増え続ける富裕層
「お金持ち」と言うと、毎月たくさんの給与所得がある人、つまり年収の高い人、と思いがちですが、日本は所得税率が高く、フロー(収入)が高くても、長年にわたって高給取りでもない限り、実はそれほどストック(金融資産)を形成できません。
フローが頼りのビジネスパーソンの世界は、二極化しています。いわゆるいい学校を出て、内部留保の厚い優良企業に入れば、大きな失敗をしないで、そこそこの仕事をしていれば、つつがない人生を送ることも可能です。
かつてとは異なり、今の大企業の職場はパワハラなし、残業なし、有給休暇フル消化に加えて、国民の祝日数は世界有数です。それでいて、外資系企業と違い、日本企業の社員は労働法に手厚く守られ、簡単にはクビになりません。高度成長期やバブル期よりもはるかに楽になっているのです。それどころか、これからは政府の要請で給与まで上げてもらえるかもしれない。これはもうパラダイスでしょう。そんな恵まれた人たちも数多くいることは、事実なのです。
お金持ちのもう1つの属性が、ストックを保有する「資産持ち」です。この種の人たちに会社の創業者が多いことはご存じでしょう。
一口にストック富裕層と言っても、金融資産を多く所有する富裕層と、不動産を多く所有する富裕層があります。前者は金融資産を運用して収益を膨らます、つまりお金に働いてもらってお金を増やす投資行動が必要になりますし、後者は不動産を貸すことや売買を繰り返すことで収益を上げていくことが求められます。
相続の問題も見逃してはなりません。大量相続時代を迎えて、世田谷区、杉並区、中野区、大田区などにある瀟洒(しょうしゃ)な住宅街では喫緊の課題です。今、これらのエリアに住む世帯主の多くに、相続が発生しつつあるのです。戦後、高度成長期に東京に来て一定の資産を形成した人たちが、人生からの退場を始めているからです。
日本ではこれからも大量の富裕層が誕生することになります。相続した富裕層2世は金融資産や不動産を運用・活用して膨らませ、それを子供に相続させます。そうした富裕層3世も次々と登場し始めているのです。
地方のタワマンは誰が買っているのか?
日本各地にタワマンが続々と建てられています。増え続ける地方タワマンの買い手は誰なのでしょうか。
販売業者によれば、地方タワマンの購入層は主に3つの客層があるそうです。
第1は、地元の高齢者層です。高齢化が進む地方都市では、郊外の住宅地から都市中心部に人口が回帰する現象が起こっています。これは「コンパクト化現象」と呼ばれるもので、現役の時に郊外に戸建ての家を買い求めた層が、高齢になって車の運転が不自由になり、交通利便性の高い中心部で、管理の楽なマンションに積極的に居を移しているのです。
地方タワマンは、その地域で販売されている他のマンションよりも分譲価格が高い傾向にあるため、高齢者層は割安な低層部を購入するケースが多いようです。彼らにとっては見慣れた景観を楽しむというより、都市中心部に住む利便性を重視しているのです。
多拠点居住や地域の名士であることの象徴として
第2は、首都圏や近畿圏に住む人たちです。最近、2拠点居住および多拠点居住を実践する人たちが増えています。ただ、戸建て住宅は家の管理が大変なので、地方タワマンを買い、週末居住やリモートワークに活用しているのです。
大都市圏のマンションに比べれば価格は割安なため、数年後に売却して利益を得ようと考える目論見もあります。彼らはある程度見晴らしが良ければ、マンションを起点としてエリア全体を楽しみたいので、手頃な価格の中層部を買い求める傾向があります。
また中層部には、地元で生まれ育ち、主に第3次産業の職を得た人が東京や大阪に転出することなく、親とは同居せずに利便性の高いマンションを選んで居住しているケースもあります。
『なぜマンションは高騰しているのか』(祥伝社新書)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします第3は、上層部を購入する地元の有力者です。地方タワマンの物件案内を見ると、上層部は部屋が広めに作られているケースが多いのです。
名前が挙がるのはいずれも地元出身で、その地方を代表する会社のオーナーたちです。昔から商売を取り仕切り、政治にも口を出す。地域の政治・経済の中枢を占め、よそから来て商売をするには、彼らの承諾がなければ販路を開くことができないような存在です。私は、彼らを「地方豪族」と呼んでいます。彼らが買う目的は、ずばり「天下を取る」ことです。その地域で自分が一番稼いでいる、あるいは地域のナンバーワンや名士であることの象徴として、タワマン最上階を買い求めるのです。
次回は、マンションを販売する側、すなわちデベロッパーの事情からマンション高騰の理由を探っていきます。
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