鉄道が廃止されると代わりに路線バス(代替バス)が走るようになるのは定番の流れ……だったのも昔の話となりつつあり、その代替バスまで廃止になる場所が出てきた。代替バスなき後も、そう遠回りせずに通り抜ける手段は残っているのか、洞爺湖周辺の最近のバス事情を見に行ってみると…!?

文・写真:中山修一
(洞爺湖をとりまく路線バスの写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)

■2022年廃止の「道南バス胆振線」

伊達紋別駅隣のバス停から出発していた道南バス胆振線

 その昔、北海道の伊達紋別〜倶知安間およそ83kmを結ぶ、国鉄胆振線という鉄道路線があった。晩年はまったく利益を出せない超赤字路線だったため、JRに引き継がれることなく1986年11月に廃止された。

 国鉄胆振線が廃止になると、世界的に有名な観光スポットである洞爺湖を中心に置いた場合、湖の東側を大回りしながら北西方面を目指す、鉄道時代とほぼ同じ経路を描く、道南バスの代替交通「胆振線」が運行を始めた。

 それから36年ほどの間は存続していたものの、路線バスでも採算の取れない状況は変えられず、最も利用率が低いとされた、途中の24.3kmの区間が2022年9月に廃止になってしまった。

■バス廃止からどうなった?

 道南バス胆振線の一部区間が廃止されて2年ほど経つ。2024年5月現在は路線が分断されているため、同じ場所を公共交通機関だけで通り抜けるのは極めて難しいというか、やめておいた方が安全安心。

 では、JR線の伊達紋別駅や洞爺駅をスタート地点にして、洞爺湖の方を経由しながら倶知安ないし札幌方面に行こうとした場合、交通手段が今も残されているかどうかが気になるところ。

インバウンド客に人気の洞爺湖

 とりあえずアプリで軽く検索をかけてみると、意外とあっさり候補が出てきた。胆振線とは殆ど関係ない経路になるのは仕方ないとして、洞爺湖の西側を回って北上する路線バスが出ているらしい。

 それを使うと途中の「喜茂別」乗り換えで倶知安方面、そのまま乗っていけば、なんと定山渓や札幌まで直通してくれる。道南バス「札幌洞爺湖線」と言う明快な路線名も手伝って、なかなか便利そう。

■洞爺湖を必ず通ります

 そんな「札幌洞爺湖線」に興味を持って乗ってみたくなり、ちょっと行ってみることにした。まずは洞爺湖周辺のバス停まで行く必要があり、観光利用なら洞爺湖温泉のターミナルが分かりやすい。

 伊達紋別駅にも洞爺駅にも同じ路線バスが通るため、どちらから乗車しても結果は変わらない。洞爺駅前から利用すると洞爺湖温泉まで24分くらいだ。

湖畔から少し離れた所にある洞爺湖温泉のバスターミナル

 事前にバス時刻表サイトや乗り換えアプリで見た情報によれば、札幌洞爺湖線は1日4本と本数がかなり少ない。確実な乗り換えをしないと大変なことになるので、ある程度の時間を狙って行った。

■聞いてないんですが……

 洞爺湖温泉に着いて、念の為バス停標識に掲示されている時刻表に目を通す。事前情報通りの時刻に出発予定……だけれども、時刻の隣に漢字が添えられているのに気付いた。「予」って何すか?

 さらに時刻表の注釈を見ると「予約制」の文字が。時刻表の下に貼ってある完全予約制の告知、もしかして札幌洞爺湖線のことを言ってる!?

自分が当事者だと気づくと恐ろしい貼り紙

 2024年5月時点では、時刻表サイトや乗り換えアプリでは、予約制などの但し書きが付かない、ごく普通の路線バスとして表示された(7月時点も同様)ため、フラッと行って乗れるものだと思っていたら寝耳に水もいいところ。

 しかも予約は2時間前までに電話連絡という、なかなかどうして現地で背中刺してくるシステム。もう出発20分前なんですが。

 洞爺湖温泉ターミナルに入っている案内所で聞いてみたところ、最近予約制になったそうで「オーバーツーリズム対策ではないか」とのこと。

 ちなみにその数日後、洞爺湖からだいぶ離れた場所で、2023年12月25日から、札幌洞爺湖線を含む5つの路線が完全予約制にシフトする予告のポスターを見つけた。重要な情報ほど後になって知るのは世の常だ。

■どうすりゃいいのよ?

 洞爺湖から内陸部を通って、倶知安または札幌方面に抜けられるバスは札幌洞爺湖線しかないため、オーバーツーリズムという言葉に、恨み節を5時間くらい投げつけそうなほど困った状況。

 結局バスが満員なら条件はどれも変わらないと言えど、公共交通が物凄く細い場所で知らずに「予約制」を目の当たりにするほど怖いものはないぜ……。

 こういうときは所轄の営業所に電話をかけて直接交渉するのが早い。そうしたところ「席が空いていれば大丈夫」と、どうにか首が繋がりそうな方向に転んでくれた。直近の便だと営業所では対応できないので乗務員に直接聞いてほしい、とも話していた。

札幌行きの札幌洞爺湖線がターミナルに入ってきた

 札幌洞爺湖線のバスがターミナル内に入ってくると、案ずるよりも何とやら。その日の利用は10人ほどで、予約を入れていない旨を伝えるだけで普通に乗れたので、(たまたま)どうにかなった次第。車両はハイデッカータイプの高速車が使われており快適だ。

■代わりっちゃ代わりか

 さて、札幌洞爺湖線が道南バス胆振線の代替機能を持っているかどうかに注目すると、経路こそ違えど以前のように同じ起点/終点を目指す唯一の橋渡しになっている点を考えれば、代替バスの代替バスと言えそうだ。

当日は2014年式の三菱ふそうエアロエースが充当

 ただし、高速バスに乗れない路線バス旅と似た要領で、手続きが必要な予約制のバスを、何も言わず自由に使える一般路線バスとは似て非なる乗り物に見立て、利用対象外に設定するなら、洞爺湖周辺を経由した通り抜け手段は皆無になった、とも取れる。

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