弾力性のある高さ3メートルの板から跳び上がり、入水までの約2秒間に、前に踏み切って2回半回って2回ひねる-。5154B(前宙返り2回半2回ひねりえび型)は、難易度が高く、筋肉量の少ない女子では世界で数人しか試合に組み込んでいない。女子3メートル板飛び込みでパリ五輪代表の三上紗也可(日体大大学院)は、5154Bを武器に、今夏の大舞台での表彰台を見据える。
飛び込みは、それぞれの技に定められた難易率で得点が変化する。5154Bは、昨年の世界選手権(福岡)決勝で12選手が行った技のうち、最も難易率の高い3・4だった。この技を決勝で繰り出したのは、三上と豪州選手の2人だけ。三上は予選、準決勝でも組み入れ、それぞれ上位で通過した。
高難度技習得の原点は、10年以上前にさかのぼる。三上は中学1年頃から、ひねりが1回少ない5152B(前宙返り2回半1回ひねりえび型)に取り組み始めた。小学4年時から指導する安田千万樹(ちまき)コーチによると、世界では当時、すでに5154Bを跳んでいる女子選手がいたという。「三上を世界でメダルを取るレベルにもっていくには、5154Bは必須。10年後には、これを跳べなければ決勝にも残れないんじゃないか」。恩師の〝未来予想図〟に従い、踏み出した第一歩だった。
三上の脚力の強さも功を奏した。板を沈める能力がたけており、踏み切りの際に高さを出せるため、回転やひねりが増える難しい技に早い時期から取り組めていた。恐怖心にも強く、「死なないからやってみよう」との心持ちで、新しい技に積極的に挑戦していった。
三上が5154Bを初めて試合に入れたのは2019年秋。ただ初出場だった21年東京五輪では、披露できなかった。難易率が3・0の5152Bで臨んだ準決勝では、別の技で板を踏み外し、決勝に進めなかった。
「5154Bの状態がよくなかったら5152Bに逃げられると思っていた。だから成長していなかった。5154Bしかない」
以来、強い覚悟をもって試合で挑み続けた。完成度が高まり、ここ最近は、この技での大きな失敗はなくなった。安田コーチは「一か八かの演技ではなくなっている」と、成長に目を細める。
抜きんでたセンスで世界トップに君臨する中国勢に対し、三上はここまで地道に積み上げ、背中を追いかけてきた。だからこそ、安田コーチは「これ(5154B)を跳ぶことによって、足りないところを補って、逆転できる一つの大きな武器になる」と話す。逆に言えば、メダル獲得に欠かせない技。磨き上げてきた大きな武器で、23歳は表彰台に突き進む。(久保まりな)
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