急激に進むドル高円安だけが強調されがちだが、5月以降の日経平均には追い風要因が多い(写真:ブルームバーグ)

ドル円相場は4月26日に1ドル=156円台をつけ、同日のニューヨーク市場では一気に158円台へ突入した。この34年ぶりの大幅な円安は、日本経済全体にどんな影響を与えるだろうか。

製造業の企業収益を押し上げたり、インバウンド拡大に寄与したりといった好影響がある一方で、輸入物価の上昇を通じて個人消費の下押し圧力が働くことが懸念される。

長い目でみれば、製造業の国内回帰を促すなど、産業競争力の強化につながるといった効果もありそうだが、正直なところ、筆者はどちらが良いとも言い切れない。

なぜ円安進行は日経平均に追い風となるのか

もっとも、日本株の押し上げ要因になっている可能性は濃厚といえる。というのも、日経平均株価採用銘柄の約6割は製造業であるからだ。これはTOPIX(東証株価指数)の時価総額ベースでも同様だ。

円安は、円建て輸出金額をカサ上げするほか、海外子会社など外貨建て資産の評価益拡大を通じて、少なくとも当期の業績に対しては増益要因となる。

なお、現在はアベノミクス初期に観察された「円安・株高」の構図ははっきりと目に見える形では確認できない。しかしながら、日米相対株価(日本株÷米国株)とドル円相場を同じグラフに描くと、その波形は一致している。これは円安局面で日本株が米国株よりも強くなることを意味している。

そうなると、今後の日本株のリスクは円高ということになるが、最近のアメリカの動向を踏まえると、円高方向への転換は時間がかかりそうで、その分だけ追い風が長く吹くことになりそうだ。

筆者は従前、ドル円相場は先行き12カ月以内に1ドル=140円を割れるとの予想を示してきた。だが、FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の利下げが遅れるとの判断から、すでに140円割れは予想していない。

今や、FRBの年内の利下げ幅については0.5%(50ベーシスポイント)、年末時点のFF(フェデラルファンド)金利(民間銀行が資金を融通し合う際に適用される短期金利の政策指標)は5.0%であれば御の字、という状況になりつつある。

年初の時点では、3月のFOMC(連邦公開市場委員会)で利下げ開始後、年間で約6回(1.5%相当)分が織り込まれていた。だが、度重なる経済指標の上振れを経て、FF金利先物が織り込む年内の利下げ回数は1~2回となっている。

今後も1ドル=140円割れは想定しにくいワケ

ここでアメリカの重要経済指標を整理すると、まず消費者物価指数はジェローム・パウエルFRB議長が「凸凹(バンピー)の一部である」と見なしてきた1・2月の強さに続いて3月も加速気味となり、インフレ沈静化の道のりがなお険しいことを示した。その間、消費者マインド指標が上向いたのと整合的に、個人消費(小売売上高)は明確に加速した。

また、ISM製造業景況指数が約1年半ぶりに50を回復したほか、住宅指標(着工、中古・新築販売件数、建設業者の景況感)も底打ち感が強まるなど、全般的にアメリカ景気再加速の気配が強まっている。

そして4月入り後、一時1バレル=85ドルを超えてきた原油価格もインフレ沈静化を阻害する要因になりつつある。26日に発表になった3月の個人消費支出のコア物価指数(エネルギーと食品除く)も、前年同月比で2.8%上昇している。

さすがにインフレが再加速する兆しは乏しいことから、7月ないしは9月FOMCにおける利下げ開始はありそうだが、それでも年内の利下げ幅は0.5%にとどまると判断される。FRBの利下げが遅々とすることで、日米金利差縮小に時間がかかることを踏まえると、やはり140円を割れるような円高は想定しにくい。

今後予想される日本銀行の追加利上げや長期国債の買い入れ減額(現在は年70兆円強)は、若干の日米金利差縮小をもたらしそうだ。だが、やはり為替市場に与える影響はFRBの金融政策が圧倒的に大きい。

また、構造的な貿易・サービス収支の赤字が需給面で円安圧力を生じさせていることも重要だろう。

2023年以降、貿易赤字の縮小が進む中、旅行収支の黒字幅拡大によって貿易・サービス収支の赤字幅は縮小傾向にある。だが、その他サービス収支が、いわゆるデジタル赤字の拡大によって6兆円程度の流出超となっていることから、貿易・サービス収支の黒字転換は展望しにくい状況にある。

このことは、為替市場において恒常的に実需の円売りが優勢になっていることを意味する(ここでは経常収支における第1次所得収支の利息・配当や直接投資の流出入は実需としと取り扱わない)。これらを踏まえると、日本株に吹く円安の追い風は当分やみそうにないと予想される。

株主還元策強化や半導体需要増も日本株の上昇を後押し

また、資本効率改善を狙った株主還元策も期待される。4月15日に東京証券取引所が発表した「『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応』に関する開示状況(2024年3月末時点)」によると、コーポレート・ガバナンス報告書を開示した企業は東証プライム市場の65%(1065社)となり、2023年12月末(49%、815社)から大きく増加した。

全体の傾向としてPBR(株価純資産倍率)1倍未満の企業ほど開示が進んでおり、変革の意思がうかがえる。これまで、必ずしも重視されてこなかった「資本効率」が大きく取り扱われる中、PBR1倍割れの企業はもちろん、資本効率のさらなる改善に意欲的な企業が、これまでとは違った大胆な株主還元策を打ち出す可能性が示唆される。

2023年は5月に3兆円を超える自己株買いが発表されたことで投資家の要求が満たされ、株価上昇の原動力になったことは記憶に新しい。今年も現在の企業業績から判断すると同程度の自己株買いが期待されることから、自己株買いの規模は現在の年間10兆円ペースを上回ってくるのではないか。なお、年間10兆円という規模はかつての日銀のETF(上場投資信託)買い入れ額(おおむね6兆円)をはるかに上回る。

そして半導体だ。半導体市況をつかむうえで企業決算を読むのは重要だが、マクロ指標も有益な情報を提供してくれる。例えば、4月15日に発表された2月の機械受注統計は半導体市況の回復を印象づけ、日本株の上昇を示唆する結果であった。

機械受注の機種別受注額に目を向けると、半導体製造装置が含まれる「電子計算機等」の強さが目立った。筆者は日本株を読むうえでこの電子計算機等を重視している。その理由は日経平均株価とこの系列が同じ波形を描くからにほかならない。

半導体製造装置の受注動向で日本株全体が説明できるのは、その存在感の大きさがある。まず、日経平均株価に採用されている半導体製造装置の上位3社だけで約16%のウェートを占める。そこに電気機器、化学、機械、精密機器等の業種に分類されている半導体関連企業を含めると、その存在感はさらに大きくなる。

また、半導体工場の能力増強投資にあたって建設にも需要が波及するほか、データセンターの拡大によって電力にも恩恵が及ぶといった副次的効果もある。

これら広義の半導体で見れば、その存在感は大きく、結果的に日本株全体を説明できると考えられる。世界的な半導体市況の好転およびサプライチェーン再構築に伴う半導体製造装置の需要増は、引き続き日本株の上昇を牽引するだろう。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

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