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[インタビュー]愛の深さに脱帽したサンリオの「フラガリアメモリーズ」。すべての要素に意味を込めたこだわりの制作秘話を聞く

ライター:玉尾たまお

 サンリオが手掛ける「フラガリアメモリーズ」は,「人型キャラクターで贈る“新世代の本格ファンタジー”プロジェクト」だ。本作は,ハローキティたちの願いに応えて立ち上がった“フラガリアの騎士”たちの物語を描くメディアミックスプロジェクトで,2023年9月の発表以来,多数のファンを獲得し話題となっている。


 今回4Gamerでは,プロジェクトのプロデューサーを務める村上一馬氏と,デザイナーのエン氏に話を聞く機会を得た。本作がどのように作られ,今後どういった展開を考えているかなど,制作陣の想いをたっぷりとお届けしていこう。

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[2023/12/28 15:00]
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目次
1.キャラクター事業を推進する「サンリオ」ならではの制作秘話とは

2.世界観とキャラクターはどのように作られた?
  デザイナー・エン氏によるフラガリアの騎士たち18人の解説
 RED BOUQUET(レッドブーケ)
 BLUE BOUQUET(ブルーブーケ)
 NOIR BOUQUET(ノワールブーケ)

3.ボイスドラマや楽曲,3DCGライブなど予定が目白押しのプロジェクト展開

4.プロジェクトの気になる今後。アニメやゲーム化の可能性は……?




キャラクター事業を推進する
「サンリオ」ならではの制作秘話とは


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。まずは「フラガリアメモリーズ」におけるお二人の役割についてお聞かせください。

プロデューサー 村上一馬氏(以下,村上氏):
 よろしくお願いします。私はプロデューサーとしてプロジェクトのスタートから制作に関わりながら,全体の方向性やビジネス周りなどを管理しています。

デザイナー エン氏(以下,エン氏):
 私は作品に登場するキャラクターや背景のデザインのほか,キャラ設定や世界観などを管理させていただいています。また,ボイスドラマなどメディア展開のシナリオやセリフ,キャラクターの喋り方なども監修しています。

4Gamer:
 えっ,そうなんですか。エンさんはデザイナーとうかがっていましたが,ビジュアル面以外の制作にも関わっていらっしゃるんですね。

村上氏:
 これは弊社の特色だと思うのですが,ひとくちに「デザイナー」と言っても絵に携わるだけではないんですよ。キャラクターのデザインを担当した者とプロデューサーなど複数の人間が協力し合い,キャラクターの世界観を広げていっています。弊社はそのあたりが密接した関係になっているんです。

エン氏:
 「SHOW BY ROCK!!」や「サンリオ男子」など,ほかの人型キャラクタープロジェクトもそうですね。プロデューサーだけでなく,デザイナーもクリエイティブディレクションまで担うことがほとんどです。

4Gamer:
 なるほど,さまざまなキャラクター事業を行うサンリオならではですね! では,「フラガリアメモリーズ」のプロジェクト立ち上げについてお聞かせください。本作はいつ頃,どんなきっかけでスタートしたのでしょうか。

エン氏:
 確か今回の企画を考えたのは2022年の春頃だったと思います。サンリオに多い頭身の低いキャラクターとは異なる,いわゆるサンリオキャラとは異なる人型キャラクターのコンテンツを作ろうということになり,企画を考えたところにプロデューサーとして村上が参画したという形です。

村上氏:
 立ち上げた時点では,本当にごくごく少人数で企画を進めていきました。本格的に動き出したのが2022年の秋頃だったので,2023年9月の発表までの期間は1年くらいだったということになりますね。

4Gamer:
 いや,よくこれを1年で作りましたね……。世界観やキャラクター設定などについては後ほどうかがいますが,かなり細かいこだわりがあるそうですし。

村上氏:
 短距離走のペースで長距離を走りきった感覚です(笑)。実は当初,いろいろなお披露目をAGF(毎年11月に開催される「アニメイトガールズフェスティバル」)に間に合わせたいという想いがあったんですよ。それで作っていくうち,「間に合うかな?」「間に合いそうだ!」と,走り抜けたという……。

エン氏:
 例えば,ゲームだと発表から本リリースまでの間に「事前登録期間」がありますよね。最初の公式Xでのキャラクター発表は,その感覚に近かったかもしれません。

村上氏:
 最初はボイスドラマとMVを軸にすることは決めていたので,ボイスドラマが始まるまでは事前登録的な感じで,少しずつ皆さんにコンテンツのことを知ってもらえたらいいなと考えていました。

4Gamer:
 発表当時はものすごい反響がありましたよね。筆者の周りでも「あれ見た!?」という感じで,2023年の秋は「フラガリアメモリーズ」の話題でもちきりでした。正直,あの盛り上がりは予想していましたか。

村上氏:
 さすがにあそこまでとは思っていなかったので,本当にありがたかったです。

エン氏:
 話題になってほしいとは思っていましたが,驚きました。発表前はすごく緊張していたんですよ。主(ロード。騎士たちが仕えるサンリオキャラクターたち)に対し,少し攻めたデザインのキャラもいたので,どんな反応が返ってくるんだろうと。でも,すごくポジティブな反響をいただけてうれしかったです。しかも,主(ロード)のサンリオキャラクターの名前がトレンド入りしたりして。

村上氏:
 主(ロード)であり,騎士たちのモチーフとなったサンリオキャラクターたちにも注目してもらえたというのは,この企画を進めた当初から「いつかこうなってほしい」と思っていたことでした。社外のイラストレーターさんに参画していただいたのもサンリオとしては珍しい取り組みだったので,リアクションはすごく気になっていたんです。

サンリオ新キャラ
? #フラガリアメモリーズ ?

【ハンギョン】
CV:松岡洋平
Illust:尾崎ドミノ

さびしがり屋の「ハンギョドン」に近づき契約したフラガリア。怪しくうさんくさい言動が多く、腹の底が掴めない。 pic.twitter.com/IjSJssYNU5

— フラガリアメモリーズ 【サンリオ公式】 (@fragaria_sanrio) October 19, 2023

※キャラクター発表で最もシェアされたのが上記ポスト。8.3万RP,15万いいねという大反響だった

エン氏:
 本作は,1人のイラストレーターさんがすべてのキャラクターを担当するのではなく,それぞれ別の方が描いてくださりましたが,最初は会社の上の人間から「それでいいのか」と聞かれたりもしたんです。でも,村上が「サンリオってもともとそうじゃないか?」と。サンリオも「ポムポムプリンの担当デザイナー」「マイメロディの担当デザイナー」というように,いろいろなデザイナーがひとつ屋根の下にいるわけです。村上に「『フラガリアメモリーズ』はそのイメージと近いかも」と言われて,確かにそうだなと気づきました。


世界観とキャラクターはどのように作られた?


4Gamer:
 「フラガリアメモリーズ」に登場するキャラクターは,「RED BOUQUET(レッドブーケ)」「BLUE BOUQUET(ブルーブーケ)」「NOIR BOUQUET(ノワールブーケ)」と呼ばれる3つのグループに分かれていますね。この組分けについてのこだわりなどはありますか。


エン氏:
 最初は,ブーケごとの統一感をかなり意識していたんです。でも,サンリオのキャラは色の印象が強い子たちが多いんですよ。あまり赤・青・黒というテーマカラーに囚われすぎると,それぞれの個性との両立が難しいなと。それこそレッドブーケにいるプルースは,ポムポムプリンに仕える騎士なので,赤の要素を入れることは正解なのだろうか? みたいな。

4Gamer:
 ポムポムプリンといえば,クリーム色や茶色といった色のイメージが強いですしね。

エン氏:
 そうなんです。ノワールブーケだけは「はぴだんぶい」というユニットが元になっているので,すんなりと決まったのですが。

「はぴだんぶい」は,2020年に結成されたサンリオのキャラクターユニット。ポチャッコ,タキシードサム,けろけろけろっぴ,バッドばつ丸,ハンギョドン,あひるのペックルで構成されている

村上氏:
 バランスを重視して組分けを作っていきましたが,結果としてそれぞれの雰囲気は統一されたかなと思います。

エン氏:
 レッドブーケはハルリットを中心に個性的なキャラが揃った正統派なイメージで,ブルーブーケはどこか神秘的な雰囲気を持つキャラクターが揃っています。実はブルーブーケの主(ロード)たちは,シナモロールをはじめ当時SNSなどのネットで話題になったサンリオキャラクターが多いんです。リトルツインスターズ(キキ&ララ)もブログをやっていましたしね。

 ノワールブーケの主(ロード)たちは先ほどもお話ししたとおり「はぴだんぶい」が元になっていますが,1980年代〜90年代にとくに皆さんに愛された男のコたちが揃っています。

4Gamer:
 言われてみれば確かに! では,イラストレーターさんにはどのように発注したのでしょうか。

エン氏:
 主(ロード)のキャラクターデザインのなかで,必ず入れてほしい要素やイメージの資料をつくってお渡ししました。そのうえで,ほかのキャラとも似たような髪型やスタイルにならないようにしなければならなかったため,シルエット感などの要望をお伝えしたこともありましたね。


デザイナー・エン氏による
フラガリアの騎士たち18人の解説


■RED BOUQUET(レッドブーケ)

ハルリット
CV:梶原岳人/ILLUSTRATOR:LAM


「向かって右上のリボンはどんなにかわいくなってしまっても絶対に入れたいとお伝えしました。また,キティが着ている青いオーバーオールのサスペンダーのイメージも入っています。ブーツの黄色いリボンはキティの双子のミミィのイメージです」

主(ロード):ハローキティ




メロルド
CV:林 勇/ILLUSTRATOR:赤倉


「ブルーブーケのクロードと合わせて描いていただきました。マイメロディは元々『赤ずきんちゃん風』にデザインされたこともあり,フードを着ています。また,横のスリットはマイメロディの首の下の切れ込みデザインをイメージしました」

主(ロード):マイメロディ




プルース
CV:寺島拓篤/ILLUSTRATOR:野崎つばた


「ポムポムプリンはゴールデンレトリバーなので,犬をモチーフにしたデザインが多く,腰から出ているベルト調のものはリードのイメージです。靴が左右違うのは,靴を片方ずつ集めて隠しているというプリンの趣味を反映しています」

主(ロード):ポプポムプリン




ロマリシュ
CV:土岐隼一/ILLUSTRATOR:TCB


「マロンクリームのパフスリーブのシルエットを,ケープを羽織ることで表現していただきました。お花柄や水玉もマロンクリームのイメージですね。まだ後ろ姿は公開していませんが,そちらにもこだわりが隠されています」

主(ロード):マロンクリーム




リミチャ
CV:日向朔公/ILLUSTRATOR:くろうめ


「KIRIMIちゃん.は『食べキャラ総選挙』で1位になったキャラクターなので,口元に特徴を持たせました。あと,右側にボリュームがある元のシルエットを,髪型のアシンメトリーさで表現していたりも。網タイツは焼き網のイメージです……!」

主(ロード):KIRIMIちゃん.




サナー
CV:仲村宗悟/ILLUSTRATOR:山口つばさ


「ウサハナは空やお花などからもらったカラフルな色を大切にしているキャラなので,そこを活かしました。また,ウサハナがデビューした2000年前後はシール交換が流行っていたのもあり,そのイメージも取り入れています」

主(ロード):ウサハナ





■BLUE BOUQUET(ブルーブーケ)

シエロモート
CV:島﨑信長/ILLUSTRATOR:望月けい


「シエロモートの王道ミステリアスなイメージを表現しつつ,シナモロールの『雲』『空』『白い子犬』といったモチーフを取り入れました。また,シナモロールは尻尾が渦巻いているのも特徴なので,シエロモートの髪の毛もくるんとさせました」

主(ロード):シナモロール




クロード
CV:坂田 将吾/ILLUSTRATOR:赤倉


「精神性の話になりますが,クロミの『なりたい自分になる』というテーマがベースになっており,『世界クロミ化計画』のビジュアル感を活かしています。ふわふわしたかわいらしさのメロルドとは対象的に,ダークなかわいさというイメージですね」

主(ロード):クロミ




ウィルメッシュ
CV:千葉翔也/ILLUSTRATOR:えびら


「ウィッシュミーメルは郵便配達のお手伝いをしているコなので,メールバッグを持たせたり,シーリングワックスモチーフのブローチを付けていたりします。また,ウィッシュミーメルの手のひらの水玉模様を,水玉のばんそうこうで再現しました」

主(ロード):ウィッシュミーメル




クラークステラ
CV:三上瑛士/ILLUSTRATOR:うごんば


「キキ&ララが『ゆめかわいい』や『お星さま』といったイメージなので,そこから発展してパジャマっぽいイメージをベースに衣装を考えました。頭のてっぺんにある双葉っぽい髪の毛もキキ&ララをイメージしていますね。背が高いのもポイントです」

主(ロード):リトルツインスターズ(キキ)




ルタールステラ
CV:榊原優希/ILLUSTRATOR:うごんば


「基本のイメージはクラークステラと同様ですが,ただの色違いにならないようにこだわりました。2人ともドリーミーな雰囲気はありつつ,かわいすぎず,神話のような神秘さがある綺麗なデザインになったなと思っています」

主(ロード):リトルツインスターズ(ララ)




ミュンナ
CV:徳留慎乃佑/ILLUSTRATOR:夜汽車


「小麦粉の精という,こぎみゅんの吹き飛ばされて粉になっちゃいそうな“儚いかわいさ”をデザインに落とし込みました。あと,服の後ろがペットのエビちゃんのシルエットになっていたり,靴の飾りはこぎみゅんのサインがモチーフになっていたりしています」

主(ロード):こぎみゅん





■NOIR BOUQUET(ノワールブーケ)

バドバルマ
CV:武内駿輔/ILLUSTRATOR:三輪士郎


「バッドばつ丸のやんちゃな男のコという雰囲気を,そのまま等身大の男性として再現しました。また,ばつ丸自身もよく使う『丸とバツ』の形を衣装の飾りにたくさん使っています。ちなみに,ばつ丸のペットのワニは『ポチ』と言いますが,バドバルマが連れいているワニ型妖精の名前は『タマ』です(笑)」

主(ロード):バッドばつ丸




チャコ
CV:小笠原 仁/ILLUSTRATOR:黒野ユウ


「ポチャッコのシルエット感をイメージしているのと,すごくアクティブに動く子であるところをスケボーという要素で表現しました。ただのモノトーンにならないよう色のバランスもこだわり,ヘアカラーもほかの子と似た感じにならないよう個性を出しました」

主(ロード):ポチャッコ




アルペック
CV:畠中 祐/ILLUSTRATOR:およ


「あひるのペックルの宝物であるバケツから,水辺の要素として水鉄砲を持たせました。また,足が大きいところも靴で再現していますね。それから,鳥っぽいシルエットのイメージとしてハンチング帽も。ワッペンの『1989』はペックルのデビュー年です!」

主(ロード):あひるのペックル




タッサム
CV:村瀬 歩/ILLUSTRATOR:Lowro


「タキシードサムは,イギリスへの留学経験もある紳士なペンギンの男のコなので,高貴なイメージを大切にしています。この帽子はサムが被っているセーラー帽と,英国と言えば……なシャーロック・ホームズの帽子を合体させたものです。ステッキには,サムがよくこぼすアイスが乗ってます」

主(ロード):タキシードサム




ハンギョン
CV:松岡洋平/ILLUSTRATOR:尾崎ドミノ


「中国生まれの半魚人という,ハンギョドンの妖しい要素をデザインしていきました。丸い目をサングラスで表現したのと,ハンギョドンの唇のピンク色をレンズとメイクに落とし込んだり。肩にいる妖精『リリ』は,ハンギョドンと仲良しなタコのさゆりちゃんをイメージしていて,より“あやかし”っぽく見せるために吸盤をリアルに描いています」

主(ロード):ハンギョドン




ピケロ
CV:町本成史/ILLUSTRATOR:生川


「主(ロード)の本名が『はすの上 けろっぴ』なので,傘に黒い柄を入れて蓮の葉っぽく見せました。あと,分かりにくいのですが目の色はピンクで,これはけろっぴのほっぺの色を表現しています。全体のイメージは中国ではなくベトナムですね」

主(ロード):けろけろけろっぴ




4Gamer:
 それにしても,記事に載せられるのはほんの一部と言っていいほどの細かいこだわりですね。まだ後ろ姿を見せていないキャラも多数いますが,今後ぜひ設定資料集などで残していただきたいです。

村上氏:
 そうですね,ぜひいつかどこかで出したいと思っています。

4Gamer:
 私個人も昔グッズを持っていたサンリオキャラクターもいましたが,「そんな設定があったのか」と今日あらためて知ったことも多く,面白いと思いました。

エン氏:
 元々グッズ展開を主にしてきた会社なのもあって,設定を知らなくても愛着を持っていただけるのがサンリオキャラクターの良いところだと思います。なので,あらためて面白い,楽しいと感じていただけるのは「フラガリアメモリーズ」冥利につきますね(笑)。

4Gamer:
 キャラデザも素晴らしいのですが,背景もすてきだなと思いました。記事掲載時点で公開されているものですと「ハローキティ王国」「マロンクリーム王国」「クロミ王国」ですね。

エン氏:
 フラガリアの騎士がサンリオキャラクターの要素を再解釈,再構築して人の形にしたものだとすれば,主(ロード)の特性を街並みで表現した感じが近いと思います。メタ的な要素ではありますが,例えばキティの場合はいろいろなグッズ展開やコラボなどをやらせていただいた歴史があるので,「ハローキティ王国」は商業が発展している設定にしよう,など。

4Gamer:
 なるほど,市場などが活発に展開されているイメージですね。

ハローキティ王国

エン氏:
 はい。「マロンクリーム王国」は,クッキーを焼くなど手芸が好きなイメージと言いますか,レトロで丁寧な雰囲気にしたかったんです。昔の日本人が憧れる外国のような,温かく落ち着いた色合いながらも華やかに花が咲いている感じですね。

マロンクリーム王国

エン氏:
 「クロミ王国」は,クロミ自身の誕生日であるハロウィンをイメージしています。とはいえオレンジを使ってしまうとハロウィン過ぎるので,先ほども出た「世界クロミ化計画」の雰囲気をベースにしました。

クロミ王国

4Gamer:
 これから登場する背景も楽しみになります。キャラクターとも異なる温かさを感じるタッチで描かれていますが,このスタイルにしたのはどのような理由ですか。

エン氏:
 実は,背景をどこまでカッチリ仕上げるかはかなり検討したんです。ただ,やっぱりサンリオには絵本のようなイメージが合うと思いましたし,海外のCG映画のイメージボードのような雰囲気がいいんじゃないかなと,あえて少し粗めのタッチにしました。

4Gamer:
 「フラガリアメモリーズ」はミニキャラもとてもかわいいですね。ぜひ絵本なども作っていただきたいです!

村上氏:
 機会があれば検討したいですね(笑)。


ボイスドラマや楽曲,3DCGライブなど
予定が目白押しのプロジェクト展開


4Gamer:
 プロジェクト展開についてもお聞かせください。最初のキャラクターの発表に続いて楽曲とMV,そして現在はボイスドラマが展開されています。

村上氏:
 先ほどもお伝えしたとおり,まずはボイスドラマと楽曲(MV)を軸にするのは当初から決めていました。ボイスドラマの本スタートまでが“事前登録期間”のようなイメージだとすると,本作の空気感や世界観を少しずつ感じていただくために,楽曲を提示したという形です。一気にいろいろ展開するより,少しずつコンテンツについて知っていただきたかったんですよね。

4Gamer:
 現在公開されている楽曲はブーケごとのものですね。ここに込められたこだわりはどのようなものですか。

村上氏:
 ブーケごとの曲ではありつつ,キャラクター個々のことを描いています。ボイスドラマのセリフなどでは描かれていない,あるいは口にしていない彼らの想いは,音と歌詞で表現することができると考えました。そういったことはすごく意識しています。

 ボイスドラマを観たあとに楽曲を聴くと,歌詞の捉え方が変わったり,「これってこういう意味だったんだ」と気づくこともあったりすると思うので,ドラマと歌を行き来する楽しみ方もしていただきたいです。

4Gamer:
 では,音楽的なところはいかがでしょうか。

村上氏:
 最初に発表した「EVER RED」は,序盤のピアノからオーケストラサウンドが展開され,同じレッドブーケの「Your Melody」はストリングス主体で始まります。どちらの曲もサビでは4つ打ちでダンサブルなサウンドという共通点があるんですね。このジャンル選択やサウンドに関しては,主(ロード)やフラガリアの騎士たちのことをすごく意識しています。

 具体的にお話すると,「EVER RED」はプロジェクトが最初に発表する曲であり,レッドブーケかつハルリットの曲でもあるので,ピアノの音からスタートしようと決めていました。というのも,主(ロード)であるハローキティの趣味がピアノで,ハルリットの特技もピアノなんですよ。


4Gamer:
 確かにそうでした!

村上氏:
 さらに,プロジェクトのタイトルに「メモリーズ」とあるので,そこも表現しようと思いました。“実際に起きた出来事”を生楽器のオーケストラサウンドで描き,“思い出”をデジタルとして捉え,その切り替わる感じをイントロで表現しました。思い出って目に見えないけど確かにそこにあるものだと思うので,それを電子音のリフなどから感じ取ってもらえるといいなと。

4Gamer:
 なるほど……。

村上氏:
 また,複数人で歌う曲なので,どれも1番と2番を繰り返すだけの構成にしないように意識しています。歌う人が変わるなら違うメロディのほうが映えることもありますし,フルで聴いて楽しめるようになっているんじゃないかなと。だから演者さんには,「(歌が)難しい,覚えにくい」って言われるのですが(笑)。

4Gamer:
 いやー……楽曲にここまで意味が込められていたとは。キャラクター設定もそうですが,このプロジェクトにはすべてに意味が込められていますね。

村上氏:
 はい,一つひとつかなりこだわって作っています。

4Gamer:
 楽曲1つで深読みや考察を始めたらいくらでもできますよね。先ほどのキャラクター設定もそうですが,楽曲のお話からも,皆さんのこだわりを強く感じました。非常に“愛が深い”プロジェクトですね。

村上氏:
 そう言っていただけるとうれしいです(笑)。今はいろいろな楽曲を無料で聴ける手段も多いので,音楽にしても「1回聴けばいいや」と消費されてしまうものにしたくなかったんです。最後までこだわって作り込んで,長く何度も聴いてもらえるようにと期待しています。

4Gamer:
 それでは,ボイスドラマのシナリオについても聞かせてください。

エン氏:
 キャラクター単体でも魅力があると思いますが,やっぱりほかの誰かと組み合わさったときの良さがありますよね。こういうときこの人はこう反応するとか,この人の行動はこの人にはこう映るみたいな。それを表現しようと作ったので,楽しいドラマになっていると思います。

 現在公開されているレッドブーケとブルーブーケのドラマは,それぞれ別のライターさんにお願いしているんですが,大陸ごとの個性も元々違うので,制作していても楽しいです。テンポ感や言葉遣いなど,それぞれ異なるすてきな雰囲気が出ているかなと思います。

 あとは,ボイスドラマと言いつつも,音声だけでなく,ノベルゲーム風のビジュアルや演出を差し込んだコンテンツであることも,魅力の1つにしています。


4Gamer:
 確かに,最初にビジュアルを見たときと,良い意味で印象が変わったキャラもいました。フルボイスですし,キャラクターの表情差分も多いし,飽きさせない演出もあり,30〜40分の動画ですがあっという間に感じた人も多いかもしれません。

村上氏:
 30分を超えるのは少し長いかなとも思ったんですが,ポジティブな感想が多くて良かったです。収録でのディレクションも,音響監督さんがすごくこだわってくださったんですよ。

エン氏:
 例えば,ブルーブーケの1話「だるまさんが転んだ」というセリフは何回も録り直したんです。「もっと子どもの頃を思い出して!」とか(笑)。

4Gamer:
 そうだったんですね! 本当に細部まで作り込まれているので,無料で観てしまっていいのかな? という感じでした。このボイスドラマはまだしばらく続いていくのでしょうか。

エン氏:
 具体的にいつまでとはお話できないのですが,キャラが18人いるのでそれぞれの良いところをしっかり伝えていきたいと思います。

4Gamer:
 楽しみです。そういえば,エイプリルフールに発表された楽曲(ノワールブーケの「ALL SO BAD」をはぴだんぶいがカバー)も驚きました!


エン氏:
 ありがとうございます,皆さんに喜んでいただけて良かったです。収録もすごくかわいらしかったんですよ。

4Gamer:
 このあとの展開もいろいろと発表されていますが,近いところですと3DCGライブがありますね。

村上氏:
 はい。1回のうち前半がライブで,後半は声優さんが登壇されるファンミーティングになっています。ライブのほうでは今公開されている楽曲などのパフォーマンスはもちろん,ファンミーティングはユーザー参加型の企画コーナーなどを考えており,お客さんと一緒に楽しめるようなイベントにしたいと考えています。

 2日間で3公演あるんですが,まったく同じではなく少し違いは出したいと思っています。もちろん,1公演だけご参加いただくのも大歓迎ですが,すべてご覧になったときにまた違う楽しみ方が生まれればと。

4Gamer:
 期待しています。ちなみに本作はアイドル系やミュージシャン系のコンテンツではありませんが,どういったスタンスで歌うのかというのも気になります。

エン氏:
 「フラガリアの世界における『歌』とは」という概念があります。フラガリアたちにとっての歌は,主(ロード)への想いや愛,ここにいる意味などを伝えたり表現したりする方法なんですね。これはサンリオの創業者である辻 信太郎の著書「想い出を売る店」にあるフレーズから取っています。なので,これまでに発表した楽曲も含め,彼らが想いを伝えているといったイメージで聴いていただけるといいのかなと思います。

4Gamer:
 この記事が掲載される頃は,ちょうどコラボカフェが開催されていますね。

エン氏:
 実は,登場するキャラクター18人全員のメニューがあるんですよ。フードとドリンク合わせて18品なんですが,ボリュームもけっこうあるので,ぜひたくさん召し上がっていただきたいです。


4Gamer:
 18品ですか! これは何度か通わないといけませんね(笑)。

村上氏:
 すでに一部会場での先行抽選は終わっていますが,当日に席が空いていれば入れると思いますので,ぜひチェックしてみてください。


プロジェクトの気になる今後
アニメやゲーム化の可能性は……?


4Gamer:
 このほかにもたくさんの展開が発表されていますが,こうなってくると,「ゲームで遊んでみたい」「アニメを観たい」という声もたくさん生まれているかと思うのですが,いかがでしょうか。4Gamerとしても,とくにゲーム展開についてはぜひ聞いておきたく……!

村上氏:
 ありがたいことにそういった声はたくさん届いています。ゲームについてですが,プロジェクト立ち上げと共にローンチして,仮に売上が伴わずにサービスを終了するとなると,会社としても「プロジェクトを続けるかどうか」の大きな判断をせざるを得なくなってしまうんですね。

 そうすると皆さんにストーリーやビジュアルなどをお出しすることができなくなってしまうので,まず今の段階ではゲーム以外の形で発信したいと思っています。

 今は1日でも長くこのプロジェクトが続くように,と思いながら進めておりまして,こういった道のりの先には,当然,アニメやゲーム,もしくはゲームに近しいものなども見据えた形ではあります。

4Gamer:
 なるほど。現状,プロジェクトとしてはどのくらい先のことまで展開を考えていらっしゃいますか。

村上氏:
 そうですね……4年先くらいまではなんとなく方向性を考えているところです。ありがたいことにいろいろな展開を準備できているので,じっくり進めていきたいと思います。

4Gamer:
 ますます盛り上がっていきますよう応援しています。最後の質問ですが,今後目指していきたいことやこんなふうになりたいという方向性,やってみたいことなどの目標や夢があれば,ぜひ教えてください。プロジェクトとしても,個人的なことでも。

エン氏:
 具体的に何をというわけではないのですが,もっとフラガリアの騎士たちのいろいろな姿やイラストを出していきたいです。サンリオはこれまでにたくさんのキャラクターを生み出してきたので,積み重ねてきたノウハウで展開できるものもあれば,それこそライブの3DCGとか,会社自体が新しく挑戦しようとしていることもあって。それぞれの良いところを「フラガリアメモリーズ」がつなげていけたら良いなと思っていますね。

村上氏:
 目標は,メディアミックス展開をしていきながら「どこを切り取っても『フラガリアメモリーズ』らしくありたい」ということです。今後,例えば本作の音楽だけを好きな人がいてもいいですし,舞台だけのファンの方がいてもいいと思います。でも,どこを見ても「このスタイルって『フラガリア』らしいよね」と,1つポジションを確立できればうれしいなと思っています。

 個人的にやりたいこととしては,生オーケストラの朗読劇イベントです。ドラマのBGMがオーケストラ主体だったりするので。

4Gamer:
 いいですね! ぜひ観てみたいです。それでは締めに,読者に向けてメッセージをお願いします。

エン氏:
 やっぱりどんなキャラクターでも,ずっと長く愛されていくことが幸せだと思うんです。一過性のブームではなく,これからも長くフラガリアたちを愛していただいて,主(ロード)であるサンリオキャラクターと同じくらいの存在になれたらうれしいです。

村上氏:
 「フラガリアメモリーズ」はまだ始まったばかりですが,これからサンリオに出会う人には,これをきっかけにサンリオキャラクターに興味を持ってもらえたらうれしいですね。そして,昔ハローキティのぬいぐるみを持っていたとか,文房具を使っていたよという人たちには,本作をきっかけとして思い出を振り返ったり,サンリオやキャラクターたちを愛してくれたりしたらうれしいと思っています。

4Gamer:
 本日はありがとうございました!

――2024年4月10日収録

著作 株式会社サンリオ (C)'24 SANRIO

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