「ゲームをうたう」は,詩人がゲームからインスピレーションを受けて詩を作る企画です。詩人の言語によって,あなたの知っているゲームはより新鮮に,あなたの知らないゲームはより好奇心を誘う姿へと,新たに再構築されるでしょう。

 第3回は,「アイドルマスター シャイニーカラーズ」(iOS/Android)。歌人の笠木 拓さんによる,SHHisのふたりをイメージした新作短歌22首をご紹介します。

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奈落にてきみと甘露を
笠木 拓

それは鋭いが覆い隠され、沈黙のなかで叫んでいる。奇妙に矛盾した言い方だが、それはゆらめく閃光なのである。 ―ロラン・バルト

さえざえと明るい窓を過現未のだれも偶像めいてよこぎる


 The (Ghost of Christmas) Past

消え残るひこうき雲をながめてたガラスの靴に指かけたまま

そうなの? と結露の窓に書いてすぐ消したみたいな傍白でした


 七草にちか

モノラルな夜に塗られた窓を背に掲げてたんだおもちゃのマイク

付け髪〈エクステ〉も足ももつれて靴ずれのケロイドかばいながらパ・ド・ドゥ

見とれてちゃもうだめ。螺旋階段を踏みしめ金のえりあしを追う


 緋田美琴

本望、と口にするたび崩折れる獣の四肢を撫でて宥めて

人間の重さは脱いでみせるから氷の湖〈うみ〉のペンシルターン

はちみつの滲みたレモンは奈落から仰ぐひかりの味に似ていた


"God is Dead", They Said.

千早振る鏡の中のカミサマに突きつけるべく繰り出す紅〈ルージュ〉

喉を焼くピンスポットを浴びながら歌うよ、奪わせはしない、って


 Home! Sweet Home!

なんどでも燎原の火を踏みこえて戻っておいで星の窓辺へ

くつしたで包めばギフト その足は月までだって跳ぶため、でしょう?


 緋田美琴

小さくてしたたかな手に手を重ねきみと序章をふたたび踊る

生きていくの。次の舞台へ。完璧な私を生かすただの私も

ソワレまでまだ少しあるゆめうつつ筑前煮へと絹さや散らす


 七草にちか

うっとりと膝を抱えて夜の淵この靴音を待っててくれた

カラットで数えられない耀きもぎゅっと握って立つ舞台袖

脚光が一瞬ごとに刻んでく影のぜんぶが私の靴だ


 SHHis

ブランコのLとRに腰かけてたゆたう春の対話篇〈ダイアローグス〉

奈落にてきみと甘露を分けあって頷きあった玉響〈たまゆら〉のこと

寄せ返す喝采のなみまぶしくて、そうだよ、明日へふたりを運ぶ


冒頭の引用はロラン・バルト『明るい部屋―写真についての覚書』(花輪光訳、みすず書房、1997年)に拠りました。


■笠木 拓

歌人。歌集『はるかカーテンコールまで』(港の人、2019年)で第2回高志の国詩歌賞、第46回現代歌人集会賞。「遠泳」同人。大崎甘奈さん・甜花さん姉妹の出身地に住んでいます。
公式サイト:https://zenjitsutan.com/

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