接戦を制し、銅メダルに輝いたフェンシング女子フルーレ団体。日本のフェンシング女子史上、初めてのメダル獲得の快挙となりました。どのようなプレーがメダルにつながったのか、フェンシング男子フルーレ団体銀メダリスト三宅諒さんが解説します。
フェンシング女子 メダル獲得のワケは攻め型のプレースタイル
南波雅俊キャスター:
宮脇花綸選手(27)、上野優佳選手(22)、菊地小巻選手(27)、東晟良選手(24)の4選手が見事3位決定戦でカナダに勝ち、フルーレ団体としては初めてのメダルを獲得しました。
まずフェンシングの基礎知識ですが、「フェンシング」と言っても「フルーレ」「サーブル」「エペ」の3種類があります。
ロンドン五輪 フェンシング男子フルーレ団体銀メダリスト 三宅諒さん:
基本的にはこの3種目あるんですけれども、剣の形と突く場所が違います。
フルーレとエペの攻撃は「突き」です。先端がスイッチになっていて、そのスイッチを押すように戦います。そして、サーブルは海賊が持っているようなサーベル(剣)で、相手を突いても切ってもいい。それぞれ違う剣を持って戦います。
南波キャスター:
では、団体でどういう形でこれまで挑んできたのかというと、2012年のロンドンオリンピックは7位、そして前回の東京オリンピックは6位でした。今回パリオリンピック™で初めてメダルを獲得しましたが、三宅さんによるとメダル獲得のワケは「攻め型」だと言います。
フルーレの団体は9試合戦った合計得点で競っていきます。その中で今回は第5試合目で一気に5点突き放した展開もありました。「攻め型」とはどういうことなのでしょうか。
ロンドン五輪 フェンシング男子フルーレ団体銀メダリスト 三宅さん:
もちろんフェンシングは攻めて点数を取るのがすごくいい形ですが、団体戦になるといろんなシチュエーションがあります。
点差が離されてしまって追いつかなければならなかったり、逃げ切りたいときも基本的には相手の陣地に攻め込んで点を取る選手が必要だったりします。今回の日本代表選手は非常に「攻め型」の選手が多かったので、こういった5試合目のように5点突き放した連続得点に繋がったのではないかなと思っています。
南波キャスター:
フェンシングにおいて14点から19点の5点を一気に取ったのはかなり珍しいことなんですか?
ロンドン五輪 フェンシング男子フルーレ団体銀メダリスト 三宅さん:
1試合目から4試合目までを見ると、かなり拮抗した状態です。割と実力差があっても、自分以外の代表3人の人生も背負って戦わなければならないので、すごくプレッシャーがあります。その中でも「リスクを怖がらずに攻められる」というところは非常に重要な能力だと思います。
残り50秒の1点差 選択した戦い方は「勝負所を作らない」
南波キャスター:
最後の第9試合が大きなポイントでした。日本32点、カナダ29点。3点差ありましたが、第9試合が始まって2分30秒の段階でカナダが1点取りました。そして残り1分47秒で日本がもう1点取りました。ただ、点を返されて残り50秒のところで1点差になりました。残り50秒を上野選手がどう戦っていくのかという判断が見事だったということです。
選択肢は3つあります。(1)攻め型をこのまま続けて攻め続ける、(2)攻めつつ、守りも重視する、(3)勝負所を作らない(時間切れを狙う)という作戦がありましたが、選択したのは「勝負所を作らない」でした。攻め型で、攻めて点が開くだけではない、日本の技術がありました。
ロンドン五輪 フェンシング男子フルーレ団体銀メダリスト 三宅さん:
ざっくり言うと、9試合目は時間切れを狙うことがかなり効果的です。1試合実働3分ですが、この3分間がなくなったときに点数が高い方が勝ちなので、何とかして上野選手は時間を使って、相手に気づかれないように時間を経過させたいというのが今回の目的でした。
今回、上野選手は相手の陣地に攻め込んで点差を広げたい場合と、相手に「来ていいよ」と言われて何とかして徐々に点差を開きたい場合の2つの選択肢がありましたが、「残り50秒」というところが結構リスクになります。
実は残り50秒で奪われた点は、相手に走り込まれて突かれてしまったんです。だから後ろに引くのは得策ではない。これでもう1回相手に攻めさせると、もしかしたら追いつかれてしまうかもしれない。
ポイントになるのが、1分34秒のときは不用意に攻めようとしてカウンターをもらってしまっています。だから攻めでも守りでもない、どうしようかとなったときに勝負所を作らないということを上野選手は覚悟して決めたんですね。
実際に残り50秒からの流れは、6秒8のところ以外は上野選手は突きにいくことすらしていません。とにかく相手の剣をいなして時間切れを狙いました。
実際に相手に近づいて、背中に剣を回して突くこともできますが、突いてしまうとタイマーが止まってしまいます。なので、あえて近づいて試合をそのまま続ける、タイマーをとにかく動かすという戦法をとりました。
とにかく剣に近づいて突かせない方法をとるために今回、上野選手は50秒間を有効に使っています。これは本当に怖いことなので、解説の方も相当ドキドキしてたと思います。
産婦人科医 宋美玄さん:
相手から見たら攻めようと思っても、攻めさせてもらえないから結構イライラしてくるんじゃないですか?
ロンドン五輪 フェンシング男子フルーレ団体銀メダリスト 三宅さん:
そうやって相手に無理をさせてカウンターを狙いたいのも我慢して、とにかく時間をなくしていき、最終的に1点勝っている状態を作ったというのは、すごく経験値があるからこそ取れた戦略なのではないかなと思います。
本当にもうどうなるかわからないので、残り6秒からの攻防でどんどん時間が減るというのがドキドキしました。
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<プロフィール>
三宅諒さん
ロンドン五輪 フェンシング 男子フルーレ団体銀メダル
日本パラフェンシング協会理事
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