ナスダックは上場企業に女性やマイノリティーを取締役におくことを要請していた=ロイター

【ニューヨーク=竹内弘文】米連邦巡回区控訴裁判所は11日、米大手証券取引所ナスダックが上場企業に女性やマイノリティー(少数派)の取締役をおくことを求める取締役会多様性ルールを却下した。同ルールを承認した米証券取引委員会(SEC)は、議会によって付託された権限を逸脱したと判断した。

SECから2021年に承認を受けたナスダックのルールは、上場規則として取締役会における多様性を確保しようとする狙いがあった。既に段階的に適用が始まっている。

企業の規模や上場区分によって異なるものの大企業には25年末までに少なくとも1人の女性取締役と、1人の人種的マイノリティーあるいはLGBTなど性的マイノリティーの取締役を置くことを求める。達成できない場合は企業側がその理由を開示する必要がある。

特定の価値観に基づく上場企業への締め付けとして保守層が同ルールに反発し、保守系シンクタンクがSECを提訴していた。控訴裁の判断を受けてSECの広報担当者は「判断を吟味し、必要に応じて次のステップを決める」と声明を出した。ただ、共和党のトランプ次期政権は25年1月に発足するため、法廷闘争の継続は困難な情勢だ。

ナスダックも「裁判所の判断を尊重し、さらなる審理を求めるつもりはない」とコメントした。同ルールはついえる可能性が高い。

従来は企業の社会的責任とみられていた「DEI(多様性、公平性、包摂性)」の推進は、米国で保守層からの強い反発にさらされている。米小売り最大手ウォルマートや自動車大手の米フォード・モーター、二輪車の米ハーレーダビッドソンなどが従業員のDEI推進プログラムの縮小や廃止を余儀なくされている。企業経営のかじ取りを担う取締役会でも反DEIの流れが及ぶ。

企業経営を担う人材の多様性拡充は日本でも叫ばれている。コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)は21年改定時、「女性・外国人・中途採用者の管理職への登用」など、中核人材の登用で多様性の確保に関する考え方や目標を示すことを補充原則に加えた。

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