イタリアのイヴェコと中国の北汽福田汽車は、欧州・南米市場の小型EV商用車分野などでの提携に向けて覚書を交わした。覚書に拘束力はないが、急拡大が見込まれる欧州の小型商用車市場に中国メーカーが本格参入すれば競争の激化は避けられない。
日本の商用車/乗用車メーカーも一定のシェアを持っている市場だけに、その動向に注目する必要がありそうだ。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Iveco Group NV.・北汽福田汽車・フルロード編集部
イヴェコと福田汽車が提携に向けて覚書
イタリアの大手商用車メーカー・イヴェコと、中国のBAIC(北京汽車集団)傘下の商用車メーカー・福田(フォトン)汽車は、2024年6月4日、電気自動車(EV)およびコンポーネント分野における提携に向けて覚書(MoU)に調印した。欧州市場と南米市場で共同事業を目指している。
覚書には拘束力がなく、互恵的なパートナーシップによるエコシステムを通じて、イヴェコと福田がそれぞれの戦略を推進し、競争力を強化し、エネルギーの移行に際してグローバルに必要とされている革新的なソリューションを創出することが目的とした。
両社は商用車の変革には様々な経路があるというコミットメントを共有しているという。つまり、純電動、ハイブリッド、水素燃料電池など、様々な新エネルギー技術を追求するということだ。
福田は車両総重量(GVW)4.5トン級の小型トラックなどで既に欧州市場に進出しているが、欧州大手のイヴェコとの提携が実現すれば、その販売・サービスネットワークを活用することでグローバル市場におけるプレゼンスは大きくなるだろう。乗用車では電動化が中国メーカーの欧州進出を後押しする形になったが、商用車においても同じ道を辿ることになるかもしれない。
いっぽうのイヴェコには、商用車のラインナップをより小型の車両にまで拡大する狙いがあり、グループの包括的な電動化戦略の一環となる。
イヴェコは欧州の商用車メーカーには珍しく小型商用車を製造している。GVW3.5~7.2トンのイヴェコ「デイリー」シリーズは、乗用車や日本メーカーの小型トラックと競合するクラスだ(「大型」「中型」「小型」というトラック区分は日本独自のもので、もちろん海外市場では通用しないが)。
福田との提携は、イヴェコのポートフォリオをGVW3.5トン未満まで拡大すること意図しているようで、欧州と南米市場においてイヴェコの販売網を通じて電動パネルバン/シャシーキャブ(キャブ付きの裸シャシー)の商用化を検討する。
小型EV商用車の競争が激化?
EV化で中国メーカーが先行するのは周知の通りで、商用車でも状況は同じ。両社の発表で明言されたものではないが、GVW3.5トン未満でEVを設定する福田のトラックとしては「祥菱(シャンリン)」シリーズがある。GVW2.9トン級の「微型」トラックだ。
中国ではトラックを「微型」「軽型」「中型」「重型」に分類するのが一般的で、微型は日本の「軽トラ」相当とされることがある。ただし、積載量が法規で最大350kgに制限される軽トラに対し、祥菱EVでも積載量は1トン以上。軽トラとは似て非なるトラックである。
また、イヴェコは欧州市場の2.5~3.5トンの電動シャシーキャブについて、韓国の現代自動車ともサプライ契約を締結している。
福田や現代とのコラボなど、イヴェコが小型EV商用車の拡充を急ぐ背景には、EUの政策の影響がある。都市部の環境中立を推進するため、ゼロ・エミッションの小型商用車の需要が急拡大しているからだ。
欧州系の商用車メーカーは同じグループに属する乗用車メーカーなどから小型車のOEM供給を受けることが多いが、フィアットグループから独立したイヴェコは、他メーカーとの提携を模索しているのだ。
小型商用車は日本メーカーが得意とする分野でもあるが、2030年までに市場規模が10倍に達するという予想もあり、中国メーカーを巻き込むことで競争は一層激しくなりそうだ。
なお、イヴェコ・福田の覚書は更なるシナジー創出の可能性も残している。例えば各市場向けに共同でローカライズを行なうことなどだが、こうした評価を実施するのはもう少し先になる。またイヴェコグループのパワートレーンブランドであるFPTインダストリアルを通じた供給等も検討するという。
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