トラックの運転席で過ごすことが多いドライバーさんですが、食事や休憩、トイレなんかは、いつもどうしているんでしょう?

 業種によっても全然ちがうと思いますが、今回は元自衛官という経歴を持つ女性トラックドライバー、迦月さんにその生活実態をお聞きした。

文/航空貨物ドライバー・迦月さん、写真/迦月さん・トラックマガジン「フルロード」編集部
*2019年3月発売「フルロード」第32号より

トラックドライバーのトイレ事情

都市部ではクルマがデカとトイレ休憩もままならない。特に女性で大型ドライバーのトイレ事情は切実だ

 普通なら特別な事情なんて発生しない「食べること」「休むこと」が題材となってしまう我らの職業事情、切り込んで行くと、いろんな問題が見えてきそうです。

 まず、まっ先に挙げたいのが「トイレ事情」。生理現象なだけにどうしようもないんですけど、用を足すことにこんなに苦労する職業ってなかなか無いんじゃないでしょうか。特に大型トレーラの運転手にとっては……。

 地方に行けば大きな駐車場があるコンビニはありますけど、大都市圏だとそんなものはほとんど無く、都心に至ってはもはや皆無。以前、東京で海コンの仕事をしていた時は、トレーラでも入れるコンビニ・スタンド・高速のPA等を全部考慮した上で、行ける時は必ずトイレに寄るようにしていました。

 そして水分調整。夏は熱中症の問題もあるのでやりすぎは禁物ですけど、翌日の配車がわかった時点で、「この配達先だと○時間はトイレに行けないな」と計算して、水分を取るのを控えるようにしていました。

 飲料の種類にも気を配ります。利尿作用のある飲み物ってあるんですけど、自分の体質によってトイレが近くなりやすいものもあって、私の場合は主に外国産の硬水や一部の紅茶飲料等ですね。そういうのを避けるようにしていました。

 それでもどうしても我慢できなくて、路駐してお店のトイレを借りに行くこともあったし、場所によっては渋滞発生の原因にもなる。それで駐禁切られたりしたら目も当てられない。

 この辺、緑色の制服を着た人達にはもう少し考えて欲しいと思いますね。停められる駐車場があるなら、お金払ってでも、と思っているのはこっちのほうなんですから……。

ドライバー特権をフル活用!? 迦月さん流の楽しみ方

 そして食事や入浴なんですが、えーと、時間が無いからこの2つを省くというのは、私にはできません(笑)。

 まず、この時間を考えた上で走り方を決めます。もちろんトラックを停めてゆっくり食べるのがむずかしいなら、おにぎりやパン等、走りながら食べられるものを選びます。だから食事はコンビニで調達することが多いんです。

 でもね、遠方に走った時は話が別。今は航空貨物の仕事をしていますけど、早朝から一日地場仕事で走りっぱなしの挙句、翌朝着の遠方とか普通にあるんです。出発が深夜だったりすると寝る時間なんて全く無い。その上、夜積みで呼び戻されると、1日で走る距離は軽く1000kmを突破します。

 それでもご当地ものの食事や温泉は欠かしません。だってこれが楽しみで劣悪な条件でも今の仕事続けているんですもの、私。

迦月さんが寄ったトロトロの湯で有名な宮城・鳴子温泉郷のしんとろの湯

 もっとも、これは今乗っているトラックが3t車だからこその利点でもあるんですけどね。大型以上のクルマになるとよほど広い駐車場がある店、もしくは道の駅や高速のPA・SAくらいしか選べませんから……。

 仕事第一の方から見たら怒られるかもしれないけど(もちろん私だって仕事第一ですが……)、遠方の配達が出て、まず最初に思うことって「明日、何食べよう」なんですよ。

 宮城なら「牛タン食べよう」、秋田なら「横手やきそば食べよう」、信州なら「お蕎麦食べよう」、北陸なら「ぶり食べよう」とか、そんなのばっかり(笑)。

 当日中に戻るのが無理なところなら、ちょっとした観光までしてその土地にお金を落とします。広島に行った時なんて呉で大和ミュージアムに行き、尾道でラーメン食べて温泉に入ったり……。翌朝までには戻らなくてはいけないから、ちゃんと考えた上で走りますけどね。

生活リズムが崩れやすいからこそ守るべき大切なこと

 こんなことしていると「真面目に仕事してない」って言われそうだけど、ここからが本題です。

 私は定期の長距離ではありませんが、このような仕事のため、ほとんど家に帰れていません。幸い空港から自宅が近いので、シャワーだけでも一旦帰宅していますけど、自宅でゆっくり過ごせるのって週末くらいです。

 遠方に出ても4t未満だと帰り荷がほとんど無いので、すぐにトンボ帰り。走って、積み降ろししている以外の時間は、仮眠・入浴・食事以外まったく取れないことが珍しくなくなります。

 するとどうなるかというと、間違いなく精神が病んでくるんですよ。自分の空間は狭いキャビンの中(しかも2t車ベースってラウンドカーテンありませんし)、好きなことをする時間もないし、仕事とプライベートの区別もつかない。

 ようやく休日に自宅に帰れても、疲労のあまり寝て一日が終わり、また仕事に戻る。いくら好きな仕事でも、「楽しい」とか「やりがい」とか、全く感じなくなります。

 起きているのがやっとの状態で走っていると、心が低空飛行のまま自分が辛くなっていることにも気づかなくなるほどに、人としての感情が動かなくなる。そして私の体験上、病んでくる時って必ず入浴に無頓着になってきます。

 入れるのに面倒だから「フロ入らなくていいや」ってのは、実はけっこうヤバいんですよ。だからこそ、食事や入浴ってすごく大切。私はこういう時は意識的に「今、自分は何をしたら気分良くなれるか」に目を向けます。

 とりあえず何かを食べる、とりあえずスタンドでシャワーを浴びる。その「とりあえず」をやめるんです。

仙台寄ったらとりあえず牛タン!! 忙しさの中にもこうした楽しみを見つけることが良い精神状態を保つヒケツ

 私のようにご当地グルメを楽しんで温泉に入るというのがむずかしい人も多いでしょう。でもそれができなくても、今の条件の中で最善を尽くす。コンビニ弁当でも自分が食べたいと思えるものを選ぶ。

 シャワーで済ますにしても、心地良い香りの石鹸や肌触りの良いタオルを選ぶ。そして何より大切なのは、自分がちゃんと「おいしい」「心地良い」と感じていることに意識を向けて、しっかりと味わうこと。

 これを意識的にやっていると、常に自分が心地良いと認識できるようになり、かなり精神状態がまっとうになります。幸い、この仕事って運転している時は割と自由でいられるでしょう。

 できる範囲で構わないから、おいしい物を食べる、好きな音楽を聴く、良い香りと思える芳香剤や香水を使ってみる等、意識的に自分が心地良いと思えるほうに日常をシフトして行くと、ストレスだらけの自分の「気」を上げることができます。

 そうすると、たとえば渋滞でもイライラしにくくなったり、配達先の感じの悪いお客さんを相手にしても軽く流せるようになったりと、ストレスへの耐性がついてきます。

 スピリチュアル的によく言う「波動を上げる」ってのは、胡散臭いことでもなくて、自分を心地よく機嫌の良い状態にすことで、周りからも「感じの良い人」と見られるようになり、それが高じて日常の運気まで変えることができる、「自分に対する気遣い」なんです。

 だから、食べること・休むことをおろそかにしちゃいけない。そこから軌道修正して、人生すら変えていくことができるんですから……。ゆっくりできる自分の時間がないままに、頑張って走っているドライバーの皆様が今日も健やかでご安全でありますよう祈っています。

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