美しいカットが入った重厚感のあるグラス。ですが触ってみるとふにゃふにゃ?!この不思議なグラスを生み出した大阪府八尾市の町工場で話を聞きました。

 工場を案内してもらうと機械から出てきたのはグレーの柔らかいパーツ。これは炊飯器のパッキンです。大手家電メーカーやオリンピック選手も使うスポーツ用品メーカーなどにもゴム製の部品を納める「錦城護謨」。この会社では年間約5000種類ものゴム製品を作っています。

 (技術担当 吉年正人さん)「基本的にノーとは言わないので、なんでもやりますよ」

 では不思議なグラスの正体は?

 (技術担当 吉年正人さん)「これはシリコーンです」

 実はパッキンや調理器具などでよく見かけるゴム素材の一種・シリコーンゴムでできているんです。部品専門のメーカーが生活用品の開発に乗り出した背景には会社が直面した“ある危機”がありました。

 その状況に立ち上がったのは、ものづくり・技術担当の吉年正人さん(51)、事務作業を得意とする大川浩司さん(44)、広報担当でこのプロジェクトに最も情熱を燃やす水田竜平さん(44)、そして発起人である鈴木宏昭さん(50)です。

 1936年に創業した錦城護謨。大手企業との取引件数も多く、現場の社員は1日に何種類もの部品作りを抱えていました。ほとんどの家庭の中に錦城護謨の製品があると言えるほどの技術力と品質の高さを誇りにしていましたが、問題が起きたのは5年ほど前です。

 (広報担当 水田竜平さん)「若い技術者が離職していくみたいな現実を目の当たりにして。製品の数がものすごく多すぎて、特に若い人たちがものづくりの楽しさとか、もっと自由な発想でものを作っていくということがしづらいんじゃないかなと」

 ただ、これまでは全て受注生産だったため、社内の反応はシビアなものでした。

 (広報担当 水田竜平さん)「いや~最初は特に理解はあまりされていないなっていうのは本当にありますね。自分たちが何か売れるかどうかもわからないようなものを新しく作って、しかもそんなこと経験もしたことがないことで。やっぱり当然ながら不安視というのはあったと思います」

 夢が形になることを若い社員にも知ってもらいたい。水田さんのチームは、誰でも生活の中で使うもので、しかも高い技術力に驚いてもらえる製品を作ろうと走り出しました。そこでかねてから何かに使えないかと考えていた透明なゴムでグラスを作ることに決定。しかし初めて使う素材。表面が曇ったり気泡が入ったりするトラブルに直面しながらも、丸1年をかけてようやく第一号が完成しました。

 価格は1個4950円から。子どもが使っても安心な上、熱いものを入れても外には伝わらない特徴がSNSなどで評判となり、今年3月までに約1万個を販売しました。

 今年3月、新入社員を迎えて開かれた歓迎会では、この不思議な割れないグラスで乾杯しました。

 (グラスの製造担当者)「僕らが作っているんですよ。その現場の人間なんですよ。これだけの人数で全員で乾杯するのいいですよね」
 (新入社員)「割れないって聞いたので、さっき落としたんですけど、全然割れなくて、すごいなと思ったんです、マジで。(Qもう落としたんですか?)落としちゃいました、すみません。(Qこれからの社会人生活どうですか?)めっちゃくちゃ楽しみです」

 若手からベテランまで自分の会社に誇りや期待を抱く姿がそこにはありました。社長もグラスの出来栄えに大満足です。

 (錦城護謨 太田泰造社長)「完全にできあがってる。自社製品ながらビールがおいしく感じる。3割くらいおいしく感じる」
 (広報担当 水田竜平さん)「みんなでこうやって使える日が来るなんて本当に夢のようです。めちゃめちゃおいしいですね。最高です。それ以上の言葉がないですね。最高です」

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