いまやスマホで簡単に利用できるカーナビ。こいつが登場するのは1980年代のことだが、当時はまだ衛星による測位システムが使えなかった。そこでホンダはとんでもない苦心の末に世界初のカーナビを開発する。頼ったのはなんと「ヘリウム」だった!?
文/ベストカーWeb編集部、写真/ホンダ、マツダ
■GPSのない時代にカーナビを作った!
クルマが誕生して以来人々を悩ませてきたのが、ドライブ中に道に迷うこと。そこで長きにわたり紙の地図が重宝されてきたわけだが、1970年代に半導体が小型化・集積化してくると、クルマの移動を電子的に表示できないかという発想が生まれる。
たしかにクルマは2次元平面を走るものなので(ひとまず立体交差とかは無視で)、始点の座標とクルマの速度(向きと速さ)が分かれば移動は可視化できる。こうしてカーナビゲーションの開発が始まったわけだ。
実はこの壮大なシステムを始めて実用化したのはホンダだ。1981年、「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケーター」というシステムを、2代目アコード/初代ビガーにオプション設定した。価格は29万9000円、開発にはスタンレー電気とアルパインが協力したという。
このホンダのシステムがすごかったのは、衛星測位という仕組みを利用しなかったこと。利用しようにも当時はまだ、アメリカがGPSの電波を民間開放していなかったのだ。
ではホンダはどうしたか。同社はクルマの直進、右左折を把握するために「ガスレートジャイロ」という仕組みを使った。真空にした管の中にヘリウムガスを流し、その流れの変化を流量計で測ることで、クルマが「どっちに」「どれだけ」曲がったかを検知したのだ。
■表示装置は6インチの白黒ブラウン管!
原理は分かったが、これをどう表示したのか。
車内に設置されたのは6インチのモノクロブラウン管! こいつの前面にフィルムシートの地図を貼り付け、クルマの走行軌跡と現在位置を光の点として重ね合わせた。
当然、目的地など設定できないから、ユーザーはフィルムの地図に消せるサインペンで目的地や予定ルートを記入して、実際の走行軌跡と付け合わせてルートを確認した。地図の縮尺はシートを交換して対応、クルマが地図からはみ出たら当然地図を入れ替える仕様だった。
今からすれば、めまいがするほど原始的なシロモノだが、この技術は「人を道に迷わせない」という技術者の願いの切なる具現化だった。
1983年、大韓航空機が航路を誤り、ソ連軍機に撃墜されるという不幸な事故がおき、当時のレーガン米大統領がGPSの民間開放を決める。世界初のGPSカーナビがユーノス コスモに積まれるのは、それから9年後の1990年春のことである。
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