これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。

 当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、実用性と遊び心を両立したシルビア ヴァリエッタを取り上げる。

文/フォッケウルフ、写真/日産

■S15シルビアベースの美しいクーペ・コンバーチブル

 クルマを移動手段のひとつと考えるユーザーの場合、車種選択においてはいかに合理的であるかを重視する傾向が強い。軽自動車の売れ行きが依然として高水準であることや、1台で多彩な用途に対応できるクロスオーバーSUVの車種数が増加していることも、合理性重視のクルマ選びが主流になっている証と言える。

 こうした市場の動向を踏まえると、スポーツカーのように用途を限定するクルマを欲するのはもはや一部のクルマ好きだけであり、彼らがどんなに望もうとも選択肢が増える可能性は極めて低いと言わざるを得ない。

 そんな日本市場にもかつてはスポーツカーが一大勢力を形成し、スポーツカーがクルマ好きをときめかせていた時代があった。特に1990年代から2000年代には、バブル景気によってもたらされた潤沢な資金を後ろ盾に、最新技術を積極的に採用し、細部に至るまでのクオリティが追求されたスポーツカーが数多く生み出されている。

 たとえば、「見て、乗って、走って、エモーションを感じる軽快コンパクトなスポーティクーペ」を開発テーマに掲げ、1999年にデビューを果たしたS15型シルビアも90年代を代表するスポーツカーであり、自動車史にその名を刻んでいる。素のシルビアでもクルマ好きを魅了したが、シルビアをベースにモディファイを施した、マニア心をくすぐるクルマが存在した。

 今回クローズアップするのは、走りのよさで支持されたS15型シルビアのスペックSをベースにファッション性をプラスしたオープンモデル「シルビア コンバーチブル ヴァリエッタ」である。「遊び心溢れるオープンカーに快適さを備えた、自在に変化を楽しめる、スポーツクーペ」をコンセプトに、爽快さと快適さを両立させたオープンモデルとして話題となった。

2000年7月にシルビア(S15型)のオープンモデルとしてオーテックジャパンが製作。正式な車名は「シルビア コンバーチブル ヴァリエッタ」だが、「シルビア ヴァリエッタ」と呼ばれることが多い

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■スタイルの変化を自在に楽しめる

 シルビアのオープンモデルといえばS13型にもラインアップされていたが、同車のルーフは電動ソフトトップだった。「ヴァリエッタ」では、ソフトトップではなく、メルセデス・ベンツSLKに採用されて流行の兆しを見せつつあった電動開閉式のメタルルーフを国産車として初めて採用したのが大きなトピックだ。

低くスラントした前進感のあるフードと、前傾したリアピラーによる流れるようなキャビンで走りのイメージを表現したベース車のスタイルを継承しながら、電動開閉式メタルルーフを採用したスタイルは斬新で美しい

 オープン時にはルーフを完全にトランクルームへ収納して美しいロングデッキプロポーションを実現し、ルーフを閉じると美しいクーペスタイルとなる。誰でも気軽にクーペとオープンの自在なスタイルチェンジが楽しめること、さらにソフトトップよりも遮音性、遮熱性、防盗性に優れているというメタルルーフならではの特徴をセールスポイントとしていた。

 ルーフの開閉操作はシンプルで、車内に設けられたルーフ前部のロックを手動で解除したあと、ルーフ開閉スイッチを押し続ける。するとフロントのドアガラスとリアサイドガラスが下降しながらトランクリッドが全開になる。そしてルーフが自動的にふたつに折りたたまれ、後方に移動したあとトランク内に格納されてトランクリッドが閉まる。

 操作に要する時間が約20秒と短時間であることや、トランク内に干渉物があるときにはルーフが作動しない安全対策も現在では決して珍しいものではないが、ソフトトップが主流だった当時としては画期的な機構だったことは間違いない。

 居住空間は2+2のレイアウトを採用。フロントシートのメイン部には、世界で初めてモルフォ蝶の鱗粉が持つ発色原理を応用したモルフォテックスをシートクロスに織り込んだモルフォトーンクロスとした。

 繊維が光の干渉することで発色する特殊な表皮は、濁りのない澄んだ色が得られるうえに見る方向によって光の干渉度が変わり色調が変化する。これがヴァリエッタの特別感を一層際立たせ、ユーザーに所有する優越感をもたらしてくれた。

■走りは爽快感と優雅さを重視

 走行性能についてはベース車の能力を継承している。パワーユニットは排気抵抗低減を図ることで出力向上を果たした2L直列4気筒ツインカムエンジンSR20DEを搭載。トランスミッションは4速ATと5速MTが選べた。スペックはAT車とMT車で異なり、AT車は最高出力160ps/最大トルク19.2kgm、MT車は最高出力165ps/最大トルク19.6kgmというパフォーマンスを発揮した。

 オープン化にともない、車重はベース車比で約130kg増となっているが、これに合わせて足まわりは専用セッティングが施され、同時にブレーキも強化されている。走りに特化した能力を有しているわけではないが、オープンカーならではの爽快感と優雅さは存分に味わうことができた。

フロントシートメイン部に、モルフォ蝶刺の鱗粉の発色原理を応用したモルフォテックス遡をシートクロスに織り込んだモルフォトーンクロスを世界初採用

 車両価格は、5速MT車が279万8000円、4速AT車が289万5000円となかなかの高額。それもあって、2000年に登場して2002年にモデル廃止するまでの生産台数は1120台と、販売的に成功したとは言い難い。

 それでも、美しいオープンスタイルとクーペスタイルを自在に楽しめる日本初の電動メタルルーフを持つ電動メタルルーフ版シルビアは、RV車が隆盛を極めつつあるなかで、スポーツカーの楽しさや魅力を強烈に印象づけた。

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