先日、開幕したビーチサッカーの九州リーグ。奇しくも熊本勢同士の対決となったこの試合に特別な思いで臨む選手がいました。重い脳腫瘍から復活した中原勇貴選手。ビーチサッカーにかける情熱と新たな決断を追いました。

ビーチサッカーはその名の通り砂浜でプレーするサッカー。

ゴールキーパーを含めた1チーム5人で戦い、オーバーヘッドキックなどアクロバティックなプレーが特徴です。

ブラジルやヨーロッパではいわゆるフルコートのサッカーと同じくらいの人気を誇ります。

【西村勇気アナ】
「ビーチサッカー九州リーグ開幕節、アヴェルダージ熊本 対 エスターテ芦北という熊本勢対決となりました。この試合、実は背景にあるストーリーが隠されているんです」

菊陽町の『アヴェルダージ熊本』

現役日本代表も在籍する強豪チームです。

このアヴェルダージでプレーしてきた元日本代表の中原勇貴選手。

重い脳腫瘍で余命5年から10年と宣告されながらも手術とリハビリを乗り越え
現役復帰を果たしました。

全国大会でゴールを挙げるなど目覚ましい回復を見せましたが、心の中にはある思いがくすぶっていました。

【アヴェルダージ熊本 中原勇貴選手】
「申し訳ないようなプレーが多くて早く前みたいに戻りたくてなかなか戻れんくて」
【アヴェルダージ熊本 坂田淳監督】
「(病気から復活して)ここまでやってくれたってのは全然勇貴が謝る必要もないし俺は正直、ここまで戻してくれるとも思ってなかった」

これまで中原選手は幼馴染でもある坂田淳監督と二人三脚でチームを引っ張ってきました。

しかし、脳腫瘍を取り除く手術の後遺症で中原選手の持久力が低下。

アヴェルダージの戦術では一人一人に多くの運動量を要求するため、病み上がりの中原選手は出場機会が限られるようになっていました。

【アヴェルダージ熊本・坂田淳監督】
「今のビーチ界でいうと、レンタル移籍っていう形で。完全にレンタル先に行くっていうよりは大会ごとに考えて」

体調面を気遣いながら起用法を探る坂田監督と、フル出場を目指す中原選手の間で幾度となく話し合いが行われました。

【アヴェルダージ熊本 中原勇貴選手】
「(多くの人が)自分の病気のことを知って遠いところまで応援しに来てくれてたけど」「やっぱりその人たちの前で試合に出られないっていうのが一番きつかったし」「試合に出られるようなチームに移籍したいなっていう気持ちはあります」

2人が悩んだ末、坂田監督が提案したのが県内にある「エスターテ芦北」へのレンタル移籍でした。

中原選手は慣れ親しんだ青のユニフォームにいったん別れを告げ、新天地での完全復活を目指すことを決意しました。


【中原勇貴選手】
「この九州リーグの開幕戦で熊本でアヴェルダージと試合ができるって、こんな
すごいことはないと思うんで」「(アヴェルダージを)倒します」

【試合開始SE】

【エボレパーク 菊陽町】
開始早々、相手をかわした中原が決定的なパスを前線へ。

ここはキーパーに抑えられますが、序盤から司令塔としての存在感を発揮します。

しかし先制したのはアヴェルダージ。
ことしから本格的にビーチサッカーを始めた福山隼太が右足で蹴り込みます。

対するエスターテ、中原のループシュート、惜しくもクロスバーに阻まれます。

第2ピリオドもアヴェルダージペース。

ストライカーの大田誠人がこのジャンピングボレーで追加点をゲット。

さらに浮き球パスに反応すると相手DFを振り切ってのダイビングヘッドでゴールを奪い、一気に突き放しにかかります。

3点を追いかけるエスターテ芦北も意地を見せました。

キックインで中原がボールをセットすると。

10番を背負った白坂星也がダイレクトで蹴り込む豪快なシュート。

1点を返します。

守備でも体を張って、相手の攻撃の芽を摘んでいた中原、しかし徐々に疲労の色が・・・。

体力の限界が近づく中、懸命にプレーを続けます。

時には前線に飛び出し、終盤には果敢にボレーシュートを放ちますが、元チームメイトの宮田政宗が決死のセーブでゴールを許しません。

真夏の開幕戦にふさわしい熱い戦いは8対2でアヴェルダージ熊本が勝利をおさめました。

戦い終えた中原。

自身の希望通りほぼフル出場を果たしたその表情には、満足感と悔しさが入り混じっていました。

【中原勇貴選手】
「最初の(シュート)とか決まったと思ったんすけどね~」「充実してました、めっちゃ。なんか今までは一歩下がって試合に入ってたりとかも正直あったんですけど」「何なら崩せるシーンもちょいちょいあって。あと(フィニッシュが)
決まればっていうところもけっこうあったんで。まだこれからも伸びしろのある
チームかなと思います」「いっちゃん!」
西(おっきくなりましたね)「だいぶ大きくなりました」

【妻・舞香さん】
「産んで育ててる間はなかなか試合を観に行けなかったから。久しぶりに観られて楽しかったし」「私は本人の意思を尊重してるので楽しくやれるところ(チーム)が一番かなと思って見守ってるだけかな、本当に」

家族、そして仲間に見守られながら新天地で全国大会を目指す中原勇貴。

ビーチサッカー選手としてどこまで行けるのか、戦いの日々は続いていきます。

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