17年ぶりの利上げで国内の金融環境が大きく変わった今年。「金利のある世界」が本格的に到来する中で、住宅ローンビジネスや預金獲得をめぐる銀行の戦略はどう変わっていくのでしょうか。大手銀行5グループの一角、りそなホールディングスの南昌宏社長がインタビューに答えました。
【取材:経済部 渡邉優子】

歴史的転換点 17年ぶり利上げ

──先日、2025年3月期の中間決算が発表されました。金利上昇が追い風となり、御社含め大手銀行5グループがそろって大幅な増収となりましたが、受け止めはいかがですか。

まず一言で申し上げると、かなり堅調な決算だったかなというふうに思います。3月19日に日銀がマイナス金利の解除を行って、ようやく異次元の金融緩和から緩やかな金融緩和へと変わってくる中で、マクロ的に見ても、長かったデフレ環境下から緩やかなインフレを前提とする世界に移行してきています。そうした状況の中で、長らく低迷していた資金利益の回復が鮮明になってきました。

我々りそなグループで申し上げると、長らく中長期的な収益構造改革をマイナス金利下で行ってきました。一つはコンサルティング型の営業をしっかりとやっていくということと、もう一つはリアルとデジタルを融合することで様々なお客様の課題を解決すること、これに基づくフィー収益が、去年までもかなり順調に推移してたんですけども、さらにその足取りが早まっています。

よく「二つのエンジン」と申し上げているんですけど、冒頭申し上げた資金利益とフィー収益が二つのエンジンとなって好調な決算を演出してくれてるかなというふうに感じています。

──3月にマイナス金利の解除があり、その後7月に追加の利上げがあり、いよいよ本格的に金利のある世界に戻ってまいりました。銀行としてはこうした流れをどのように捉えていますか。

異次元の金融緩和から緩やかな金融緩和に変わってきたということで、我々にとってはバランスシート全体のバランスシートマネジメントの中で間接金融として収益を上げていくという前提に立ったときに、一つ大きなイベントであったのは確かだと思います。

それと私どもは一般事業法人向けの貸し出しが約6割ぐらいで、住宅ローンが4割ぐらいで構成されてるんですけども、いよいよ短プラが上がってきたということで住宅ローンのところにも少しですが上昇基調の波が訪れているということで一つ大きな節目、転換点だったかなというふうに感じてます。

住宅ローンビジネスの戦略は

──いまお話にあった住宅ローンですが、多くの銀行では短プラの引き上げに伴い、来年1月以降から変動金利が上昇します。三菱UFJ銀行は優遇幅を引き上げて実質据え置きという戦略を取るなど銀行によって方向性が分かれていますが、今後の住宅ローンの金利競争についてはいかがお考えですか。

これまでも実は金利競争はかなり高かったんですけども、新しく金利環境が変わってくる中で、各社の戦略はプライシングも含めて様々なものが出てくると思います。

我々は住宅ローンを一つの商品としても非常に大事にしてる銀行であります。住宅ローンの魅力をどうやって高めていくか、一つは金利の面もあると思います。それから住宅の価格も上昇をしてきている中で商品性をしっかり見直してきたり、我々の新規実行に占めるペアローンが3割ぐらいなんですけども、ペアローンで団信に入っていただくような商品設定にしたりということで、住宅ローン自体の魅力を高める動きをしっかりやっていくというのが一つの戦略です。

それからもう一つはやはり個人のお客様にとって、住宅を購入されることは人生の中での大きな買い物の一つだと思います。ここをしっかりとサポートさせていただく、長い時間軸で見たライフタイムバリュー(顧客生涯価値)の最大化を図っていくということが我々にとって大きな話だと思ってます。

だからリアルとデジタルを融合させて、日常の金融─例えばお振り込みや納税はUI・UXに優れた非対面のチャネルでご利用いただきながら、大きなイベント─例えばご相続の関係や住宅ローンの設定などでは一対一でお客様とリアルでお会いさせていただいて、特別な瞬間をサポートさせていただくというような、長い時間軸の中で物事を考えていくことがこれからの住宅ローンビジネスを展開していく上では非常に重要なポイントではないかなと考えてます。

「金利のある世界」で変わる銀行のあり方

──金利の話で言うと、我々にとってもう一つ身近なものが預金だと思います。いままで“お荷物”だった預金に金利がつくようになったことで各銀行が預金集めに力を入れ始めている中で、りそなグループとしてはどんな戦略を打ち出していく考えですか。

間接金融の中で調達サイドの預金というのは極めて大事な部分でありますし、ここをどうやって粘着性のある安定的な預金を調達させていただけるかということが銀行ビジネスにとって一つも本当に大きなコアとなるところです。

やはり王道は、個人のところについては家計にいかに深く寄り添うことができるかということ。それから法人のお客様のところは、商流の中でりそなグループが提供させていただく様々な商品・サービス・機能をご利用いただくようなシーンをいかに拡充していくのかということが、実は遠回りのように見えて安定的なリテール預金を獲得していくという意味では極めて重要なことだと思っています。もう一度原点に戻って個人の家計、それから法人の商流に根ざした形のビジネス展開を行っていく必要があると思っていまして、これが一つ大きな戦略になってるということです。

それともう一つは、金利が上がっていく局面でどこかでお客様の金融行動が一気に変わって、例えば普通預金から定期預金へのシフトが始まったり、あるいは今まで短いところで運用されてたお客様が比較的長い時間軸の中で定期預金を運用されるというような変化も起きてくると思います。資産運用立国という看板がかかる中、国民の皆様も人生100年時代を念頭にご自身の資産を緩やかなインフレの中でどうやって長期的に運用していくのということに対して圧倒的に意識が高まっている状況だと思いますので、ご預金での運用と、ファンドラップや投信、つみたてNISAなどの運用商品への移行がどんなスピードで広まっていくのかということについてもかなり留意していく必要がある局面だと思ってます。

──いまお話しいただいた「家計に根ざした戦略」の一環だと思いますが、11月半ばに奈良にりそな!n(イン)という新しい形の店舗がオープンしました。商業施設の中に出店し相談業務がメインということで、どういう狙いがあるのかをお伺いします。

お客様の金融行動がかなり大きく変わってきている背景にある一つ大きなものは、やはりデジタル化です。ほとんどのお客様がスマートフォンの中に非対面のチャネルをお持ちになっている状況の中で、我々は元々りそなグループとして地域軸とリテール軸をすごく大事にしている銀行なんですけども、ただこの世の中の変化に応じて、地域の営業店─リアルチャネルがある意味というのがどんどん変わってくる時代にあるというふうに思っています。

十数年前まではお手続きをしていただくためにご来店いただくお客様も非常に多かったですし、お待ちいただく時間も長かったり、店舗でお客様に価値を提供させていただくことが多かったと思うんですけども、今後は地域のお客様に我々が提供できる価値が何かということをもう1回考え直すことが必要なタイミングに来ていると思ってます。

その意味で、リアルと言われている営業店でフェイスtoフェイスでお会いをさせていただき様々なソリューションを提供させていただくという局面と、日常の金融─例えばお振り込みや納税は明らかにデジタルシフトが加速していくというこの大きな流れの中で、リアルとデジタルが融合して、これまでになかったようなお客様への顧客体験、それから価値提供を地域に根ざした営業店とデジタルが一緒になって、どうやって提供させていただくのか。試行錯誤を繰り返しながら時代に合った接点を拡充していく、その第1弾がりそな!n(イン)です。これからもおそらく店舗のスタイルやあり方、地域での存在意義は変わっていくと思いますので、これをまず起点にまた次に向けて新しいチャレンジを始める局面と思っております。

今後の金利環境をめぐって

──12月半ばに今年最後の日銀会合があります。日米の政治状況などから一部では本会合で追加の利上げが行われるのではないかとの見方も浮上していますが、南社長はどのように見ていますか。

日銀の専管事項ですので我々がどうこうという話は当然ないんですけども、去年あたりから金利の上昇局面に向けた転機はいずれ訪れるだろうということで、実は社内で様々なタイプのシミュレーションをやらせていただいていて、段階的にまだ上がっていくステージにはあるだろうと。当然日本の景気動向や物価賃金、それから世界的な動向を含めていろんなパラメータ変数があるんですけども、それを少しずつこなしながらおそらく一定程度の金利水準までは引き上がってくるであろうという予想のもとにいろんなシミュレーションをしています。

日本の今の状況を考えると、上昇のスピード感は少し時間を置きながら段階的に行っていくというのが我々が持っている基本シナリオですので、一定程度の時間軸の中で、日本のインフレ率、それから潜在成長率、いろんなものを考えていたときにその水準までは上がってくる可能性が高いのではないかなと、それに向けて我々自身がどうやって機動的に対応できるかということと、お客様にどんなご提案や価値を提供できるかということは一生懸命本当に考え続けてるのが現状です。

──物価高が続く中、日銀内部では「利上げに対する理解がなかなか国民から得られない」と悩む声も聞かれます。利上げをすることの必要性やメリットを発信するためにはどんなことが必要だと思いますか。

日本国内は30年来のデフレ環境が長く続いてきたということで緩やかなインフレに対する耐性や起こっていることに対する理解が、どうしても過去に引きずられる傾向はやっぱりあると思います。

先ほど住宅ローン金利の話をいただきましたけども、預金サイドは普通預金も含めて広くあまねく金利のある世界が戻ってきていることについては国民の皆さんにとってもプラス面は当然あると思うので、全体感を俯瞰したバランスの問題をどういうふうに捉えるかということと、それからもう1回日本を再成長軌道に乗せることを考えたときに、やはり緩やかなインフレの中で賃金と物価が関連性を高めながら拡大していくという流れが、いろんな新しいチャレンジや新しいイノベーションを生む素地にも繋がってくるというふうにも感じます。なので国も日銀も、我々企業も、国民の皆様も、緩やかなインフレを前提に考えたときに、それぞれの立場で理解をしながら次の再成長に向けてどういうふうに歩んでいくのかを考えていくのが大事なところじゃないかなというふうに思います。

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