本日(2024年5月27日)は「ドラゴンクエストの日」。今から38年前の1986年5月27日に,ファミリーコンピュータ用ソフト「ドラゴンクエスト」(以下,DQI)が発売されたことを記念する日だ。


 ドラゴンクエストシリーズは,これまでにナンバリング11タイトルと,多数のスピンオフタイトルを展開してきた。言わずとしれた日本のRPGの代表的存在だ。

 DQIが発売された1986年当時,すでにPC向けのRPGは,海外産はもちろん国産も存在し,ゲーマーやゲームクリエイターから注目を集めていた。
 だが一般的にはメジャーと言えないジャンルだったし,そもそもプラットフォームであったPCを個人的に所有している人は限られていた。そんな時代にファミリーコンピュータ(以下,ファミコン)向けに発売されて大ヒット作となったDQIは,まさにコンシューマ機向けRPGのパイオニアと言える。

 DQIが大ヒットした要因については,鳥山 明氏すぎやまこういち氏といったクリエイター陣の豪華さや,プロモーションの丁寧さなどがよく挙げられる。とくにプロモーションに関しては,シリーズの生みの親である堀井雄二氏自身が,当時発行部数600万部超だった週刊少年ジャンプにてRPGやDQIに関する情報を発信しており,多くの読者が期待を煽られたのは間違いない(筆者もその1人だった)。

 そうしたプロモーションにも見られる「新しいジャンルであるRPGを,多くの人に受け入れてもらうためにはどうすればいいか」という課題に取り組む姿勢は,DQIの取扱説明書にも表れている。


 もともとファミコンソフトは,ファミコン本体の性能やROMカートリッジの容量といった制約から,今のようにゲーム内での詳細な説明ができない。そのため取扱説明書が充実しているものが多いのだが,とくにDQIの場合はゲーム最序盤の進め方までしっかり説明されるなど,かなり丁寧に作られているのだ。この丁寧さのおかげで,「今までのゲームと何か違って,よく分からない……」と投げ出さずに,DQIをクリアできた人も当時は少なからずいたはずだ。

 本稿では,38年前に作られたDQIの取扱説明書を,2024年の今読み返して気付いたことなどを紹介する。


取扱説明書の名称が「冒険の書」


 DQIの取扱説明書の表紙をめくると目に飛び込んでくるのが,開いた扉を背に,剣と盾を構えた勇者の姿,そして「ドラゴンクエスト 冒険の書 ─これを勇者たちに贈る─」という文字だ。

鳥山 明氏が取扱説明書のイラストを担当していないことにも気付いた。いや,当時気付いて疑問に思ったけれども,忘れていただけか……

 「冒険の書」と言えば,1988年発売の「ドラゴンクエストIII」以降,シリーズのセーブデータの名称として使われているが,取扱説明書の中だけとは言え,DQIの時点ですでに存在していたというわけである。

ゲームの始め方やキャラクター名の入力,階段の上がり方といったことも事細かに説明されている。取扱説明書は,まさに冒険者にとって必携の書だった


「アレフガルド」の地名があるのは説明書の中だけ


 DQIの冒険の舞台であり,DQIIやDQIIIにも登場する「アレフガルド」。ゲーム中にマップ表示機能がないこともあり,取扱説明書には地図が掲載されているのだが,実はゲーム中に「アレフガルド」という地名は出てこない。これは,DQIのROMカートリッジの容量がわずか64KB(!)だったため,使用できるカタカナが20種類に制限され,「ア」と「フ」が使えなかったことに起因している。


 またこの取扱説明書では,見開き2ページで,ゲーム本編の前日譚や世界観,設定などを記したプロローグが掲載されている。これは当時のPC向けRPGなどでも使われていた手法で,こちらも記録メディアの容量の制約により,ゲーム本編に収めきれない部分を取扱説明書で補完しているわけである。

今どきのゲームならムービーで見せるようなところを,テキストで表現


ゲーム中に固有のグラフィックスがない武器や防具をイラスト付きで紹介


 DQIには,武器や鎧,盾が装備として採用されていたが,それらには固有のグラフィックスが存在しない。その代わりに,ゲーム中盤までに入手できる装備の説明がイラスト付きで取扱説明書に掲載されている。


 今でこそファンタジーRPGの装備と言えば,名称を聞いただけでもゲーマーならある程度概要を思い浮かべられるだろうが,1986年当時はそんなことはなかった。ともすれば,攻撃力や守備力という無機的な数字だけの存在になってしまいかねない装備を,外観も含めてしっかりと紹介することにより,ゲームへの没入感を高めていたのだ。



呪文全10種類の効果を掲載


 DQIの勇者は最終的に全10種類の呪文を習得するが,ゲーム内ではそれらの効果を確認できない。そのため,取扱説明書にすべての呪文の効果が掲載されており,ゲームをプレイしている最中に参照できるようになっている。それぞれの説明テキストもなかなか表現が凝っており,「指先から小さな火球が出て,怪物めがけて飛んでゆきます」といったように呪文を唱えたときの光景を思い浮かべられるよう工夫されている。


 余談だが,攻撃呪文の「ギラ」と「ベギラマ」の効果や属性が,後続のシリーズ作品と異なっていることも興味深い。DQIのギラは火球による単体攻撃だが,DQIII以降はメラ属性呪文にその位置を譲っている。今では,ギラ属性と言ったら炎系のグループ攻撃というイメージを持っている人がほとんどだろう。
 またギラの上位呪文であるベギラマは,DQIだと雷の呪文になっている。こちらも雷の呪文と言えば,近年はデイン属性というイメージが強い。



「復活の呪文」の重要性を繰り返しアピール


 「復活の呪文」はDQIのセーブデータにあたるパスワードで,王様に冒険の進捗を報告すると教えてもらえる。それを紙などにメモしておき,次回のプレイ開始時に入力すると,前回の続きから始められる仕組みだ。

 RPGは長時間にわたってプレイするものであり,ゲームの進捗を適宜記録する必要が生ずるわけだが,1986年当時のファミコン用ROMカートリッジには,まだセーブデータを記録する手段がなく,タイトルもセーブを必要としないアクションゲームが主流だった。
 エニックス(当時)がDQIより先にリリースしたアドベンチャーゲーム「ポートピア連続殺人事件」も,進行状況の保存はできず,毎回事件発生からのプレイだったのだ。

 このように,「復活の呪文」はこれまた一般には浸透していない存在であったため,取扱説明書ではP.8とP.38〜39の2回にわたって説明があり,その重要性が強調されている。


 また,復活の呪文を写し間違えると,ゲームの続きをプレイできなくなることを指摘したり,定期的に王様から復活の呪文を教えてもらうことを推奨したりしているのも注目に値する。
 ただ,こうした親切な記述も虚しく,当時の解像度が低いアナログテレビでは一部の文字がにじんで判別が難しかったこともあり,当時のプレイヤーの間では復活の呪文の写し間違いが頻発した。


 現在も,「復活の呪文 悲劇」といったワードで検索をかけると,当時起きた数々の悲惨な状況を目の当たりにできる。


RPGの基本的な進め方や,レベル4までの情報を掲載


 取扱説明書の最後には,「冒険のはじめかた」や「旅のヒント」が記されている。これはRPGの基本的な進め方とも言える内容で,王様を筆頭とするNPCからの情報収集や,装備の購入に始まり,最初は町の近くでスライムと戦うこと,スライムを数匹倒したら町に戻って宿屋でHPを回復することなど,RPG初心者がDQIをプレイするうえでまず何をするべきかが説明されている。

 加えてレベル3になれば回復呪文のホイミ,レベル4になれば攻撃呪文のギラが使えるようになることを示し,プレイヤーのモチベーション維持を図っているところにも注目したい。


いくつかのRPGをプレイすれば当たり前になるような事柄だが,ドラゴンクエストではここまで説明が必要だった

 今から38年前,“日本のRPG夜明け前”と呼べる時代の雰囲気が感じられるDQIの取扱説明書。現在実物を入手しようと思ったら,中古ショップでそれなりの金額を払わなければならないと思うが,実は「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ 週刊少年ジャンプ50周年記念バージョン」の説明書として,PDF版が任天堂の公式サイト内(外部リンク)にアップされている。当時を知る人も,知らない人も,じっくり眺めてみてほしい。


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