日銀の植田和男総裁は27日、輸入物価の上昇に伴って企業の賃上げが進み「インフレ予想をゼロ%から押し上げることには成功したように思う」と語った。日本経済が経験したようなインフレ率やインフレ予想がゼロ%付近で定着する経済を脱するには「(輸入物価の上昇など)大きなショックが必要になる可能性がある」と述べた。
日銀本店で開いた「国際コンファランス」に登壇した。過去の金融政策を総括する「多角的レビュー」の一環として27〜28日に、日銀金融研究所が開く。国内外の中央銀行幹部や経済学者らが「物価変動と金融政策の課題」をテーマに議論する。
植田総裁は冒頭の挨拶のなかで、1990年台後半以降「低インフレが持続するという予想が定着した」と指摘した。競合企業が価格を引き上げないと思うことで、「自社も価格・賃金を据え置くことが最善と思い、結果的にインフレ率やインフレ予想がゼロ%付近に定着するようになる」と分析した。
日銀の試算によると、インフレ率は1996年から2022年までの27年間、マイナス1.0%からプラス0.7%の範囲にとどまった。短期金利は1995年までには0.5%を下回る水準に低下した。
植田総裁は「日銀はすでに経済を刺激するための短期金利に対する影響力を使い切ってしまっていた」と振り返った。
22年以降は世界的な輸入物価の上昇に伴い、企業の賃上げが進んでいる。植田総裁は日銀が5月に公表した企業向けアンケート調査について言及し、「ここ2年ほどは競争相手の値上げを理由に自らも値上げするという逆の傾向もみられた」と話した。
アンケート調査では価格転嫁の難しさが緩和された理由について「競合他社の値上げ増加」と回答した企業が4割前後にのぼった。
2%の物価安定目標の達成に向けた今後の課題の一つに「(景気や物価を過熱したり、冷え込ませたりしない)自然利子率をできるだけ正確に把握すること」を挙げた。
「過去30年間の長きにわたって短期金利がほぼゼロに張り付いてきた日本では特に難しい。金利変動が乏しいと、金利変動に対する経済の反応度合いを計測することに相応の難しさがある」と説明した。
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