第65回東日本実業団駅伝が11月3日、埼玉県庁をスタートし、熊谷スポーツ文化公園陸上競技場にフィニッシュする7区間76.9kmで行われる。各区間の距離と中継点は以下の通り。
1区 11.6km 埼玉県庁~宮原小学校前
2区 9.4km ~北本市南部公民館前
3区 15.1km ~JR行田駅入口
4区 9.5km ~大里農林振興センター前
5区 7.8km ~JR深谷駅前
6区 10.6km ~Honda cars前
7区 12.9km ~熊谷スポーツ文化公園陸上競技場
3年前のニューイヤー駅伝2位のSUBARUに強力ルーキーが加入。東日本大会でも主要区間に登場しそうで、近年の強さを支えてきた選手たちも奮起するきっかけになる。
選手たちが決める目標は初めて、優勝を掲げた。「ニューイヤー駅伝は3位以内を目指します。東日本でしっかり戦えないと自信を持って行けない」と奥谷亘監督。優勝することの「難易度も理解している」SUBARUが本気で勝ちに行く。
ルーキーたちの入社時の抱負
三浦龍司(22、順大出身)、山本唯翔(23、城西大出身)、並木寧音(22、東農大出身)と、有望新人3人が今春SUBARUに入社した。
三浦は言わずと知れた3000m障害の世界トップランナー。8分09秒91の日本記録を持ち、パリ五輪では8位に入賞した。東京五輪も7位だった。2大会連続入賞は、連続金メダルのS・エルバッカリ(28、モロッコ)と三浦の2人しかいない。三浦は東日本大会には出場しないが、ニューイヤー駅伝では前半区間で世界のスピードを披露する予定だ。入社時の会見で「トラックを主戦場にすることを会社が尊重してくれて、そのための環境作りなどを一番熱心に考えてくれたのがSUBARUでした。このチームで結果を残したいと強く思いましたし、トラックと駅伝でSUBARUのためにできることがあると思っています」と語っていた。
山本は箱根駅伝5区で3、4年時に連続区間賞。フワッとした雰囲気から“山の妖精”とニックネームが付けられた。
「SUBARUの合宿に参加して、選手1人ひとりが目標をしっかり持って練習していることがわかりました。練習メニューを自分で立てて結果を出すやり方で、どうやって練習していくか、過程をすごく大事にしている。早ければロサンゼルス五輪のマラソン代表になって、各国の選手たちと戦いたい。チームとしてもニューイヤー駅伝で優勝したいです」
並木は今年の箱根駅伝2区で区間7位。1時間6分台を出せば評価される区間を、1時間07分03秒で走破した。「最大目標はマラソンで日の丸を付けて戦うこと。ニューイヤー駅伝は優勝に貢献したい」と山本と同じ目標を持って入社した。入社動機としては「ニューイヤー駅伝で(前評判は高くないのに)2位になったことに衝撃を受けて、この会社に入って優勝を目指したいと強く思いました。選手ファーストで取り組んでいることにも惹かれました」と話していた。
こ
の3人が入社したことが単純に戦力としてだけでなく、今のSUBARUチームにとって大きな意味があった。
「4、5区で抜け出す」ための区間配置は?
学生時代に大活躍した選手が実業団に入社し、足踏みすることは少なくない。だがSUBARUの新人は三浦以外の2人も順調にここまで来ている。
並木は7月に5000mの自己新で走ると、9月の全日本実業団陸上5000mで2組1位。一番速い選手が集まる組ではなかったが、得意ではなかったラストスパートで2位を大きく引き離した。ラスト1周は57秒とチームスタッフも驚くスピードで、他チームの選手たちに強さをしっかりとアピールした。
山本も10000m1組で3位。28分46秒31で自己記録には及ばなかったが「2人とも条件が良いレースなら(10000m)27分台で走ると思います」と奥谷監督。奥谷監督は東日本大会の区間編成を踏まえた上で、レースパターンを「1、2、3区で上位にいて、4、5区で抜け出す展開ができれば勝機はあります」と話す。
全体の距離がニューイヤー駅伝より20km以上短い大会である。1区は3番目に長い区間だが、出遅れはニューイヤー駅伝以上に響く。2区はインターナショナル区間で、SUBARUは強い。そして3区が今駅伝の最長区間。この1、3区をエースの清水歓太(28)と鈴木勝彦(28)、梶谷瑠哉(28)、照井明人(30)の実績組に任せるのか、新人2人を起用するのか。4、5区で抜け出す役目を新人に期待するのか、実績組に任せるのか。
清水は23年日本選手権5000m3位の日本トップランナーで、ニューイヤー駅伝のエース区間でも区間賞争いを期待できる。実績組4人は、東日本大会では区間1~3位を何度も取っている。清水、鈴木、梶谷の5000mシーズンベストは13分30秒台。昨年までの実績でも今季のタイムでも、新人2人を上回る。
奥谷監督の選手起用も注目される。
チームが成長の新たなステージに
3年前、SUBARUがニューイヤー駅伝(22年大会)で2位になったとき、全ての長距離関係者と駅伝ファンが驚愕した。東日本大会は7位で通過したチームである。さらに前年は東日本大会が途中棄権で、ニューイヤー駅伝に出場すらしていなかったのだ。しかし大失敗をしたことで、奥谷監督は思い切った「チーム改革」に着手できた。それが練習メニューと目標設定などを全て、選手に決めさせることだった。社内の重役に選手を直接会わせたりもした。
キャプテンになった梶谷や清水を中心に、選手たちは自主的に行動するようになり、意識が追いつかない選手たちはチームを去った。選手が責任を持って行動することは、自身に厳しくしないとできないことなのだ。
翌23年大会は、「前年の2位がまぐれでないことを証明するために入賞する」ことを目標に掲げ、7位で目標を達成した。しかし24年大会は14位。1区の37位という失敗が響いたが、チーム全体に「同じようにやっていれば」という甘さが見え始めたという。
それを予期していたわけではないが、奥谷監督はスカウトに力を入れていた。役員たちの理解を得るなど、三浦の獲得には会社のバックアップが大きかった。「彼は日本長距離界の宝です。SUBARUのためではなく日本のため」という無私の考え方が、逆に社内の共感を得たようだ。その結果、SUBARUとしては、かつてないほど強力な新人3人が入社した。
そのタイミングで奥谷監督は、東日本実業団駅伝のメンバー選考を厳しくした。実績組は練習でタイムが悪くても、駅伝本番での期待度を理由に起用していたのが東日本大会だった。今年は新人たちの力があり、シーズンを通して好調を維持している。実績組はトラックのタイムが春先は出ていたが、その後は新人に負けるレースもあったり、ピリッとしなかった。メンバーを選ぶための合同練習を何回か行い、チーム内の緊張感が高くなった。
「新人たちはSUBARUに入ることができて喜びを感じています。そんな選手たちがニューイヤー駅伝優勝という明確な目標を持って加わったことで、チーム全体のマインドがまた変わることができました。勢いのある新人と、実績のあるベテラン・中堅選手が融合したチームが、これからのSUBARUになります」
その最初の駅伝が、今回の東日本実業団駅伝となる。そのチームにニューイヤー駅伝では三浦が加わる。三浦は全区間20km超の箱根駅伝に対しては苦手意識があり、今年はまだ本人がストレスを感じない区間に起用する予定だという。
「実業団の駅伝を三浦に肌で感じてもらいたいと思っています。そこで来年以降のチームの進化のために、彼がどういう役割を果たしたいと思うか」
世界で戦う三浦が本当の意味でSUBARUの駅伝に加わったとき、ニューイヤー駅伝優勝が目標になる。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※写真は左から山本選手、三浦選手、並木選手
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