「まさに死闘でしたね。さすがにここまでの試合は経験したことがない。両チームの選手たちの勝利への執念がすごかった」と語ったNTT西日本の河本泰浩監督。延長12回、タイブレークに突入して3イニング目。3点を取られた後の攻撃で4点をもぎ取り、4時間を超える壮絶な激闘の末、NTT西日本が逆転勝利をおさめた。9月に行われた社会人野球日本選手権大会近畿地区最終予選の激戦を振り返る。

阪神ドラ1・伊原陵人投手「何としてもチームに流れを持ってきたかった」

 勝てば、10月末から京セラドームで行われる社会人野球日本選手権への出場が決まる代表決定戦。9月18日、NTT西日本が先発のマウンドに送り込んだのは、のちに阪神タイガースにドラフト1位で指名される伊原陵人投手。大商大を卒業してから2年、ドラフト解禁となるこの年に向けて、自分と向き合いながら急成長してきた左腕に大事な一戦をまかせた。

 「去年は自分が序盤に打たれてこの大会の出場を逃しているので、きょうは何としてもいい投球をしてチームに流れを持っていきたかった」と振り返った伊原投手。マウンド上でうなり声をあげながら気迫満点の投球で、三菱重工Westを抑え込んでいく。毎回のようにランナーを背負いながら、許した得点は1点だけ。3回に元阪神タイガースの北條史也選手のタイムリーのみだった。

 「きょうはなかなか思うようなボールいかず苦しかったが、なんとかしのぐことができた」と話したように、社会人に入ってから学んだという打者との駆け引きを駆使して、伊原投手は6回途中まで最小失点に抑え、後続にマウンドを託した。

 一方の三菱重工Westは、打者が一巡して慣れるころに投手を交代させ、目先を変えていく作戦。津野祐貴監督が「複数の投手で序盤、中盤を抑えて、最後はエースの竹田に託す作戦だった」と話したように、灼熱の太陽の下、2回戦では7イニング、3回戦では123球の完投でチームを代表決定戦に導いた竹田祐投手の疲労を考慮し、最後の大事な場面をエースに任せる継投策を選んだ。

DeNAドラ1・竹田祐投手 30℃超えの暑さと連戦の疲れのなか「鬼気迫る」投球

 試合は、三菱重工Westの狙いどおりに進んでいく。短いイニングで投手を変えながら、6回までNTT西日本打線を抑えると、1点リードのまま7回からは大黒柱の竹田投手をマウンドに送り込んだ。7回、先頭打者にエラーで出塁を許しながらも、闘志あふれる姿で後続を抑える竹田投手。ドラフトで竹田投手を1位指名した横浜DeNAベイスターズの三浦大輔監督が「闘志を前面に、バッターに向かっていく姿勢を評価した」と語ったように、ピンチの場面でも気迫を前面に力強い投球で切り抜けた。

 しかし、NTT西日本の大会出場へかける執念が、竹田投手の一瞬のスキを突く。8回1アウトからフォアボールで出塁したランナーが、バッターを2ストライクと追い込んで投球に集中する竹田投手の裏をかいて盗塁。セカンドを陥れると、3番・山田峻士選手がライト前へ値千金のタイムリーヒット。竹田投手から放った初ヒットが同点のタイムリーとなった。

 それでも、今シーズンのチームを支えてきたエースは9回を3人で抑え、1対1の延長戦に持ち込む。タイブレークにもつれ込んだ10回裏には、味方の攻撃が無得点に終わり1失点も許されない場面で、鬼気迫る表情で相手を無得点に抑え込んだ。そして11回表、エースの力投にようやく打線がこたえる。7回から抑え込まれていたNTT西日本のベテラン右腕・浜崎浩大投手を捉えて、ついに2点をもぎ取った。

 その裏、ノーアウト1・2塁から始まる攻撃で先頭バッターをダブルプレーに打ち取った竹田投手。念願の全国大会への出場権まで、あとひとつのアウトにまでこぎつけた。しかし、極度の緊張感と、9月下旬とは思えない30℃を超える暑さが、連戦の疲れが残る竹田投手から水分と体力を奪っていく。さらにあと1人の場面が、極限までバッターの集中力を高めていった。

社会人野球は『日ごろのサポートへの感謝を表現できる重要な場』

 社会人野球は、職場の同僚や仕事仲間、会社のサポートを受けながら、野球に集中できる環境をつくってもらっている。全国の舞台は、そんな人たちに日ごろのサポートへの感謝を表現できる重要な場。だからこそ、7月に行われる都市対抗と、この10月の日本選手権は絶対に出場権を手にしないといけない。ベテランであればあるほど、この予選を勝ち抜く大切さは、身にしみてわかっている。その思いが、再び執念の同点劇を呼び込んだ。

 この場面で28歳の4番・酒井良樹選手が5球目をタイムリー2ベースヒット。3対2と1点差に迫ると、5番・藤井健平選手が初球をセンターオーバーのタイムリー2ベース。思わずNTT西日本のベンチから選手全員が飛び出すほどの起死回生の一打で3対3。試合は同点のまま、ついに12回にもつれ込んだ。

 12回表、今度は三菱重工Westが勝利への執念を見せる。ノーアウト満塁から犠牲フライで勝ち越すと、なおも続く1アウト2・3塁のチャンスで、阪神タイガースを戦力外になった後、30歳でチームに加入し新たなスタートをきった北條選手がセンター前へのタイムリーヒット。さらに1点を加えて6対3。ノーアウト1・2塁から始まるタイブレークでも余裕をもって守りにつける3点差をつけて、これで勝負は決まったかに思われた。

 しかし、酷暑のコンディションの中、予定のインニングをはるかに超える激闘は、エースを確実に追い込んでいた。水分が不足して、踏み込んだ足の踏ん張りがきかない。球速を落としてコントロールを重視。なんとか先頭打者は抑えたものの、次のバッターにはフォアボール。1アウト満塁とチャンスを広げられた。それでも、あと2つアウトを取れば試合終了。竹田投手は力を振り絞って投球を続ける。バッターボックスの吉川育真選手も粘りに粘った。そして8球目、低めへのストレート。打たれた瞬間、センター方向を見て打球の行方を見守る竹田投手。本来の球威が残っていれば打ち取ったはずの角度に上がった打球。しかし、打球はぐんぐん伸びて、センターの頭上を越えるタイムリー2ベースとなって6対5。なおも1アウト2・3塁とさらなる緊迫した場面が訪れた。

 とはいえまだ1点リード。この場面で、ベンチに一旦戻って水分を補給。気持ちと体を整える竹田投手。続くバッターを歩かせて満塁策で逃げ切りを図った。迎えるバッターは2番・串畑勇誠選手。一球一球、球場がどよめく中、カウント3ボール2ストライクからの打球は、大きく弾んだピッチャーゴロ。捕球して素早くホームへの送球を試みる竹田投手。しかし、ここでも踏み込んだ足の踏ん張りがきかず、キャッチャーの頭を超えるまさかの悪送球。思わずマウンド上に座り込む竹田投手。この間にセカンドランナーがホームに生還して7対6。NTT西日本が劇的幕切れで日本選手権への出場権を手にした。

エースをかばった津野監督「どんな展開になっても、最後まで投げさせるつもりだった」

 最後までエースを信じて、敗れたあともエースをかばった津野監督は「どんな展開になっても、竹田投手からアクシデントや体の不調で続投不能と言ってこない限りは、最後まで投げさせるつもりだった」とゆるぎない信頼を口にした。中1日で迎えた敗者復活によるラストチャンスの日本選手権代表決定戦でも、強豪パナソニック相手に、最後の打者は竹田投手に任せて見事に本大会への出場権をもぎとった。

 10月29日に京セラドーム大阪で始まった社会人野球日本選手権。11月3日の日本製鉄鹿島との初戦を前に竹田投手は「近畿地区の予選では、あと1つのアウトを取る大切さ、あと1球の怖さをNTT西日本さんに教えてもらった。この大会では、アウト1つの重みを大事にしてプレーしていきたい」と語った。社会人野球の選手として迎える最後の大会での恩返しに注目したい。

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