ファミカセ展は,ファミコンのカセット(ROMカートリッジ)をキャンバスに見立て,クリエイターたちが思い思いのファミコンのラベルをデザインする展示イベント。八畳ほどの小さな店にぎっしりと並ぶ“ファミカセ”――本年度(2024年)のイベントでは,国内外問わず250を超える作品が展示される予定だ。
吉祥寺でオープンし,中野,西荻窪と店を構えてきたMETEORが年に1回開催する同イベントは,2005年にスタートし,今年(2024年)で20回目の節目を迎える。
音楽や演劇,アートに文学,マンガ,アニメ,ファッションなどなど,多種多様な表現や考え方が集まった,いわゆる中央線カルチャーも強く感じさせるファミカセ展は,どのように“ローカルかつグローバル”に続いてきたのか。
20回という節目を迎えた今回,METEOR店主でデザイナーの坂上聡之氏に話を聞いた。
自分の想像の中にあるゲームをソフトにするならどうデザインするか――節目の20回で原点回帰を
4Gamer:
20回目の開催おめでとうございます。記念の年を迎えたファミカセ展ですが,そもそもどのように始まったイベントなのでしょう。
坂上聡之氏:
学生時代(武蔵野美術大学)のころのつながりもあって,開店当時からけっこうクリエイティブ系のお客さんが多かったんですね。それで当時,なんとなくですが集まった人たちで「この空間使ってなにか展示したいね」みたいな話になったんです。
4Gamer:
仲間内でワイワイみたいな。
坂上聡之氏:
それで,そのころ中古のファミコンソフトも取り扱っていたんですが,それを見て「ファミコンのソフトってちょっと額縁っぽいよね」「自分の想像したゲームのラベルを考えてデザインしたら面白そうだね」って盛り上がって。
そのときは5人ぐらいでしたが,「じゃあ声かけてみるよ」という感じで23〜25人ほど,デザイナーに限らずいろいろな人が集まって。それで店の有孔ボードに作品を展示したのが始まりですね。
4Gamer:
初めて開催したときのことは覚えていますか?
坂上氏:
まず,作った側がとにかく楽しくて,みんなで盛り上がっていましたね。
有孔ボードにファミカセを置いてみたら,「なんだか思っていたよりしっくりきたね」って。「これなんか楽しいね。来月もやろうよ」ってノリになったのを覚えています。
「月イチはさすがにペースが早すぎないかな。なによりしんどいよね」とか言いながら(笑)。
4Gamer:
(笑)。「そのペースだとネタも尽きるし,1年に1回ぐらいかなあ」みたいな。
坂上氏:
ええ,そういう雰囲気で。そこから年イチでやり始めて,「またやりたいね」「じゃあ次もやろう」ってゆるい感じで続いていって,それの延長で今に至るという感じです。
4Gamer:
2010年から一般参加を募るようになりましたが,これはどういった経緯で受け付けることになったのでしょう。
坂上氏:
続けているうちに「参加したい」と言ってくれる人がすごく増えたんです。そういう人たちにも楽しんでもらえるよう,試しにメール募集をしてみたというのが始まりでした。
4Gamer:
今年も30か国以上の参加者の作品が展示されるとのことですが,国外からの参加者ってどのように増えていったのですか?
坂上氏:
増えたのは2015年くらいからですね。一気にではなく緩やかに増えていった印象ですが,なぜかはあまりはっきり分からないところではあります(笑)。
海外のアート系やカルチャー誌にも取り上げていただいたことも影響あるかと思うんですが,日本在住の方が参加して,そこから広がっていく感じで,1人参加すると次の回からその人の周りも参加し始めるという形なのかなあと。
最初は欧米の人が多かったのですが,回を重ねることにほかの国や地域の人たちも増えました。
4Gamer:
最初は仲間内みたいなところで始まって,どんどん参加者が増え,今年は店舗に展示される分だけでも250人以上が参加しています。規模が大きくなっていくこと大変なことも増えたのではないかなと。
それこそシンプルにセッティングだけでもかなり大変なんじゃないかなと。
坂上氏:
実はセッティングはそれほどでもないんです。
というのも,有孔ボードってファミコンのカセットの幅とメチャクチャぴったりなんですよ。ピッチにボルトを等間隔で挿すだけで,あとは簡単に置けるんです。
初めてこれに気がついたとき,「いやー,有孔ボードってすごい発明だな」って思いました(笑)。
4Gamer:
ファミコンのカセットを飾るためにデザインされていたのか! と(笑)。
応募作品の数を考えると,並べる以前にそもそも選んだり確認したりするのが大変ですよね。
坂上氏:
基本的にエントリー順なので,選別みたいなことはもともとしていないんですよ。ただ確かに,投稿いただいた作品で確認しなければならないことは増えましたね。
4Gamer:
使用されている写真やイラストがほかの人の著作権を侵害していないか,とかでしょうか。
坂上氏:
まさにそのあたりで,さらに最近だと画像生成AIも注意しなくてはならなくて。
4Gamer:
ああ,なるほど。それはまさに近年発生した問題ですね。
坂上氏:
あとは,実際に販売する個人制作のゲームを出してくる方がいるので,それはエントリーを控えてもらっています。
4Gamer:
純粋なアートの展示イベントとして,宣伝や営利目的で出されてしまうと問題になってしまう。
それでいうと,応募ページでもそのあたりが年々細かく明記されるようになった印象があります。
坂上氏:
そうですね。なるべく自由にデザインを楽しんでほしいのですが,特定の人物や団体を卑しめるものだったり,固有の作品のイメージを損なったりするものは厳しいですから。このあたりは昨年あたりから今まで以上にしっかり明記しています。
4Gamer:
難しいところですよね。テーマ的に時事ネタは面白いとか,アートなので何かしらのメッセージ性は当然あったりとかすると思うのですが,それがなにか特定のものに対して攻撃的だったり批判的だったりすると……という。
著作物でいうと,任天堂が初期のカートリッジのデザインの商標出願をしましたが,営利目的のイベントではないとはいえやはりそういった動きへの配慮も大事になるのかなと。
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坂上氏:
ええ。あのデザインの引用も昨年からお断りしています。パロディやサンプリングみたいなものもファミカセ展の作品の特徴ではあったんですが,今年はそれもNGにしました。ご自身の中にある「理想のゲーム」を表現してほしいなと。
もともとファミカセ展って,“自分の想像の中にあるゲームをソフトにするならどうデザインするか”を考えるのが楽しいというのがスタートにあるんですよね。なので20回目の今年はある意味“原点回帰”みたいなテーマもあるんです。
4Gamer:
あらためて振り返ってみて,変わってきたなと感じるところはありますか?
坂上氏:
作品募集を始めてすぐに枠が埋まることですね。
以前から「3月いっぱいは受け付けますよ」ってやり方は変わっていなくて,前は最終日近くになってバッと作品が集まるという感じだったんです。それがいまは,1日,2日で8割ぐらい集まり,3日目には枠いっぱいになりますから。
最初はホントにゆるい集まりだったので,昔から参加している人とは「当時の自分たちからは想像できない状況になったね」って話にもなります(笑)。
4Gamer:
それだけ国内外からこの日に向けて,それこそ前年からエントリーに向けて作品を作っているのかもしれないですね。
坂上氏:
賞金があるわけではなく,投票で1位に選ばれたら次の年の看板やフライヤーの表紙を飾るくらいなんですけどね。純粋に表現の場としてそれだけの人が楽しんでくれているとしたら嬉しいです。
あとは,海外からの参加者も,いろいろな国の人が増えたなということでしょうか。最近だと南米や東南アジアが多くて,今年はフィリピンの方がすごく増えました。去年か一昨年には初めてインドから参加もあって。
香港やロサンゼルスからは作品の展示をしたいと相談され,実際に展示イベントが開催されることも。写真は“本家”ファミカセ展風に作られた香港版のフライヤー | |
そういったつながりで知り合った香港の人が贈呈してくれたという,Nintendo Entertainment System(ニンテンドー・エンターテインメント・システム)の香港版 |
4Gamer:
南米や東南アジアは,近年ゲーム開発が活発でインディーゲームも増えています。そういう影響もあるのかもしれませんね。
ではこれまで20回続けてきて,印象に残っている出来事はありますか?
坂上氏:
それが申し訳ないことに,これというエピソードが思いつかなくて。というのも,毎回新鮮な面白さがあるので,この年がとか,このときが特別とかはないんです。
4Gamer:
素晴らしい答えです。
坂上氏:
むしろ作品を見直して,「この年はこういうことがあったなあ」と思い出せる……みたいなことがあります。
「非常用電灯」っていう,アイレムのゲームでおなじみだったLED付きのカセットを非常用ライトに見立てた作品があるんですが,これが2011年の作品なんですね。テーマ的にも時期的にも3.11のことを思い出します。
あと数年前,ミツバチがテーマの作品が増えたことがあったんですよ。あれも世界的なミツバチの減少が話題になった時期だったなとか。
4Gamer:
なるほど。そういう前年でインパクトのあった作品のアイデアが翌年の作品の傾向に影響を与えて……みたいな流れで見てみると面白そうだと思いました。
坂上氏:
ああ,ありますね。それこそ「非常用電灯」のあとは,ゲームではなくツールみたいな見せ方のアイデアが増えました。
あと,参加者の皆さんのこだわりがまた面白くて。たとえばカセットの色の流行があったり,「中古で流れている色あせた感じ」や「新品同様で」みたいなところでラベルの色を調整されたりで。
4Gamer:
それはメチャクチャ気になりますね。もうちょっと黄ばみを出したいみたいな。
坂上氏:
僕のほうでもラベルのデザインを見て,「これは初期っぽいな」と感じたら軽くてツルっとしたカセットにしようとか,「後期の作品だな」と思ったらバッテリーバックアップ有の重めのカセットにとかで選んでいるんですが,こだわりある人はエントリーの段階からけっこう細かく説明してくれます(笑)。
カセットの色は第一希望とそれがダメだった時の希望を聞いているのですが,基本的に早い者勝ちなので,希望の色がなくなったら「ごめんなさい。こっちで……」となってしまいます。
4Gamer:
これって坂上さん自身がデザイナーなだけに,参加者の考えやこだわりにすごく共感されるんだろうなと思いました。それだけに葛藤もありそうだなと。
坂上氏:
そうですね。こだわりたい部分はすごく分かるけど,「そこまでは手が回らないのが悔しい……」みたいなことはあります。
デザインされた人の気持ちも分かりますし,やはり「実際にありそう」って思ってほしいので,このへんのリアリティに関わる部分は,叶えられる限りは力になりたいと思って取り組んできましたね。
4Gamer:
最後に,あらためて20回を迎えた気持ちと,本稿が掲載されるころに開催されている「わたしのファミカセ展 2024」についてメッセージをお願いします。
坂上氏:
やはりこれは,それだけファミコンが魅力あふれた存在だということなんですよね。時代に合わせつつ,これまでと変わらずゆるい感じで,まずは今年のファミカセ展を楽しんでいただきたいと思います。
4Gamer:
原点回帰で,想像力にあふれたオリジナルの作品が楽しめるよと。
坂上氏:
そうですね。わりとこれまでとは違った新鮮な見え方はあるんじゃないかと思います。オンラインでもUPしますので,遠方の方はそれを楽しんでほしいです。
そして,足を運べるという方はぜひ実物を手に取って見てほしいですね。実際に触って重さを感じ,裏に書いてある説明を読んでゲームを想像するという一連が,ファミカセ展の面白さだと思っています。
4Gamer:
有孔ボードにきっちり並んだファミカセも見どころですよね。
坂上氏:
ええ,そこもぜひ(笑)。工業製品的な美しさを見てほしいです。
あとはファミカセ展だけではなく,西荻窪の街も楽しんでほしいですね。雑貨屋や古着屋,カフェ,ギャラリーなど,面白いお店がたくさんありますから。
4Gamer:
私も中央線沿線の民なのですが,グローバルな広がりは持ちながら,地域性に根付いたインディペンデントなスタンスを感じられるのが,METEORとそしてファミカセ展の魅力だと思います。
作者がいろいろイメージしてデザインしたファミカセを見て,受け手も「こういうゲームかな」と想像する。そういった楽しみかたへの原点回帰という点でも楽しみにしています。本日はありがとうございました。
わたしのファミカセ展 2024 イベント詳細)
展示期間:2024年4月27日(土)〜5月31日(金)
展示会場:東京都杉並区西荻北 2-11-9 2F METEOR店内
開場時間:13:00〜20:00
入場料:無料
定休日:水曜日(祝日は営業あり)
公式X:@meteor_club(METEOR公式)
イベント公式サイト:わたしのファミカセ展(リンク)
Chronicleサイト:わたしのファミカセ展 クロニクル(リンク)
「わたしのファミカセ展 2024」図録(税込1430円) ※販売ページ
METEOR
〒167-0042 東京都杉並区西荻北 2-11-9 2F(公式サイト)
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