冬季ミラノ五輪が再来年に迫る中、フィギュア女子で五輪出場を目指しているのが、新潟市出身の高校1年生・中井亜美だ。昨季に腰を負傷し、今季は復活をかけたシーズンとなる。すでにジュニアGPシリーズ中国大会を制し、ジュニアGPファイナルへの出場権を獲得している。同世代のライバル・島田真央も出場する全日本ジュニアを前に今季にかける思いに迫った。
■武器はトリプルアクセル
新潟市出身でフィギュア女子ジュニアの強化選手に指定されている中井亜美(16)。
武器は3回転半の大技、トリプルアクセルだ。
中井は「トリプルアクセルは誰もが跳べるジャンプではないので、自信につながるし、勝つために必要なジャンプ」と話す。
もともとジャンプに定評のある選手だが、今季は以前にも増して、しなやかに伸びるスケートと豊かな表現を見せ、ジュニアGPシリーズで優勝を飾り、上位6人が出場できるGPファイナルへの切符も手にした。
この飛躍の裏には、昨季のケガと悔しい思いがあった。
■ノービス時代に開花した才能 世代トップ選手に
5歳の頃、地元・新潟市のリンクでスケートを始めた中井。きっかけは、テレビで見たオリンピックでの浅田真央さんの演技だった。
地元のクラブに所属するとメキメキと頭角を表し、9歳で初めて全国大会に出場。翌年、10歳で全日本ノービスBクラスで優勝し、同世代トップの選手となった。
その後、全日本ノービスAクラスでも優勝し、3連覇を果たした中井。このころにはすでに、演技の中にトリプルアクセルを盛り込んでいた。
ノービス時代から一際ジャンプのセンスが光っていたが、それだけではない。「真面目な性格でコツコツと練習する姿から、スケートが大好きな気持ちが伝わる選手だった」と、地元・新潟のコーチも振り返る。
■地元・新潟を離れ千葉へ
中井はさらなるレベルアップを図るため、小学校卒業を機に、地元・新潟を離れ、千葉のクラブに移籍することを決意。父・姉は新潟に残り、母と2人、千葉で生活している。
自身の部屋には、新潟の友人達からの応援メッセージが寄せ書きされた大きな旗が飾ってあり、それが中井の心の支えとなっている。
千葉に移籍後、中庭健介ヘッドコーチをはじめ、クラブ内外のコーチの指導を受けながらスケート技術を磨いた。
拠点が変わったことについて「すごく上手な選手と練習することで、自分も頑張ろうと思えるのはいいこと。色々な先生がいるので、色々なアドバイスから自分に合ったものを見つけられるのもすごくいい」と語る。
移籍して1年…。14歳で初出場した全日本フィギュアで早速その成果が出る。
ショートプログラム8位で臨んだフリープログラムでトリプルアクセルを2本着氷。高難度のプログラムをほぼミスなく滑り切り、坂本花織らシニアを相手に中学2年生ながら4位入賞。フィギュア界の新星として一躍脚光を浴びた。
その年の世界ジュニアではトリプルアクセルで転倒するも、それ以外のジャンプは全て成功。スピンでも全て最高評価のレベル4を獲得し、銅メダルを獲得した。
■「すごく落ち込んだ」昨季途中で腰をケガ
順調に実績を積んでいた中井だが、昨季、初めての大きなケガに悩まされる。
シーズン序盤のジュニアGPシリーズで優勝し、幸先の良いスタートを切ったように見えたが、全日本ジュニアの前に腰を負傷。
その影響は大きく、思うような練習ができないまま出場した全日本ジュニアは自己最低の10位に沈み、全日本フィギュアへの出場も叶わなかった。
中井は当時、悔しさから落ち込む日々を過ごしていたと明かす。
「全日本選手権は自分も行きたかった舞台だったので、チームメイトの中で自分だけ行けなかったのがすごく悔しくて落ち込んで、練習もうまくいかなかった」
そんな時に励ましてくれたのが、チームメイトで6つ年上の渡辺倫果(22)。
おととしのGPファイナルは4位、今年の四大陸選手権で3位に入るなど、シニアで活躍している選手だ。そんな渡辺は自身の経験を踏まえながらアドバイスをくれる「お姉さんのような存在」だという。
渡辺の励ましもあって、再び練習に意欲を見せた中井。ジャンプやスピンの練習ができない中で、見直したのがスケートの基礎だ。
中庭コーチはその狙いについて「改めてスケートの基礎を足元から固めるような期間にして、そこから学べることはたくさんあると思うので。本人も不安は不安だったと思うけど、そこは割り切って来季に向けてということで、気持ちを切り替えられた」と話した。
氷上ではスケーティングの基礎を見直し、陸上トレーニングではケガをしにくい体づくりを学ぶなど、できることに励んだ。
■ケガ乗り越え復活のシーズンに
そして、迎えた今季最初の国際試合。
ジュニアGPシリーズトルコ大会では、ショートプログラムで1位。首位で迎えたフリープログラムでは、トリプルアクセルは転倒したものの、その後、大きなミスはなく滑り切った。
さらに、ケガを機に見直したスケーティング技術や表現力は、出場選手の中で最高得点を獲得。銀メダルに輝いた。
しかし、中井は「全く満足していない。練習が出てしまったかなというふうに思っている。実力不足だったと反省しているので、中国大会ではそういった部分が出ないようにしたい」と悔しさをにじませた。
自らを「負けず嫌い」と評する中井。穏やかで控えめな雰囲気の中に、静かな闘志と芯の強さを感じさせる。
この取材の1週間後に行われた中国大会。
ショートプログラム1位で迎えたフリーでは、冒頭のトリプルアクセルを着氷すると、トリプルトウループをつけ、コンビネーションに。続けて2本目のトリプルアクセルも着氷。会場は歓声に包まれた。
回転不足がついたものの、今季初めて2本のトリプルアクセルをプログラムに盛り込み、その後のジャンプも全て成功。しなやかに伸びる美しいスケーティングと、フリープログラム「シンデレラ」を優雅に表現し、観客を魅了した。
演技が終わると、満面の笑顔と控えめなガッツポーズを見せた。
結果は、今季のベストスコアで2位の選手を引き離し、優勝。トルコ大会での悔しさを見事に晴らした。
そして、11月15日には、去年10位に終わった全日本ジュニアが控えている。
来季からシニアの世界で戦う中井にとっては、全日本ジュニアに出場するのは最後。同世代のライバル・島田真央とのジュニアの舞台での戦いもここで決着する。
「去年、悔しい思いをして滑れなかった期間もあったので、こうやって練習ができることに感謝して、演技ができることを楽しみながら、自分のできることを最大限発揮できるように練習から頑張って表彰台に立ちたい」
■夢は「ミラノ五輪」
そして、中井にはさらに大きな夢がある。それが憧れの浅田真央さんも出場したオリンピックだ。夢だった舞台は、目標に変わりつつある。
「すごく大きな舞台。夢のようではあるけど。来季からはシニアに上がって、もうミラノのシーズンなので。シニアに上がってすぐにちゃんとお姉さん達と戦えるように、今から準備して代表になれるように頑張りたい」
幼い頃に憧れたオリンピックへ。夢の舞台に立つため、ケガを乗り越えて磨きをかけた中井の滑りに注目だ。
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