速度を上げると水膜を切り裂いて排水し、トレッド面がしっかりと路面にコンタクトしている感覚が伝わってくる。タイヤが柔軟に接地しているため滑り出しの挙動も穏やかで、アクセルを抜くとスッとラインを戻すのでコントロールしやすいのだ。「水スイッチ」の効果をハッキリと体感した。ちなみにスタッドレスタイヤのWM02は旋回速度50km/hが限界で、その時点での手応えもかなり曖昧なものとなっていて、明らかに排水性能の限界だった。

水や温度に反応してタイヤのゴムが柔軟性を変化させる最新技術

 シンクロウェザーの技術的ポイントとなるのがアクティブトレッドと呼ばれるゴム配合技術だ。一般的にタイヤのトレッドゴムは温度が高いと軟らかくなり、低温下では硬くなり柔軟性を失う特性がある。スタッドレスタイヤは低温下での硬化を防ぐシリカや軟化剤を配合し、氷雪路でのトレッドゴムの密着性を高めるようにしている。

ゴムは温度によって柔軟性が変化するため、一般的にはサマータイヤ用とウインタータイヤ用ではゴムがそれぞれ専用設計されているのだ

 しかし、このゴムではサマータイヤとしてのガッチリとした剛性感やシャープな応答性を両立させるのは難しい。スタッドレスタイヤはブロック形状やサイプの入れ方などでドライ路面での操安性やグリップ性能を高める設計を工夫してきたが、やはり限界はある。

 そこで住友ゴムが新開発した、アクティブトレッドのキーとなるのが「水スイッチ」と「温度スイッチ」だ。

・水スイッチ

水分に触れるとゴムが柔軟性を増す。水分が抜けると元の剛性に戻るのがポイントだ

 トレッドゴムに配合されるポリマーは、通常「共有結合」と呼ばれる強固な化学的結合で結びついており、これは加水などで緩むことはない。

 アクティブトレッドではこの共有化都合の一部を加水により緩む「イオン結合」に置き換えることで、トレッドゴムが水分に触れた際に柔軟化してウエット性能を高める効果を発揮する。イオン結合は水分が抜けた際に再結合し、ゴムの剛性が復活する可逆性を有することが点が大きなポイント。

・温度スイッチ

氷雪路などの低温下ではタイヤのゴムは硬化するのだが、アクティブトレッドの温度スイッチは、柔軟性を高めるポリマーを配合する

 従来、グリップ成分はポリマーと一体だったものを、一部成分をポリマーから分離して機能する材料を新開発。常温下ではサマータイヤ同等の剛性を保ちながら、氷雪路面の低温下ではスタッドレスタイヤ同等の柔軟性を発揮するゴムとしたのが「温度スイッチ」。

 これらの新技術を組み合わせることで、夏タイヤとスタッドレスタイヤの性能を、それぞれのタイヤが望まれる環境下で適宜発揮できることこそシンクロウェザーが二刀流と言われる理由なのだ。

シンクロウェザーはまさに大谷翔平選手のような、あらゆる方向で高いパフォーマンスを発揮する。10月1日より発売を開始した

 シンクロウェザーはオールシーズンタイヤの常識を覆す意欲作だ。冬を迎える今こそ、シンクロウェザーの威力を体感できるタイミングだ。

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