アニプレックスが手掛けるノベルゲーム製作ブランド“ANIPLEX.EXE(アニプレックスエグゼ)”。著名な開発スタッフを招聘し、これまでに1stプロジェクトとして『ATRI -My Dear Moments-』(以下、『ATRI』)と『徒花異譚』、2ndプロジェクトとして『ヒラヒラヒヒル』をリリースしており、いずれも高い評価を得ている。
その3rdプロジェクトとなる『たねつみの歌』が2024年3月23日に発表された。企画・シナリオ担当に、『雪子の国』『ハルカの国』などのノベルゲームシリーズを個人で製作し、その作品クオリティーで高い評価を受ける気鋭のクリエイター・Kazuki氏を抜擢している。
ANIPLEX.EXE最新作『たねつみの歌』ティザー映像
ジャンルはKazuki氏の類まれな想像力によって描かれる“神々の国々”を舞台とした冒険ファンタジー。16歳の少女・みすずと、過去からやってきた16歳の母親・陽子、未来で出会った16歳の娘・ツムギら同い年の3人による最初で最後の冒険がくり広げられる。
“神々の国”は春夏秋冬の4つに分かれていることから、全4回にわたって『たねつみの歌』に関する記事を展開。記念すべき第1回は、プロデューサーを務める島田紘希氏、企画・シナリオのKazuki氏、ディレクション・演出のYow氏にインタビューを実施した。本作の開発秘話はもちろん、ノベルゲームに対する考えや想いなども伺ったので、ぜひチェックしてほしい。
島田紘希 氏
ANIPLEX.EXEのプロデューサー。美少女ゲーム&ノベルゲーム好きが高じて、アニプレックスにてノベルゲームブランドを立ち上げた。(文中は島田)
Kazuki氏
企画・シナリオ。個人サークル“STUDIO・HOMMAGE(すたじおおまーじゅ)”にて長編ノベルゲームシリーズを個人で製作し、その作品クオリティーで高い評価を受ける気鋭のクリエイター。(文中はKazuki)
Yow氏
ディレクション・演出。『ATRI -My Dear Moments-』で演出を担当したほか、『この大空に、翼をひろげて』や『ココロ@ファンクション!』などのディレクターを務めた。(文中はYow)
ANIPLEX.EXEの取り組みと最新作『たねつみの歌』への意欲
――本作でANIPLEX.EXEのことを知った人に向けて、改めてどのようなプロジェクトなのか紹介をお願いします。
島田クリエイターとの作品制作を通して、ノベルゲームの魅力を広めていくプロジェクトです。これまでに『ATRI』『徒花異譚』『ヒラヒラヒヒル』の3タイトルをリリースしていて、おかげさまで『ATRI』は30万ダウンロードを突破するなどご好評をいただいております。
――ユーザーからの反響などを受けて、当初のお考えから変化したことはありましたか?
島田『ATRI』と『徒花異譚』をリリースした後の反響や反省を踏まえて、ANIPLEX.EXEだからこそできることをやっていこうと制作したのが第2弾の『ヒラヒラヒヒル』と、今回発表した『たねつみの歌』になります。
僕自身も好きな美少女ゲーム的なタイトルは今後も作っていきたいと考えていますが、そうでない作品を作れるのもANIPLEX.EXEの強みなので、いろいろなジャンルに挑戦していきたいと思っています。
――『たねつみの歌』が『ATRI』や『徒花異譚』の美少女ゲーム路線からガラリと変わった印象を受けたのは、まさに狙い通りだったと。『たねつみの歌』の企画・シナリオにKazukiさんを招聘した理由を教えてください。
島田Kazukiさんが制作されている『国』シリーズをひと通りプレイして、とても感動したのがいちばんの理由です。
STUDIO・HOMMAGEに対する依頼として、Kazukiさんひとりに制作物のほとんどをお願いすることも考えましたが、いろいろな想像力とKazukiさんのシナリオが掛け合わさることで生まれるものも見てみたいと思いましたし、ANIPLEX.EXEとして作っていく意義があると思ったので、キャラクターデザインなどでクリエイターの皆さんに参加いただいています。
――島田さんとYowさんに、Kazukiさんの作品についての印象をそれぞれお聞きしたいです。
島田『たねつみの歌』でも描かれる部分ですが、何かが失われたり、衰退したりしていく、ある種のさみしさみたいなものを描写されるのがものすごくうまいと思います。さみしさの中で、ひたむきで一生懸命な登場人物たちを描かれているので、そこがすごくKazukiさんらしいなと感じています。
YowKazukiさんの作品は感情に訴えかけてくるシーンが多いと思います。日常的なシーンでも、登場人物たちの細かな感情の機微がわかりやすくて。あとは、キャラクターがみんな等身大というか、地に足ついている感じがして、すぐ横にいるみたいな……。そんな印象を受けますね。制作されているゲームの演出的な部分も絵も含めて、細かな部分の表現がすごくしっかりされている印象を受けます。
Kazukiありがとうございます。自分が大切にしている部分、描きたい部分をおふたりがよく見てくれていてうれしいです。
――KazukiさんはANIPLEX.EXEをご存じでしたか?
Kazuki詳しいわけではなかったのですが、『ATRI』がノベルゲーム好きの界隈で話題になっていたので、知ってはいました。
私にとってコンシューマーのノベルゲームは、フルプライスで長時間遊べるというイメージだったのですが、低価格、かつ短時間で遊べるタイトルもあるんだなって。ヒロインが複数いて好みの子を攻略するのではなく、ヒロインをひとりに絞ってしっかり描いていく。『ATRI』はストーリーで勝負していく形態の作品なんだろうなと考えました。
――島田さん、Yowさんの第一印象もお聞きしたいです。
Kazuki島田さんからはメールで「いっしょにやりませんか」と声をかけていただいたのですが、正直に言うと最初はあまり真に受けていませんでした。これまで私に興味を持ってくれた方に何度か声をかけてもらったことはあるのですが、ほとんど自然消滅しちゃっていたので、今回も流れるだろうなと考えていたんですね。
ただ、島田さんがインタビューに答えている記事を見つけ、それを読んだことをきっかけに、どんな人なのかと興味を持つようになりました。
――島田さんのどんなところに興味をもたれたのですか?
Kazuki私は体育会系の熱い人が苦手ですし、かといってビジネスライクなクールな人とも合いません。島田さんはノベルゲームに対して熱い想いは持っていると感じましたが、体育会系の熱いノリではなくオタクの熱量でした。それで島田さんとノベルゲームについて語り合ってみたいと思ったんです。
島田僕も『国』シリーズを手掛けたKazukiさんにいろいろお聞きしたいと思っていました。実際にお話してみて、ご自身でいろいろ担当されている経験を含めて、独自の視点をお持ちでおもしろいなと感じましたね。
――お互いにシンパシーを感じられたのですね。Yowさんの第一印象も教えてください。
KazukiYowさんは、島田さんからこの方にディレクション・演出を任せたいとご紹介がありました。いっしょに仕事を進める中で感じたのは、Yowさんはプロフェッショナルの人だということ。これまで私も、素材に対して要望を出すことはありましたが、Yowさんはユーザーのことを考えたうえで要望を出してくれます。
私はそこまで考えがいたっていなかった。お金をいただいて売るものを作るとはこういうことなのかと、とても勉強になっています。Yowさんがフィードバックしてくれた箇所はしっかりチェックして、YowさんがなぜNGを出したのか、理解して今後の作品づくりに活かしたいと考えています。
Yow僕はそんなにすごいことをしているつもりはないのですが、Kazukiさんはこだわりがとても強い方ですし、いいところはできるだけ残したいので、どのように説明すれば得してもらえるのか、いろいろ考えています。ユーザーに伝わりにくいなと感じたところを中心に指摘するようにしていますが、Kazukiさんとは感性が近しいところもあって、お互いにとっていい相乗効果が生まれているなと手応えを感じています。
――皆さん相性がよかったと。Kazukiさんはふだん個人で作品を作っていますが、ANIPLEX.EXEのプロジェクトに参加してみて、個人サークルとはとくにどのようなところが違うなと感じていますか?
Kazuki個人サークルは、すべて自分ひとりで担当しているので、開発の順序というものがありません。シナリオを作りながら絵も描くし、シーンに合う音楽も選びます。いい音楽が見つかれば音楽に合わせてシナリオを変えることもできますが、チーム制作では好き勝手できません。後戻りができないことが、いちばんの違いだと感じました。
個人サークルで手掛けた作品のシナリオは、作りながら随時変更していましたし、発売する前日にセリフを変えたこともありましたが、今回は絶対にできません。『たねつみの歌』のシナリオは「これでいいのかな」と迷いながら書いていますが、自信を持つために何度も島田さんに確認してもらっています。おそらく島田さんもかなりたいへんだったと思います。
島田そんなことはないですよ。気になるところを相談してくれたほうがありがたいですし、僕の率直な意見もお伝えすることができてよかったです。
――島田さんの指摘で、変更になったところはありますか?
島田大筋の展開は大きく変わっていないと思いますが……。Kazukiさん何かありましたっけ?
Kazuki私の中では、島田さんに言われて大きく変えたと思うところがふたつあります。
ひとつ目は国の移動方法です。シナリオを作る前の段階なので、変えたというより島田さんのアイデアを採用した感じなのですが、私は当初、新しい国へは歩いて移動させようと考えていました。でも、島田さんが「汽車で移動させたほうが旅をしている雰囲気が強まっていい」と提案してくれて。そのほうがおもしろいですし、テンポもいいので採用しました。
ふたつ目は、みすずのキャラクター設定です。これはYowさんからも指摘されたのですが、ほかのふたりの少女に比べてキャラクターが弱いということで、自分なりにみすずを見直して、しゃべりかたにクセをつけ全体のセリフを調整しました。それを島田さんに見せたところ、少しクセが強すぎるかもとアドバイスをいただいたので、何回か話し合って全体のバランスをチェックし、いまのみすずになっています。
――島田さんはふたつの提案を覚えていますか?
島田汽車に関しては記憶がおぼろげなのですが、「“旅感”を出すなら徒歩よりも汽車とかのほうがいいんじゃない?」ってテンションだったと思います。
セリフに関してははっきりと覚えていますが、Kazukiさんのいいところをつぶしたいわけではないので、それに気をつけつつシナリオを読んで気になった部分をそのままお伝えしました。
――Yowさんからの指摘で大きく変えたところはありましたか?
Kazuki大きく変更したところはありませんが、わかりやすくするために、Yowさんの気になるところを修正しています。
たとえば、ふたりのキャラクターが馬乗りになるシーン。私は“馬乗りになる”という説明だけでイメージできるだろうと考えたのですが、Yowさんはビジュアルで説明しないと、キャラクターの位置関係が誤解されると指摘してくれました。実際にビジュアルを入れたことでわかりやすくなったので、とてもいい勉強になりましたね。
YowANIPLEX.EXEの作品は、ふだんノベルゲームを遊んでいない人も手にとってほしいという想いも込めて作っています。
読み慣れている人たちなら、“馬乗りになる”という説明だけでも通じるかもしれませんが、慣れていない人たちは何だろうと引っ掛かるかもしれません。ストーリーに没入してもらうためにも、少しでも引っ掛かりそうなシーンはなるべく削ったほうがいいんじゃないかということで、気になった箇所を指摘しています。
――わかりやすさのほかに、Yowさんが演出面で意識したことや、注力したことは?
Yowストーリー自体はみすずの視点で進むので、いまみすずは何を見ているのか、視点がブレないように注意しました。みすずの視点でどういったことが起きて、どういうことを考えて、どう表現していくのか。ユーザーにできるだけ伝わるように演出を考えていて、ストーリーへの没入感をできるだけ高めるようにしています。
――先ほどKazukiさんを起用した理由をお聞きしましたが、ディレクション・演出をYowさんにお願いした理由は?
島田Kazukiさんの企画やシナリオを、Yowさんが演出したらどうなるんだろうというワクワク感が強かったです。『ATRI』でYowさんの実力やプロフェッショナルなところもわかっていたので、今回もいっしょにやりませんかとお声がけしました。
――キャラクターデザインにPopman3580さんとマニアニさん、音楽に原田萌喜さんを起用した理由もお聞きしたいです。
島田キャラクターデザインに関しては、メインキャラクターは親しみやすくしたいという思いから、ポップなキャラクターと透明感のあるタッチが魅力的なPopman3580さんにお願いしました。一方、マニアニさんには神々の国に登場する個性的なキャラクターのデザインを依頼しています。SNSなどでマニアニさんの独創的なイラストを拝見して、ぜひお願いしたいと思いました。
音楽に関してはクリエイティブの引き出しの多い方を探していました。というのも、本作は特色の異なる春夏秋冬の国を巡るので、音楽でもはっきりとした違いを出したかったんです。そのうえで、キャラクターの心情に寄り添える曲を作れるところも重要でした。これらの条件に該当する方を探していた中で原田さんのサンプル曲を拝聴し、ぜひお願いしたいと声をかけたのが経緯になります。
普遍的なテーマ万人向けのノベルアドベンチャーに挑む
――『たねつみの歌』のコンセプトやテーマを教えてください。
Kazuki『たねつみの歌』では、16歳の誕生日を迎えた主人公の少女・みすずが、16歳のときの母親・陽子と、16歳になった自分の娘・ツムギといっしょに、神々の国で行われる葬式“たねつみの儀式”を成功に導くための冒険を描いています。
この作品のテーマはふたつあって、ひとつは“家族の変遷”です。家族がどのように移り変わっていくのか、受け継がれていくのかは普遍的なテーマですし、より多くの人の感情に訴えかけることができると考えました。
もうひとつのテーマは“世代交代”です。これはみすずたち親子三代だけではなく、神々のキャラクターたちでも描いています。不死である神々は“たねつみの儀式”によって死を受け入れ大地に還るのですが、神様であっても、家族を失うことになれば、いろいろな感情が渦巻くはず。私は誰かが死ぬときは、大きな物語になり得るほどの感情が生まれる瞬間だと考えているので、そこもしっかり表現したいなと思いました。
――16歳の自分と母親、娘の親子三世代が冒険するという設定は非常にユニークですね。この設定は“家族の変遷”や“世代交代”を描きたいから考えたのですか? それとも親子三世代の冒険を描きたくて、ふたつのテーマを閃いたのですか?
Kazukiどちらを先に思いついたというわけではなくて、テーマや登場人物たちの設定を同時に考えました。以前、介護業界で働いていた経験から“家族の変遷”や“世代交代”に関して考える機会が多かった。そこに加えて、祖母の家の整理を手伝った体験がアイデアのヒントになっています。
荷物を整理する中で母親の子どものころの写真や落書きが出てきて、当たり前なんですけど、母親にも子ども時代があったんだなあと思ったんですね。そこから子ども時代の母親に、息子ですと会いに行ったらどんなリアクションをするのか想像しました。母親はかわいいものが大好きで、メルヘンチックな性格なので、ヒゲ面のおじさんが会いにきたらきっとショックを受けるだろうなって(苦笑)。
時を越えて出会った親子や孫の複雑な感情や、冒険を通して育まれる家族の絆をうまく表現して描くことができれば、おもしろい作品になるかなと考えて採用しました。
――確かに興味を引かれます。
島田Kazukiさんには企画をいくつか考えてもらったのですが、いちばん目を引いたと言いますか、Kazukiさんらしいと感じた作品が『たねつみの歌』の企画でした。
Kazuki企画自体に自信はあったものの、『たねつみの歌』はやめたほうがいいんじゃないかという気持ちが強かったですね。
――え!? それはなぜ?
Kazuki4つの国を巡る物語で登場人物も多いので、ANIPLEX.EXEの作品の特徴である、低価格で作るのは難しいんじゃないかなって。
島田苦労しているところもありますが、開発を進めて手応えも感じていますので『たねつみの歌』に決断してよかったです。
――価格やボリュームなどは後ほど改めてお聞きするとして、『たねつみの歌』のコンセプトも伺えたら。
島田コンセプトは3つあります。ひとつ目は、ノベルゲームに触れたことのない人でも楽しいと思えるような作品にすること。具体的な例として、親と語れる作品かどうかをひとつの指針にしています。
そして、ロープライスながらもフルプライスの作品と同等以上の満足感を感じてもらうこと。これがふたつ目のコンセプトです。
最後のコンセプトは、ノベルゲームが好きな人たちにもちゃんと満足していただく、です。一般層に波及させるのが狙いではありますが、だからといってノベルゲームのファンにとって物足りないものにはしたくない。背反しているように感じるかもしれませんが、初心者でも読みやすい、それでいてコアなファンも満足できる作品にしたいと思っています。これら3つのコンセプトを大きな指針として、開発を進めています。
――ネタバレにならない範囲で、『たねつみの歌』のタイトルに込められた意味を教えてください。
Kazuki“たねつみ”は、巫女として神々より“種をつむ(=たねつみ)”の役目を担ったみすずたちのことで、そこに“歌”をつけて『たねつみの歌』にしました。歌をつけた理由ですが、歌は古代より時代や国を越えて伝えられてきたミーム、文化だと考えているからです。
歌は人から人に伝わり、模倣されることで語り継がれていますよね。“歌は世につれ世は歌につれ”(※)があるくらい、人々の文化に溶け込んでいます。
人の家族も歌と同じで、時代や国ごとの文化の影響を受けながら、先人の生活を模倣することによって営まれてきたと思います。本作は“家族の変遷”や“世代交代”をテーマに掲げているので、家族を歌という言葉で表現してみました。
さらに言うと、『たねつみの歌』は母親が子どもに聞かせる子守唄のイメージもあって。子守唄は親から子へと歌い継がれていますが、本作でも時代を越えて伝わるもの、あるいは伝わってきたものが廃れる瞬間を描いているので、『たねつみの歌』は作品を包括しているタイトルになります。
※歌は世につれ世は歌につれ……歌は世の成り行きにつれて変化し、世のありさまも歌の流行に影響されるという意味のことわざ。
島田作品になじんでいて、ひと目見たときにいいなと思いました。
――『たねつみの歌』の魅力や注目ポイントをそれぞれの視点で解説してください。
島田神々の国を巡る壮大な冒険とスペクタクルな表現。世代や価値観の異なる16歳の母、娘、孫がくり広げるやり取り。彼女たちの出会いと旅の終わりがどのように描かれるのかは、『たねつみの歌』ならではの魅力です。
また、神々の死を描くことによって、『ハルカの国』のような感情に訴えかけてくる、さみしさや切なさも味わえます。Kazukiさんならではのシナリオや世界観、表現を楽しんでもらいたいですね。
Yowストーリーの魅力はKazukiさんが語ってくれると思うので、僕はボリュームについてお話しますね。本作はロープライスの作品ながら、イラストや立ち絵、楽曲といった素材の点数は、フルプライスの作品と比べても遜色がないですし、タイトルによっては越えていると思います。Kazukiさんが考えてくれたストーリーや世界観の規模が大きくて、ちゃんと表現するために自然と素材の物量が増えていきました。くり返しになりますが、わかりやすさも重視して素材を用意していますので、プレイする際はぜひ注目してください。
Kazuki Yowさんが挙げてくれましたが、素材の多さは魅力ですね。予算も限られているので、島田さん、Yowさんと何度も話し合い、厳選に厳選を重ねましたが、素材数はかなり多くなりました。豊富な素材を使って表現される春夏秋冬の国々を巡る冒険活劇にご期待ください。
ほかに注目ポイントをあえて言うのであれば、あまりなじみのない葬式を取り上げているところです。なかなか体験できない葬式を扱いつつも、そこで描いているのは、大切な家族を失ったときの悲しみだったりするので、多くの人が感情移入できると思います。
――これまで何度か、ボリュームに関するお話がありました。シナリオの量やイラストの枚数、プレイ時間の目安など、具体的な数字を教えてもらうことはできますか?
島田テキストのボリュームで言うと、『ATRI』と同じぐらいです。プレイ時間はプレイスタイルによって変わりますが、7~10時間ぐらいだと思います。
――Kazukiさんの作品は立ち絵の数が多い印象です。素材数が増えたというお話もあったので、本作も多いのですか?
島田僕は今回くらいの規模は経験があまりないのですが、Yowさん、いかがでしょう?
Yowフルプライスのタイトルとしても多いです(苦笑)。
Kazuki立ち絵を多くしているのは理由があります。キャラクターの人間味が表現できるのは、日常のちょっとした瞬間、私は“ハレとケ(※)”の“ケ”の瞬間と言っていますが、そういうシーンこそ大事だと考えていて。
テキストと合わせ、表情差分で絶妙な変化をつけることで、“ケ”の瞬間をおもしろく表現できるのがノベルゲームのよさのひとつです。感情の機微を表現するために立ち絵の種類は自然と多くなりがちですね。それに加えて本作は登場キャラクターが多いので、素材が多くなりました。
※ハレとケ……ハレは冠婚葬祭や年中行事などの特別な日を指し、ケはそれ以外のふつうの日常的な生活を指す。
――でも、ロープライスなんですよね?
島田これまでのANIPLEX.EXEの作品の価格帯と同じくらいになります。
――採算、取れますか?
島田大丈夫だと信じて開発していますが、採算が取れるようにぜひ応援をお願いします!(笑)
――体験版や対応ハードがわかると、ファンや読者も応援しやすいと思います。
島田体験版は出す予定です。製品版の4分の1程度をプレイいただけるようにしたいと思っています。
プラットフォームに関しては現状PCのみ発表しておりますが、より多くの人に波及させたいという狙いもあるので、それ以外の展開も含めて、いろいろ検討しています。
『たねつみの歌』に選択肢はある? 『国』シリーズとの関係は?
――Kazukiさんが手掛ける作品は選択肢がない仕様が多いですが、本作はいかがでしょう。
Kazuki『たねつみの歌』も選択肢はありません。島田さんにお声がけいただいたときに、選択肢のあるノベルゲームはやりませんし、やりたくないとお伝えしていました。
――それはどのようなお考えで?
Kazuki誤解のないようにお話したいのですが、私は選択肢のあるノベルゲームや、そういったタイトルを作っている方、遊んでいる方たちを否定する気は一切ありません。
ただ、自分自身がユーザーとしてノベルゲームをプレイしたときに、選択肢があってよかったと思えた体験がありませんでした。おもしろいノベルゲームをプレイして感動したことはありますが、選択肢があって感動したことはない。答えがわからなくて攻略サイトを頼るしかなく、ゲームと攻略サイトの行き来に没入感が薄れたこともあります。
――選択肢に対していい印象がないから、自分の作品では取り入れたくないのですね。
Kazukiあと、ゲームをプレイしていて“主人公=自分”だとは思えなくて。主人公の行動を決める選択肢をプレイヤーに投げかけてくるのに違和感がありました。自分は主人公じゃないから、「選択を求められてもわからない」と冷めてしまう。重要な選択であればあるほど興ざめしてしまう。プレイヤーに判断を委ねるのではなく、主人公が選択した人生を物語として描いてほしいし、見せてほしいと思ってきました。
選択肢を取り入れるなら、主人公の意思を決めるのではなく、外部的な要因を選ぶシステムがいいですね。たとえば、晴れか雨を選んで天気によって物語の展開が変わる、とか。選んだ天気によって登場人物たちはどのような行動を取るのか。外的要因を選択できる作品であれば、プレイしてみたいなと思います。
――Kazukiさんは、『ドラゴンクエスト』のように主人公がプレイヤーの分身であるゲームは遊ばないんですか?
Kazuki遊びますよ。ただ、自分が主人公だと思うことはありませんし、自分の名前をつけることもないですね。逆に、主人公のデフォルトの名前が自分と同じ“カズキ”だったときは、それがイヤで名前を変更したこともあります。
――徹底していますね(笑)。島田さんやYowさんは、ノベルゲームの選択肢についてどのようにお考えですか?
Yowあくまで表現のひとつだと思います。ゲームとして選択肢を取り入れておもしろくなるなら入れるべきだと思いますが、Kazukiさんの作る作品のように、物語に没入させたいなら少ないほうがいいかもしれません。
例を挙げると、僕も大好きな『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』は、厳密に言うと選択肢ではありませんが、プレイヤーの選択によっていろいろな可能性を見ることができるうえ、最終的な結論にたどり着きます。いつか『YU-NO』みたいなゲームを作りたいとつねに考えています。コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスを重視する層と相性はよくないので、いまはなかなか作れませんが……。
島田僕もYowさんと同じで、ノベルゲームの選択肢は表現方法やギミックのひとつ、という考えです。確かに選択肢が邪魔になって、物語への没入感を薄めてしまうことはありますが、一方で「この選択肢を選ぶとどうなるの!?」と、ワクワクさせてくれることもありますよね。
記憶に残っている作品だと、『秋桜の空に』や『ひまわりのチャペルできみと』は選択肢自体が非常におもしろかったです。『WHITE ALBUM2』なら、「コンサートに行く」という選択肢が出るのに選べない、というのは胸が痛かった。キャラクターやストーリーに対してプレイヤーになんらかの感情を呼び起こさせる、そんな魅力が選択肢にはあると思います。
――選択肢の有無に続いて、これもKazukiさんのファンは気になると思いますが、『たねつみの歌』と『国』シリーズの関係性は……。
Kazuki『たねつみの歌』は『国』シリーズとは独立したオリジナル作品です。
けれど、これまでの作品に通ずるところはあると思います。これまでの作品の傾向として恋愛要素の薄さと、時空間の移動が大きいという点が挙げられますが、『たねつみの歌』でも共通しています。
意図したわけではありませんが、島田さんがおっしゃってくれているとおりKazukiらしいシナリオにはなっていると思うので、いままで私の作品を楽しんでくれた方にもお勧めできると感じています。
――『たねつみの歌』の主人公の名前がみすずで、『国』シリーズに『みすずの国』があったので、“みすず”つながりで何か関係性があるのかと思いました。
Kazukiそれにはゲン担ぎのような意味がありまして。“みすず”という名前は、私と同じ山口県出身で憧れの人物である作家・金子みすゞさんからお借りしています。
私は金子さんの詩を読んで自分のセンスを磨いてきたので、自分にとって“みすず”はとても大切な名前です。金子さんのように、小さなことを見逃さずに作品に取り入れる力が、私や自分が生み出したキャラクターにも宿ってほしいと願いを込めています。
――Kazukiさんの作品は女性主人公が多い気がしますが、それも金子さんに關係がありますか?
Kazuki主人公が女性なのは『みすずの国』と『たねつみの歌』くらいなので、多くはないと思いますが、単純に恋愛要素を書くことが少ないので、主人公を感情移入しやすい男性にする必要がない、という理由が大きいですね。
女性だからシナリオを書きにくいということもなくて、私は登場人物たちが置かれたシチュエーションになったらどう考えるだろう、どう想うだろうとイメージしながらシナリオをまとめています。死をテーマにしたときは、これから死ぬ人の心境を想像して書くしかありませんが、他者の心理や立場を想像することはシナリオを書いている人なら誰でも経験していることだと思います。
Kauzki氏とYow氏がゲーム業界に入ったきっかけは……
――せっかくの機会なので、ノベルゲームについていろいろお聞きしたいと思います。Kazukiさんがシナリオライターになったきっかけを教えてください。
Kazuki個人サークルで活動してきたので、シナリオライターとして仕事を受けたのは今回が初めてです。シナリオライターになったきっかけで言うと、島田さんが声をかけてくれたからになるのですが、そもそも私はシナリオライターになりたいから活動していたわけではなくて。ノベルゲームを作るために必要に応じてシナリオを書き始めた感じです。
――Kazukiさんがノベルゲームを作りたいと思ったきっかけは?
Kazukiコピーライトを記載さえすれば、自由に使えるフリー音源があって。私は音楽を聴くのが好きなのでよく聴いているのですが、フリー音源にはかっこいい音楽がたくさんあるんですよ。そういった音楽を使って物語を表現したいと考えたのが、ノベルゲームを作ろうと思ったきっかけになります。
その勢いで作ったのが『みすずの国』です。1時間程度でクリアーできるのですが、これまで手掛けたマンガや小説よりも友人たちの評価がよくて。ノベルゲームを作るほうが適正はありそうだったので、いまもノベルゲームを作り続けています。
――Yowさんが美少女ゲーム業界に入ったきっかけは?
Yow振り返ってみると、けっこうなし崩し的に入った感じです(苦笑)。以前はコンシューマーを手掛けるゲームメーカーに勤務していたのですが、その会社は知人の紹介でアルバイトとして働き始めました。数年後、その知人が独立するということで、グラフィッカーとして手伝ってくれないかと言われて。
僕は同人活動もしていたので軽い気持ちで引き受けたのですが、ある日突然、知人が美少女ゲームをやりたいと言い出しました。イラストを彩色するならいいかと思っていたのですが、急遽、ディレクターも担当することになり……。未経験だったにも関わらずなんとかなったので、そのままディレクターを続けている感じです。
――未体験でもできるということは、天職だったのかもしれませんね。
Yowそうだといいですね(笑)。ゲームを作っていて楽しいですから。
――KazukiさんとYowさんが影響を受けた、ノベルゲームやアドベンチャーゲームはありますか?
Kazukiノベルゲームが好きなったきっかけは、『To Heart』でしたね。キャラクターによっては感動するシナリオもあって、いわゆる“泣きゲー”をプレイしたのはこの作品が初めてで衝撃を受けました。それから名作と言われるタイトルを調べて、3年間で50本ぐらい遊んだんじゃないかな。とくに『Kanon』『AIR』『CLANNAD』は印象に残っています。
――どれも名作ですね。Yowさんは?
Yow僕は初めて遊んだ美少女ゲームの『Rance III -リーザス陥落-』です。ノベルゲームではありませんが、こんなゲームもあるんだなと驚きました。つぎに衝撃を受けたのは『同級生』。『Rance III』から遊び始めた影響で、RPGやファンタジー系を中心にプレイしていたのですが、現代劇でこんなにおもしろい作品もあるのかと感動しました。
ほかには先ほど挙げた『YU-NO』にハマって、ノベルゲームだと『痕』の影響を強く受けています。それまでゲームとしてプレイしていましたが、シナリオ主体でこんなおもしろい作品ができるんだと感動したのを覚えています。
――続いてKazukiさんのシナリオの組み立てかたについての質問です。同人サークルのときは、同時並行しながらシナリオを書き直して完成度を高めていくとお話していましたが、ほかに特徴的なやりかたはありますか?
Kazukiシナリオを書く前に、マンガのネーム(※)のようなものを描いています。プロット(※)をまとめた後、ネームを書いてちゃんとおもしろいシーンになるかどうかを確認しています。ネームまで作っているシナリオライターは珍しいかもしれませんね。
※ネーム……マンガを描く際のコマ割りやコマごとの構図、セリフ、キャラクターの配置などを大まかに表した下書き。
※プロット……ストーリーの筋道を短く要約したもの。
――『たねつみの歌』ではネームを何枚描いたんですか?
Kazuki800枚ぐらい描きました。キャラクターなどが動くシーンは基本的にすべてネームを描いて、立ち位置や動きなどをチェックしてわかりやすいかどうか、退屈に感じないかどうかなどを確認しています。あとは、シーンごとに明暗や色彩のコントラストなどもネームで判断していますね。
――時間のかかる作業だと思いますが、昔から実践されている?
Kazukiネームを描くようになったのは4作目の『ハルカの国』からです。3作目の『雪子の国』は自信があったのですが、実際は箸にも棒にもかからなくて。つぎの作品ではもっと違った作りかたをしないとダメだと感じ、取り入れたのがネームを描くことでした。
以前、マンガを描いていたので閃いたのですが、ビジュアル的におもしろいシーンになっているかどうかをネームで確認し、人が気にしないところもこだわって、自分なりのデザイン性を加えるなどすればステップアップできると考えました。
――手応えは感じられていますか。
Kazukiネームを描かなったシーンは、描いたシーンよりも友人たちの反応が明らかに悪い。「迫力がなくなった」、「前はスペクタクルなシーンが多かったのに、いまはテキストで誤魔化している」と言われました。手を抜いたつもりはありませんが、友人たちの反応を見ると効果はあるようです。
ただ、いまのやりかたはめちゃくちゃ手間がかかるので、正直、やめたい。果たして、手間をかけただけの効果があるのかどうか……。いまのところ半信半疑なので、今後はネーム作業の効率化を進めていくのが大きな課題です。
――Yowさんとしてはネームがあったほうがやりやすいですか?
Yowプロットと合わせてネームで視覚的に確認できたほうがわかりやすいですし、デザイナーにイラストを発注するときも助かりました。僕がディレクションを担当してきたタイトルではこちらで構図を指示することも多かったのですが、Kazukiさんは自分で考えてくれるので打ち合わせがスムーズでした。
――周囲には好評なようなので、効率化できればさらに大きな武器になりそうですね。あとKazukiさんにお聞きしたかったのが、以前、シナリオ構築を情報処理と表現していたコメントが印象的でした。その意図を教えていただければ。
Kazuki情報処理……、どこで発言したのか記憶が定かではないのですが、おそらくどう伝えるのか、というのを言いたかったんだと思います。シナリオを書いていくうえで情報密度をある程度保たないといけない。でも、ただ詰め込んでいけばいいわけではない。
読みやすく構築されたシナリオは、うまく整理されたスーツケースをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。しっかり詰め込まれているけど、どこになにがあるのかすぐにわかる。シナリオも優先度、順序、頻度、割合、尺、カメラの位置や画角といったさまざまな情報を整理したうえでまとめていくので、情報処理と表現したのではないでしょうか。
――それは頭の中で整理しているんですか?
Kazukiホワイトボードに書き出しています。ひとつのシーンでも見えないところで、いろいろなことが同時に起こっています。そのシーンをどんな画角で切り取ってゲームにするのか。同時進行で起こっていることを書かないと整理するのが難しいので。
たとえば、主要キャラクターが3人いて、そのうちひとり・Aの視点でシーンを描くとします。Aはもちろん、そのシーンにいないBとCがこのとき何をしているのかをちゃんと把握しておかないと、リアリティーのあるシーンは書けません。ホワイトボードで情報を整理するのは、1作目の『みすずの国』のときから実践しています。
――ノベルゲームのシナリオやシーンを考えるにあたって、情報のインプットはどのようにしているのかも伺いたいです。
Kazuki映画からインプットすることが多いですが、新作を何本も観るわけではありません。私は好きな映画をくり返し何度も見返すのが好きです。あとは本を読むのも好きです。とくにお気に入りなのは科学技術を扱った本。人にしゃべりたくなるうんちく好きなので、知識をインプットしています。
本といえば昔の図鑑を読むのも楽しいです。1980年代や1990年代は、いまよりも本作りにお金をかけているので、作りが豪華ですし、いまとは異なる未来の予想がされている。2000年代の人口問題はこうなっているだろうとか。それに対して、いろいろツッコミながら読むのが楽しいんです。昔の学者がいろいろ研究しても予想を外しているんだから、いまの予想も外れるに違いない。それをテーマに扱ったらおもしろいかもと考えたりしています。
――確かに答え合わせはおもしろそうですね。映画で好きな作品やジャンルは?
Kazuki『ショーシャンクの空に』は、100回ぐらい見たかもしれません。学生時代はこの映画のことを好きな友人全員でセリフを覚えて、日本語吹き替えのマネをして遊びました。あと『ゴッドファーザー』もすごく好きで何回も見ましたね。
邦画だと小津安二郎監督の作品がいちばん好きです。定点カメラのカットが多い小津監督の映画は、画作りがノベルゲームに似ていますし、セリフの長さや間が自分の感性にピッタリ合うんです。小津監督の映画も何度も見返していて、いずれ私なりにノベルゲームで表現してみたいなと夢見ています。
クリエイターが考えるノベルゲームの魅力、そして売れるノベルゲームとは?
――最後に、皆さんが考えるノベルゲームのよさや魅力を改めてお聞きしたいです。
島田良質のノベルゲームで体験できる没入感や読後感は格別です。時間を忘れてエンディングまでプレイして、スタッフロールを見ながら感動のあまり動けなくなる……。ノベルゲームでそんな体験をした方は少なくないのではないでしょうか。
Yow僕は能動的なところではないかと思います。自分でページをめくる小説に似ていますが、自分に合ったスピードで読み進めることができるので、物語により入り込みやすいのではないかなと。
しかも、小説にはない音楽やふんだんなイラストが合わさってストーリーを盛り上げてくれます。小説には想像力を掻き立てられるよさはありますが、ノベルゲームには映画やアニメのようなイラスト、音楽といった要素も含まれていて、それらを一度にまとめて楽しめるお得なコンテンツだと思います。
Kazukiあえておふたりと違う意見を言うとすると、ひとつの画面に表示される情報量が少ないところですかね。小説だと見開きページの情報が入ってきますし、映画やアニメはどんどん進んでいくうえ、作品によっては情報量が多い。
でも、ノベルゲームは全体的に情報量が少ないので、小説とは違った意味でユーザーに想像する余地が生まれると思います。この子は何を考えているだろうとか、これは伏線なのかなとか……。想像することで作品への没入感が高まりますし、登場人物たちへ感情移入をして愛着が湧くんじゃないでしょうか。
――では、どんなノベルゲームが売れるとお考えですか?
Kazukiすべてとは言いませんが、売れるタイトルには恋愛要素が入っていますよね。
でも私自身、恋愛要素を求めているユーザーがどれくらいいるのか、再確認しないといけないのではないかと考えています。最近は交際への意欲も薄く、結婚願望も低下していると耳にします。多くの人たちの関心は恋愛ではなく、もっとほかの悩みだったり、苦しみだったりにあるのではないかなと。そういったいまの不安や悩みを分析し、解像度を高くして描かないと、多くの人たちの共感は得られないのかなと思っています。
島田ノベルゲームに限らず“売れる”という意味では、ファンに愛されるキャラクターを生み出せるかどうかが重要になるのかなと思います。
Yow売れるノベルゲーム……これは本当に難しい。ゲームに限らず、マンガや映画などの有料コンテンツにお金を払うときは、何らかの理由で情報を知って気になったから購入しようとしますよね。それで言うと、最近はインフルエンサーの影響が大きいのかな……。自分の好きな人がSNSでおもしろいと言っているから、プレイ動画を配信しているからやってみようと考える人が多いのかもしれません。
そのうえで実際に遊んでもらって、作品に対してどれだけ感情移入してもらえるのかが重要なのかなと。おもしろければ、友人や家族に薦めたくなるはずなので、そこから販売本数をさらに伸ばせる可能性がありますよね。
――売れるノベルゲームのお考えをお聞きしたうえで、最後にどのようなアプローチをしていくのかをお聞きしたいです。
島田おもしろいノベルゲームを作りたい、という視点でアプローチした結果がANIPLEX.EXEのラインアップであり、つぎにリリースする『たねつみの歌』になります。売れるかどうかは発売してからでないとわかりませんが、結果はどうであれ、ノベルゲームの魅力を広げていくために今後もいろいろとチャレンジしていきたいです。
Yow少なくとも、自分がおもしろいと思えないゲームを他人がおもしろいと思うはずがないと思っています。自分がおもしろいと思えるのか。そこはずっと意識していますし、世間の感覚とズレがないように、話題作などのチェックも欠かさず行っています。
僕は王道のノベルゲームを好きになることが多いのですが、幸いにもハマったタイトルは世間的にもヒットしているので、自分がおもしろいと思ったものに対して、共感してくれる人は多いんじゃないかと思います。プレイしてもらえさえすれば楽しんでもらえると思うので、興味を持った方は『たねつみの歌』にご期待ください。
Kazuki先ほど多くの人が抱える不安や恐怖の解像度を高める必要があるとお伝えしましたが、私は自己像の破壊こそ、現代人が抱える不安や恐怖の最たるものではないかと考えています。
昔と比べると地域の交流が薄くなり、コロナ禍でリモートワークが加速してリアルなコミュニティが希薄になったと感じています。ひとり暮らしをしていると、親子のつながりも弱くなってしまいますし、両親が亡くなってしまえば、自分を認めてくれる存在がいよいよ失われてしまうかもしれません。
そうすると、自分のアイデンティティがどんどん失われて不安になってしまう。『たねつみの歌』に登場する神々の世界で暮らす住人たちもまさに同じ恐怖を抱えています。というのも、神々の住人たちは一族の長や父、母、子どもといった“役割”が名前になっていて、名前が“自分らしさ”を担保するもの。彼らは役割に強い愛着を持っているので、それを喪う“たねつみの儀式”をひどく恐れているんですね。
多くの人が抱えているであろう、“自分らしさ”を失ったとき、神々はどうなるのか。みすずたちはこの問題をどの様に解決していくのか。『たねつみの歌』では私なりに、現代の不安や恐怖を描写しているので、読者の心に響くものになっていれば幸いです。
『たねつみの歌』作品情報
ストーリー
幼い頃に母を亡くしたみすず。2023年の春、16歳の誕生日を迎えたみすずのもとに、一人の少女が訪ねてくる。それは、16歳の母・陽子だった。
神々が住まう“常世の国”で行われる“たねつみの儀式”。その巫女に選ばれた陽子は、旅の仲間としてみすずを誘うため、1996年からやってきたのだと告げる。
たねつみの儀式は、不死である神々が新たな時代へと世代交代していくために必要な、神々の葬式。“たねつみの巫女”は常世の国を巡り、大地に穢れをもたらす“本当の冬”が到来する前に、古い神の長たちに死を受け入れてもらわなければならないという。
陽子に誘われたみすずは2050年に赴き、16歳になったみすずの娘・ツムギも仲間に加えて常世の国へと向かう。
水先案内人として現れた、自身をみすずの弟と名乗るヒルコを交えて、四人は本当の冬を迎えつつある詩情豊かな国々を旅していく。
時を越え、奇跡のように集った少女と少年。旅の果てに、彼女たちがたどり着く結末とは――。
スタッフ
- 企画・シナリオ:Kazuki(STUDIO・HOMMAGE)
- キャラクターデザイン:popman3580・マニアニ
- 音楽:原田萌喜
- 演出・ディレクション:Yow
- プログラム開発:iMel Inc.
- オープニングテーマ:“夜を越える” 歌:sola
- エンディングテーマ:“たねつみの歌” 歌:Rita
キャスト
- みすず:飯沼南実
- 陽子:渡部紗弓
- ツムギ :早瀬雪未
- ヒルコ:田村睦心
- 龍神族の王:岩崎ひろし
- 姉姫:井上ほの花
- 妹姫:髙橋咲貴
- シオミ:栗坂南美
- フクロウの婆さん:宮沢きよこ
- 乙姫:木下紗華
- キツネの奥さん:山本悠有希
- タヌキの旦那:かぬか光明
- 猫:虎島貴明
製品概要
- タイトル:たねつみの歌
- ジャンル:ノベルゲーム
- 発売時期:2024年発売予定
- プラットフォーム:PC
- 対応言語:日本語・英語・簡体字
- 公式Twitter:@ANIPLEX_EXE
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