3月末に行われた柔道のグランドスラム(GS)アンタルヤ大会に出場した次男の立は、決勝で五輪4大会連続メダリストのテディ・リネール選手(フランス)に敗れて2位に終わりました。私も現地で観戦しましたが、畳を降りるときに感情をあらわにしている様子が観客席からも見えて、かなり悔しさが残ったようです。
練習してきた組み手がはまって積極的に攻めていて、先に指導2つを奪いました。「ひょっとしたら」と勝利を期待しましたが、終盤に仕掛けた内股を中で回され、技ありを取られて敗戦。いろいろな先生方に「技の威力は立のほうがある」「もう少し(懐に)深く入っていれば…」と言葉もいただきましたが、やっぱり勝ち切れない何かはあるんだと思います。リネール選手が「片足になるときを狙っていた」と振り返っていたように、ワンチャンスで仕留められました。それが王者の強さであり、すごいところだなと改めて感心させられました。
表彰式は私の席から遠かったのでしっかりとは見えませんでしたが、涙が止まらなかったようです。大学時代に団体戦で悔し泣きしていたことはありましたが、個人戦で負けて、人前で泣く姿はあまり記憶にありません。小学3年生のとき、練習で何度も投げて勝っていた相手に大会の決勝で負け、じだんだを踏んで悔しがっていたのが印象に残っています。そのときは夫から「練習と試合は違うんだ。分かっただろ」と言われていたのを思い出しましたね。
今回のリネール戦では準備してきたことを出し尽くしました。五輪前だからといって研究していることを隠すような余裕は、立にはありません。今回勝つために、すべてをぶつけました。相手は次に戦うときには対策を練ってくると思いますが、それはお互いさまですし、さらにその上をいく対策を練っていくしかないと思います。
準決勝までの試合は少し硬いな、というのが率直な感想でした。準々決勝では押さえ込まれるシーンもあってヒヤリとして、本人も「やばいと思った。これで負けたらトラウマになる」と振り返っていたくらいです。身長が高くて手足の長い外国人選手との試合の経験が、まだまだ足りないと思います。やっぱり試合はどんな練習よりも経験になりますし、試合数を重ねるごとに良くなっていけたことは前向きに捉えたいと思います。
昨年5月の世界選手権(ドーハ)など、負けた後は落ち込んでいることが多かったのですが、今回は違って、会ったときにはもう切り替えていました。「次につながる負けだった」と捉え、雪辱に燃えていたので、本当に得るものが多い大会になったようです。
4月は韓国で合宿も行いました。夫は現役時代に訪れる機会が多かった国でもありますが、立が合宿に行くのは初めてでした。厚遇していただき、「斉藤(仁)先生は柔道界のレジェンドだ」との言葉もいただいたみたいで、一緒に行ってくれた夫の教え子の百瀬優(まさる)コーチも喜んでいました。
韓国の柔道協会の会長は趙容徹(チョ・ヨンチョル)さんで、夫が1985年の世界選手権決勝で左肘脱臼の大けがを負わされた相手でもありました。その後に88年のソウル五輪準決勝で対戦するなど因縁深い方で、立も子供のころは「会ったら許さん!」なんて言っていた気がします。それでも、国際大会に出場するようになってお会いすることがあると優しく声をかけていただいていて、今回も「頑張れよ」と気にしてくれていたようです。稽古も含めて、すごくいい合宿になったと言っていました。
腰痛も抱えていましたが、今のところ大事には至らず、不安は拭えつつあります。ただ、調子がいいときは練習をしすぎてしまう面もあるので、オーバーワークにならないよう、無理にでも休ませないといけないときもあると思います。パリ五輪まで残り約3カ月、周りの方々と相談しながら、私もできる限りのサポートをしていきます。
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五輪2連覇の斉藤仁の妻として、パリ五輪を目指す次男・立の母として、斉藤三恵子さんが柔道一家をめぐる話をつづります。
斉藤三恵子(さいとう・みえこ)1964年、大阪府生まれ、大学卒業後、海外の航空会社に就職。フランスの航空会社で客室乗務員をしていた1993年に斉藤仁氏と出会い、97年に結婚。長男・一郎氏、次男・立の母。
斉藤立(さいとう・たつる)体重無差別で争う全日本選手権は2019年に史上最年少の17歳1カ月で初出場し、22年に初優勝。男子100キロ超級で18、19年全国高校総体、18年全日本ジュニア体重別選手権優勝。21年のグランドスラム・バクー大会でシニアの国際大会初制覇。男子95キロ超級で五輪2連覇の故斉藤仁氏と三恵子さんの次男。兄は一郎さん。得意技は体落とし、払い腰。東京・国士舘高から国士舘大学に進み、4月からJESグループ所属。191センチ。22歳。大阪府出身。
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