トランプ氏が次期大統領に…アメリカ株が本命か

――きょうのテーマは「長期投資にチャンス到来?2025年注目株は」。

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
アメリカ株が好調だ。S&P500は今6000ポイントまで来ている。少し行き過ぎかなという気もする。前回トランプ大統領が当選した直後から株価がガンガン上がった。今回も上がっている。私は前回ほどの大幅上昇は期待しない方がいいと思っている。

上がるは上がるだろうが、理由は2つあって1つは、前回ほどのサプライズにはなっていない。政策面で言っても、前回トランプ氏は大型の減税を導入したり、経済にプラスな事をやった。今回は、2025年末で期限が切れる導入済みの減税を恒久化するというだけだから、そこまでサプライズがないというのと、もう既に10月頃からトランプラリーでだいぶ市場が織り込んでいるので、前回ほどの株価上昇は期待しない方がいいかなと思っている。むしろ目先はリスクの方が意識されやすいのではないかと、それこそ今週も中国・メキシコ・カナダへの関税引き上げで、少しヒヤッとした場面もあった。こういうことがこれから増えていくと思う。

さらに言うと、アメリカ株は少し割高な水準に来た。S&P500のPER、株価収益率が22倍を超えた。どのぐらいの水準かというと、コロナバブルがあった2020年~2021年。株取引アプリのロビンフッドとか猫も杓子もコロナの給付金でみんな株を買ってガンガン上がった。22倍超えは、あの時ぐらいの水準。

コロナバブルの顛末はどうなったかというと、2022年にナスダックは3割下がった。今回も3割下がるまでの心配はしていないが10%~15%ぐらいの短期的な、一時的な調整余地はあると思っている。トランプ氏の発言一つで一気に株式市場が冷え込むということもある。でも長期的には上昇を期待していいから、むしろ今日のテーマは、チャンス。2025年、もし大きく下がる場面があったら、それこそチャンス。(国民民主党の政策で)手取りが増えるから投資を増やせる。そういうチャンスでもある。2つの意味で2025年は、長期投資のチャンスだと思っている。

――――トランプ次期大統領は、自国の利益を優先する「アメリカ第一主義」を掲げている。世界はやはりまたトランプ氏の言動・動きに振り回されてしまうのか。

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
政治も経済もマーケットも振り回されることになるのだろう。「減税の恒久化」や「法人税引き下げ」は、経済・景気にはプラスになる話だし、「減税の恒久化」は多分間違いなくやると思う。時期がいつになるかまだ読めない。

「法人税の引き下げ」もやると思うが、問題は「高関税政策」と「不法移民対策」。関税は前回、中国向けなど、結構引き上げた。日本も引き上げ対象になるのかどうか。トランプ氏は一対一で国と国の交渉をする人なので、一律にバーっと決まるようなことでもない。時期的には、前回は就任してから1年後の2018年の2月に関税の引き上げをした。今回はもう少し早めになる可能性はある。

2025年の夏ぐらいに本格化する可能性はあると思う。それから「不法移民対策」。本当に移民を追い返すことができるのか。移民で来た人たちはエッセンシャルワーカーが多い。本当に追い返してよいのかという話もあるし、実際に帰らせてしまうとアメリカは人手不足になり、賃上げしなければいけない。その分、企業は価格転嫁・インフレ…トランプ氏はインフレを抑えると言っているので、完全に真逆な政策だが、この辺もどこまで、いつのタイミングでやるのかが、まだ見えない。

――――「減税の恒久化」「法人税引き下げ」はアメリカの株高に繋がりそうだと感じるが、「高関税政策」「不法移民対策」はアメリカ株にマイナスなのではないか。

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
基本的に株にはマイナス、世論にはプラスだろう。高関税政策がどれぐらい出てくるか。前回もかなり脅しで使ったところがあった。今回はどこまで関税を引き上げるか、それこそトランプ氏の胸先3寸で物事が動く話なので、日本時間の夜中にSNSで何言い出すかもわからない。そういう意味では振り回される場面がこれから増えるだろう。

――――トランプ次期政権の経済閣僚人事が出そろったが印象は?

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
財務長官のスコット・ベッセント氏と、商務長官のハワード・ラトニック氏は投資家。基本ウォール街の人なので、基本的にはマーケットに冷たいことはしたくないはずだ。

――――イーロン・マスク氏も経営者なので、そういうところの感度は高いか?

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
彼の場合、本当何考えているかよくわからない。トランプ氏以上にわからないところがある。

警戒すべきはUSTR(通商代表部)の代表、ジェミソン・グリア氏。前回トランプ政権時に貿易交渉の首席補佐官だった。ライトハイザー氏の下で貿易交渉全部見てきていて交渉に長けている。この方がトランプ氏の指示通り「高関税」に動き出すと怖いと思う。

もう一つは、やはりマスク氏。政府効率化省の責任者だが、言ってよいかわからないが、1年後には、トランプ氏と喧嘩別れしているか、マスク氏がこの仕事に飽きて放り出しているか、そんなことになっているという気がする。

――――今は一緒にハンバーガーを食べたり、非常に仲のよい様子を楽しそうにSNSに投稿しているが。

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
マスク氏がトランプ氏を支持・サポートをしている理由は2つあって、1つは、中国のBYDをアメリカに入れさせないで欲しいと。それこそ保護貿易。もう一つは、宇宙開発の規制を緩和してほしいということがあるのだろう。元々マスク氏はすごく仕事をシンプル化して、スペースXを成功させている人なので、それを国レベルでやりたいという高尚な思いがあるのかもしれないが、多分ずっとはやらないのではないかと思う。

トランプ新政権で、日本株はどうなる!?

――――ここまではアメリカについて見てきたが、一方、2024年の日本株を見ていく。

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
前半は良かったが、改めて見ると、8月5日が一番安かった。3万1400円台で、明らかに売られすぎだった。しかしその後、ここ数か月もたついている。ダウ平均株価はもう4万5000ドルぐらいまでいっている。だいぶ出遅れ感も出てきた。企業の業績見通しがすごい慎重。それが株価の上値を重くしている一つの要因だ。もちろんここ最近円高に動いてきたのもあると思う。

ただ日本企業の業績の実態はそれほど悪くないと思う。企業側は慎重な見通しを出しているが、アナリストの予想では、2024年度も増益。5期連続の過去最高益更新が見込まれている。ということは、2025年の春ぐらいには「結局、増益で24年度も終わる」というのが見えてくる。そうなると、日経平均もいよいよ4万円回復。もう少し待たされるかもしれないが、仮にアメリカ株で大きめの調整があれば、当然付き合わなければならない。そういう場面あるかもしれないが、2025年の前半で4万円に回復すると思っている。

――――その後、トランプ次期大統領の関税の話が出てきた場合はまた下がったりする可能性もあるのか。

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
3万5000円ぐらいまでは、いつ下がってもおかしくないと思う。長期投資だったら、もう1回ここ(一番底の8月5日)になってほしいと思いませんか?なんならもう明後日ここまで下がってくれたら喜んで買う。急落を1回経験すると、免疫力がつく。「ここで売らなくて良かった。次同じようなことが起きたときにも、別に売らなくていいんだろうな」と。投資はある程度経験・慣れが必要だ。

――――今年から新NISAで投資を始めた人も一度、底値を経験して戻ってきているので、次に急落が来ても慌てる必要はないと。「長期投資」でちゃんと握っていることが大事。

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
為替も2025年はやはり変動率、ボラティリティが高くなると思う。足元「日銀が12月にも利上げするのでは、FRBも12月利下げするのでは」という見方が強まって、少し円高に動いている。155円は、若干円安に振れすぎていた。今週、為替の専門家の方に話をする機会があったが、その人も目先もう少し円高あり得ると。145円ぐらいまではあるかもしれないが、トランプ政策が進むにつれて、また円安方向、ドル高円安方向にじりじりと…と言っても一方向ではなく、乱高下しながら円安方向だろうと言っていた。自分もそうだと思う。やはりアメリカが強くなる。場合によってはドルの金利が上がっていくことになれば、やはりドル高。そうすると日本株も悪くはない。

――――日本株には円安の方が企業にとってはプラスになる可能性もある。

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
そうなると2025年度も過去最高益更新。3%、5%だと思うが、最高益更新が見込まれるように、2025年の春にはなってくる。いよいよ日経平均も4万円に回復しやすくなる。

長期投資のチャンス 2025年の注目株は

――――日米以外の株では成長が著しいインド株は。

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
9月下旬くらいから調整局面に。さすがに割高すぎたのだろう。いわゆる値幅調整が起きていると思う。もう一つは、今年4月から6月にかけてインドの総選挙があった。モディ政権は一応続いた。第3次モディ政権に入ったが、連立になってしまった。モディ首相の政党が思ったほど勝ちきれなくて。それで少し政治が不安定化するかもなんていう懸念もある。もう一つ、インドの経済成長率そのものが若干スローダウンしてきている。

そうは言っても、まだ今年来年7%弱の成長が見込まれているので、中国より遥かに成長率は高い。今少し値幅調整が起きているが、ゆったり上がったり、上がっては大きな調整を繰り返していくだろう。長期投資では全然やめる必要ないと思う。

――――もう一つの注目がベトナム株。今年の値動きはそれほど上がっているようには見えないが・・・

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
ほぼレンジレンジ相場。1年間だとあまり上がってないが、4年前と比べて2倍ぐらいになっている。リターンにすると年率20%弱。4年前に100万円投資したら今200万円ぐらいになっている計算。ベトナム株の投資信託もいろいろなものがあるが、いずれも手数料が少し高めの1%台後半、1.7%とか1.9%。ただリターン20%をくれるんだったら、つまり18%は自分の手元に残ることに。今後も20%で伸びる保障はもちろんないが、IMFの予想ではベトナムの成長率は去年が5%、今年5.8%、来年6.5%。成長が加速する見込みだ。
その理由はまず国が若い。平均年齢は30歳。

――――ベトナムは若者がたくさんいる渋谷みたいな国。

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
過去の経済統計を見ても30代が多い国は消費も旺盛で人口も増えていくし、成長率が高い。それからベトナムを注目するもう一つの要因は中国からいろんな企業が生産拠点をシフトさせている。ベトナムとかインドとかに。そういうのもあって輸出が増えている。

ただ、中国向けの関税をアメリカが引き上げると、最も影響を受ける国の一つでもある。ベトナムから中国に輸出しているから。関税の影響を受けるので、大きめの調整、株価も一旦大きく下がるかもしれないが、経済成長自体は著しいので、手っ取り早く儲けようという国ではなくて4年後、また2倍になってくれたらいいなという観点で投資する先だと思う。

――――来年の鍵を握るのはトランプ次期大統領の関税政策がどうなるのか次第か。

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
来年、アメリカ株、インド株、日本株どれがいいですかとか聞かれるが、正直わからない。トランプ氏次第。端的に言えばアメリカ株がいい。ただアメリカ株は少し割高なので、どこかで大きめの調整はあり得る。それは知っておくべき。

――――来年は新NISAが2年目。どう投資していくのがいいのか。

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
トランプ政権はどんなに長くても4年間。株も為替も今まで以上に乱高下が起きるかもしれない。ただ10年後20年後は今より高いはずだと思えば、たとえ乱高下しても怖くなって、投資をやめるとか、売る必要は全然ない。むしろ2024年8月5日みたいに大きく下がったときは「チャンス」と思って、少し買い増しするとかそのぐらいの投資戦略でいいと思う。

――――最後に投資のプロから相場の格言。「我々が望む株式保有期間は“永遠”だ」

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
ウォーレン・バフェット氏の言葉。でもバフェット氏は今、現金比率をすごく高めてるらしい。やはりアメリカ株を割高と見ているんだと思う。それが正解かどうかはともかく、バフェット氏はもう一つ「もし証券取引所が10年間クローズされても構わない銘柄を買いなさい」と言っている。

――――「10年後も信頼できる企業に投資しなさい」ということか。

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
10年間売らずに済む銘柄を買えと。その銘柄を探すのが大変。見つけるのが難しい。

――――とにかくこの言葉にあるように、長期投資か。

ニッセイ基礎研究所 井出真吾 氏:
理想は“永遠”だと言っている。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。