第65回東日本実業団駅伝が11月3日、埼玉県庁をスタートし、熊谷スポーツ文化公園陸上競技場にフィニッシュする7区間76.9kmで行われる。各区間の距離と中継点は以下の通り。
1区 11.6km 埼玉県庁~宮原小学校前
2区 9.4km ~北本市南部公民館前
3区 15.1km ~JR行田駅入口
4区 9.5km ~大里農林振興センター前
5区 7.8km ~JR深谷駅前
6区 10.6km ~Honda cars前
7区 12.9km ~熊谷スポーツ文化公園陸上競技場
今年からインターナショナル区間の2区が1.4km延び、最長区間の3区が同じだけ短くなる。上位10チームが来年元旦のニューイヤー駅伝(全日本実業団対抗駅伝)出場権を得る。5連勝を狙う富士通と、ニューイヤー駅伝の22、23年大会優勝のHondaが2強と言われている。富士通はトラックの代表経験者も多いチームだが、今大会には日本記録保持者の鈴木健吾(29)、東京五輪代表だった中村匠吾(32)、浦野雄平(27)らマラソンの実力者が多く出場する。
近年難しくなっている東日本の連勝
昨年富士通は、21世紀になって初の東日本大会4連勝を達成した。
東日本大会の4連勝以上は以下の通り。
1~5回(5連勝):東京急行
7~13回(7連勝):リッカーミシン
15~24回(10連勝):リッカーミシン
25~28回(4連勝):エスビー食品
35~39回(5連勝):エスビー食品
エスビー食品は瀬古利彦が早大を卒業する際に強化を始め、日本代表クラスの選手が次々に入社し続けたモンスターチームだった。全日本実業団対抗駅伝(当時は12月開催。88年から元旦開催)は初出場した84年から4連勝。90年代も箱根駅伝で区間賞を取った選手たちが集まり、ニューイヤー駅伝では九州地区の旭化成に勝てなかったが、95~99年は東日本勢最高順位を占めていた。
しかし00年前後から有望選手が各チームに分散するようになった。地区実業団駅伝では連勝を続ける盟主的なチームも多いが、東日本地区は21世紀に入ってからコニカミノルタ、日清食品グループ、Honda、富士通と4チームが入れ替わり覇権を握ってきた。その中でコニカミノルタがニューイヤー駅伝に強さを発揮し、14年までに8回優勝。“21世紀の駅伝王者”の異名をとった。15年以降は中部地区のトヨタ自動車、九州地区の旭化成が優勝したが、21年は富士通、22~23年はHondaがニューイヤー駅伝に優勝した(今年はトヨタ自動車)。その2チームが現在、東日本2強と言える勢力図になっている。
富士通の高橋健一監督は「5連覇できるチームはなかなかない。大きな目標としては5連覇したい気持ちはあります」と意欲を見せた。
中村、鈴木、浦野のマラソン勢が好調
富士通の強みはタレントが多数揃っていること。21年東京五輪には5000mで松枝博輝(31)と坂東悠汰(27)が、マラソンでも中村が代表入りした。21年には鈴木がマラソンで、23年には10000mで塩尻和也(27)が日本記録保持者になった。塩尻は3000m障害でも、順天堂大学2年時の16年にリオ五輪代表になっている。中村、鈴木、塩尻、浦野は学生時代に、箱根駅伝の区間賞も獲得している。
タレント揃いということもあり強化は個人が中心で、マラソン勢の代表選考スケジュールを優先して駅伝に起用しなかった年もあった。それでも十分戦える陣容になるのが富士通だ。今年の東日本大会は5000m代表だった松枝、坂東をエントリーから外し、マラソン勢が中心の布陣になる。「健吾か匠吾が、最長区間の3区を走ると思います」と高橋監督。
鈴木は3月の東京マラソンで2時間11分19秒の28位、故障で途中棄権した昨年10月のMGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ。パリ五輪代表3枠のうち2人が決定)から立て直したが、準備不足は否めなかった。
「9月のコペンハーゲン・ハーフが微妙な結果(1時間02分20秒)でしたが、鈴木はしばらくレースから遠ざかっていたので、感覚を戻すにはちょうど良かったと思います」
その後の練習の状態も見て、最長区間候補の一番手としている。意外なことに、出場すれば東日本大会初登場。これまでは故障が多かったが、この1年は少なくなっていることを意味している。
中村は東京五輪前からの故障が尾を引き、19年MGC優勝時と同じレベルの練習ができず、今年2月の大阪マラソンも途中棄権した。だが8月の北海道マラソンは2時間15分36秒で優勝。パリ五輪は間に合わないと覚悟していたが、来年の東京世界陸上の代表入りにはこの冬のマラソンで挑戦する。
「何事もなく淡々と練習をこなしてきています。安定感も抜群ですね」
そして浦野の力が上がっている。今年3月の東京マラソンは2時間08分21秒(17位、日本人6位)だったが、「29kmから30kmまで一度トップに立っていました。(35km以降でペースダウンしたが)マラソンの力は付いています」と評価できる内容だった。9月のベルリン・マラソンも、日本歴代2位(2時間05分12秒)と快走した池田耀平(26、Kao)に前半は食い下がった。30km以降で腹痛に見舞われ記録を出す好機を逸したが、「これは! っていうくらいに練習はできていた」という。
マラソン勢3人は駅伝でスピードを再確認し、この冬のマラソンに出場する。東京世界陸上の標準記録である2時間06分30秒と、選考されるための強さをアピールしに行く。
「絶対に失敗できない1区」。そして“駅伝男”横手の起用区間は?
高橋監督は、5連勝はあくまでも「大きな目標」だという。「今年は東日本の枠自体が“10”しかないので堅く行きたい」。
今年のニューイヤー駅伝で東日本勢の成績が悪く、各地区の出場枠の調整で、東日本地区が昨年の“12”から減ってしまった。富士通の戦力なら11位以下の心配は要らないが、何が起きるのかわからないのが駅伝である。富士通は19年大会で6区走者にアクシンデントがあり17位、ニューイヤー駅伝への連続出場が途切れてしまった。高橋監督の「堅く行きたい」は、油断は絶対にしない、という意思表示だろう。
「そのために匠吾の1区も考えています。少しの負けはいいのですが、1区の出遅れはなんとしても避けたい。絶対に外さない、ということで匠吾を候補としました」
もう1人の候補に高橋監督が挙げたのが塩澤稀夕(25)で、23年ニューイヤー駅伝で富士通が2位になったとき、1区を区間賞と1秒差の区間4位になった実績を持つ。
「匠吾と塩澤の2人で1区と4区、と考えています」
もう1人、富士通が「堅く」戦うのに必要な選手が“駅伝男”の横手健(31)だ。ニューイヤー駅伝は23年に当時最長区間だった4区(区間4位)を任され、今年は2番目に長い5区で区間3位。東日本では22年は4区、23年は5区で連続区間賞。21年はアンカーの7区で逆転優勝のテープを切った。
「横手はニューイヤー駅伝のあと、試合に何も出ていないんですよ。大きなケガはないのですが、試合の前になると小さな故障をして。それが続いてずるずる来てしまいましたが、ここに来て走れる状態になってきました。タスキを持たせたらあいつはやってくれる。そういう信頼感があります」
そして10000m日本記録保持者の塩尻を今回は、直前の各選手の状態を見て、どの区間に起用するか判断できる。いわばジョーカー的な存在としてチームに貢献する。
東日本実業団駅伝は大半のチームが、最長距離の3区にエースを置く。だが他の区間はニューイヤー駅伝ほど長い距離ではない。起用区間はそのときのチーム状況でも大きく違ってくる。だが過去2年間の富士通は、距離の短い4、5区で抜け出して勝利を手にしている。終盤の6、7区よりも早い区間でリードを奪えば、優位な展開に持ち込める。そのために4、5区に強い選手を起用することもあるが、選手層が厚く4、5区に強い選手を起用できるチームが、その展開に持ち込みやすい。
今年その2区間で抜け出すのは五輪マラソン代表だった中村か、“駅伝男”の横手か、それとも10000m日本記録保持者の塩尻なのか。富士通が5連勝を決める区間を予想しながらレースを見ると、テレビ観戦が面白くなるだろう。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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