量子コンピューター大型化へブレイクスルー

2040年には数十兆円の市場価値になると予測され「量子コンピューターを制する者は世界を制す」とも言われる中、京都大学の研究グループが量子コンピューターを大型化する際の課題だった弱点を克服したとして注目されている。

京都大学量子光学研究室中村勇真氏と中性冷却原子型量子コンピューター (提供:中村勇真氏)
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量子コンピューターとは、現代のスーパーコンピューターだと何億年、何兆年かかる計算を数秒から数日で答えを導き出してしまうという、数学者、物理学者からすれば、まさに人類の叡智が織りなす究極のコンピューターのこと。

なぜ計算が早いかというと、従来のコンピューターは、ゼロ、イチの配列で計算するしかできなかったところを、量子コンピューターのチップまたはビットでは、ゼロとイチだけでなく、ゼロとイチを重ね合わせても計算できるものだからだ。

つまり、ゼロとイチの配列が数十万、数千万と続く場合、従来のコンピューターだと答えがでるのに相当時間がかかってしまうが、ゼロとイチを並びではなく、重ね合わせて計算できる量子コンピューターの方が格段に計算処理速度が向上する理屈だ。

量子コンピューターには「超電導」「イオントラップ型」「中性冷却原子型」の3つのタイプがあるが、いまもっとも注目されているのが「中性冷却原子型」だ。

理由は「大型化が可能なこと」。大型化ができるということは、それだけ計算処理能力が高くなる。

「中性冷却原子型」の特徴は、レーザー冷却により絶対零度付近まで中性原子気体を冷却する。そして光ピンセットと呼ばれる特殊なピンセットで原子をつまんで量子ビットに配列していく。この原子を配列できることこそが、中性原子型が大型化できる最大の特徴となっている。

大本命「中性冷却原子型」の弱点とは

現在のスパコン同様、量子コンピューターにもエラー、誤りが発生する。

この「誤り訂正」の克服の仕方がとても難しい。

実用的な問題を解くためには、発生したエラーを検出して訂正する「量子誤り訂正」が必要だ。その完成度をあげようと世界各国の企業や研究グループの間で競い合っている。

「中性冷却原子型」量子コンピューターの課題は、量子ビットの選択制のない読み出しの手法であるため、回路中の「誤り測定」が困難であることだった。

空間的に原子を隔離する方法や量子を読み取る光の照射方法を変えるなど、エラーの読み取りの研究が重ねられてきたが、いずれも技術的な難易度が高くエラーも発生しやすく課題の完全な克服には至っていない。

イメージ図 (提供:中村勇真氏)

京大研究グループの「誤り訂正」新手法

そうした中、京都大学量子光学研究室博士課程の中村勇真氏、高橋義朗教授らの研究グループが新たな領域を、その手につかんだ。「中性冷却原子型」では光ピンセットで原子を配列していくと先に説明したが、2種類の原子をつかって配列する手法をあみだした。

2種類あれば、1種類を量子ビットとして、別の種類を補助量子ビットとして、使い分けることができる。

従来の1種類だけの配列だと、計算に使われている量子ビットで「量子誤り訂正」を行わなければならず、読み出しの忠実度があがらなかったが、量子ビットに影響を与えることなく補助量子ビットの読み出しが可能になったことで、読み出し忠実度が格段に高まることが実証された。

研究グループでは、2025年にもフルスケールの「中性冷却原子型」量子コンピューターの開発をスタートする予定だ。
(執筆:フジテレビ社会部 大塚隆広)

(参考文献:研究グループの論文)

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