女子駅伝日本一を決めるクイーンズ駅伝(11月24日・宮城県開催)。その予選会であるプリンセス駅伝が10月20日、福岡県宗像市を発着点とする6区間42.195kmのコースで行われた。パリ五輪1500m代表だった後藤夢(24、ユニクロ)が2区で区間賞を獲得し、チームの初優勝への流れを作った。5000m代表だった樺沢和佳奈(25、三井住友海上)は6区で区間賞を獲得し、ユニクロを7秒差まで追い上げた。
万全の準備ができなかった中、2人の五輪代表はどんな走りで区間賞を獲得したのだろうか。そしてクイーンズ駅伝でも2人の走りが、翌年の出場権を得られる8位以内(クイーンズエイト)に入るために重要な役割を果たしそうだ。
昨年より攻めたレースができた後藤夢
初のプリンセス駅伝優勝も狙っていたユニクロだが、1区の川口桃佳(26)が区間11位でトップのスターツと32秒差、最大のライバルである三井住友海上には19秒差をつけられてしまった。昨年は三井住友海上の1区を樺沢が走って区間賞、ユニクロは16秒差の9位で2区の後藤にタスキが渡っていた。
「去年は(実業団)駅伝のことがあまりわかっていませんでした」と後藤。豊田自動織機所属だった実業団1年目の一昨年は、プリンセス駅伝とクイーンズ駅伝に出場することができなかった。
昨年はプリンセス駅伝2区で区間2位(11分32秒)。6人抜きでチームを3位に浮上させたが、区間賞は11分21秒の安藤友香(30、ワコール。現しまむら)が獲得した。安藤も東京五輪10000m代表だったスピードランナーだが、MGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ、パリ五輪代表3枠のうち2人が決定)に出場した1か月後で、駅伝用のスピードでいえば準備不足の状況だった。
「中継所を出て、周りの(速くない選手たちに)合わせてしまって、そのリズムから抜け出せなかったんです。今回は最初から攻めました」(後藤)
後藤を指導する長谷川重夫コーチによれば、昨年の1km通過が3分15秒だったのに対し、今年は昨年の安藤と同じ3分00秒前後で通過したという。区間タイムは11分13秒。後藤の感覚では今年の方が向かい風が強かった中で、昨年より19秒縮めることができた。
パリ五輪から帰国後「まるまる1か月練習しなかった」(長谷川コーチ)ことで、9月末のAthletics Challenge Cupは4分20秒27(8位)もかかった。今シーズン4分9秒台を2度出している後藤にとっては、かなり低調な記録と言えた。
しかし持久的な練習も増やしてきたことが、今回の走りにつながったと長谷川コーチは見ている。後藤自身は「2区の3.6kmはトラックの感覚で押して行ける距離。スピードを意識した中で若干距離を増やすくらいでした」と、そこまで長い距離の練習だった感覚はない。全国高校駅伝と全国都道府県対抗女子駅伝では、区間賞も獲得してきた後藤。実業団駅伝でもいよいよ、そのスピードを発揮するようになった。
抑えた走りでもユニクロを猛追した樺沢和佳奈
6区の樺沢が5位でタスキを受け取ったとき、トップを走るユニクロとは50秒差があった。6区にエントリーされた選手の中で、実績は群を抜いている。鈴木尚人監督とも話し合い、「30秒差なら前にいるのが誰であろうと逆転できる」と想定していた。
ユニクロの選手とは5000mのシーズンベストが、1分以上も開きがある。6.695kmの距離の6区なら1分差でも逆転可能のはずだが、パリ五輪で左脚の大腿裏などを痛めてしまった。帰国後1か月(8月)はまったく走れず、2か月目もジョッグをしたり、ジョッグもできなかったり、という日々が続いた。
10月1日に本格的な練習を再開し、20日間で迎えたプリンセス駅伝だった。「50秒差は抜けるかどうか、微妙なラインだと思いました。パリ五輪後の練習ができていなかったので、(抑えたペースに相当する)1km3分10秒くらいの感覚で行きました」
3人を抜きフィニッシュまで残り1km地点では、トップを走るユニクロに4〜5秒差と迫った。抑えたペースでも猛追しているような差の縮まり方だった。しかし最後は、余力を残していたユニクロのアンカーに振り切られた。
「ユニクロの選手がスパートしたことと、私の脚がもたなかったことで、追いつくことができませんでした。脚がもたなかったのは完全に練習不足です」
だが樺沢の走りがあったから、3区終了時点でトップと1分48秒差の9位と完全に出遅れていた三井住友海上の、2位確保が可能になった。
2人の走りがクイーンズエイト入りを左右
パリ五輪にピークを合わせた後の難しい時期だったが、2人が区間賞を取ることができたのは、駅伝への思いも大きな要因だった。
後藤は“駅伝だったこと”を自身が区間賞を取れた理由の1つに挙げる。
「トラックの長い距離は好きではありませんが、高校のときから駅伝は好きで、景色が変わることを楽しみながら走っていました。それに自分よりもチームのために、という気持ちを強く持って走れるのはこの時期しかありません。この駅伝を無駄にしたくない、という気持ちを前面に出して走ることができました」
樺沢は想定より下の順位でタスキをもらっても、「諦めることは絶対になかったです。最下位でタスキが来ても、気持ちが切れることはありません」という。その原体感とでもいうべきレースが、入社1年目のプリンセス駅伝だった。当時は資生堂所属で、樺沢は2区で区間6位だったが、1区と5区で区間賞、3区が区間2位と先輩たちが快走し、2位に1分21秒差をつけて圧勝した。
「他力本願というか、資生堂は(翌22年にクイーンズ駅伝でも優勝する)強いチームでしたから、自分は失敗しないように走っただけでした。23年に三井住友海上に移籍して、(自身も成長して)チームの日本人の中では一番良い持ちタイムになりました。私が頑張らないといけないマインドで練習し、生活する毎日です」
クイーンズ駅伝では2人とも前半区間に登場するはずだ。後藤は前回(区間13位)に続いて2区の可能性が大きい。1区で出遅れなければユニクロとしては、後藤でクイーンズエイト、できれば5位以内を争うレースの流れに乗りたい。
「去年の2区は(右太腿の疲労骨折で)全然走れませんでした。今年はプリンセス駅伝の走りを自信に変えて、距離への抵抗も持たず、今回のように最初から攻めて、攻めてチームに貢献したいです」
樺沢は前回区間3位だった1区か、前半のエース区間の3区だろう。役割は後藤と同じでチームをクイーンズエイト、「願わくば5位とか6位」の流れに乗せることだ。「そのために、性格的(笑)には区間賞と言いたいのですが、チームの目標のための走りをします。自然と区間1、2、3位…3位は去年と同じなので、1位か2位がついてきたらいいですね」
だがクイーンズ駅伝の区間賞は簡単ではない。後藤は2区で前回区間賞選手、パリ五輪5000m代表だった山本有真(24、積水化学)と対決する可能性がある。樺沢は1区でも3区でも、五島莉乃(26、資生堂)、高島由香(36、資生堂)、小海遥(21、第一生命グループ)のパリ五輪10000m代表、さらには鈴木優花(25、第一生命グループ)、前田穂南(28、第一生命グループ)、一山麻緒(27)のパリ五輪マラソン代表らと対決することになる。
後藤と樺沢がパリ五輪代表同士の戦いに勝ったり、善戦したりすることで、ユニクロと三井住友海上のクイーンズエイト入りの可能性が大きく膨らむ。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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