女川原発2号機は10月29日、13年ぶりに原子炉を起動し再稼動しました。しかし、原発で重大事故が発生した際の避難にはいまだ課題も多く、住民の命を守るためのいち早い環境整備が求められています。

女川町の高台にある災害公営住宅。住民で区長の鈴木浩さん(77)です。住民と行政のつなぎ役となっている鈴木さんの元には、毎月、東北電力から届く書面があります。

女川町大原北地区区長 鈴木浩さん
「こんな感じでいつも来るんです。毎月」

先月届いたのは、原発再稼動に向けて、「燃料装荷」の段階へと進んだことを報告する書面。報道発表されるトラブルの発生なども含め、毎月、月報として配布されているといいます。

女川町大原北地区区長 鈴木浩さん
「住民から聞かれたら分からないからちょうだいって言った」(Qコミュニケーションは多い?)「はい、電力さんはまめにやっていますね」

女川原発の再稼動は地域にとって必要なことだと、鈴木さんは考えています。

女川町大原北地区区長 鈴木浩さん
「原発が好きなわけではないけど、やっぱり必要なんですよね。女川ではどうしても。お金の問題もあります。この女川町の人口、世帯数ではお金が少なくなってくる。やむを得ないわけではないけど、お金も必要なのかなと」

一方で、重大事故が起きた際の避難計画には不安が残るといいます。国の指針では、重大事故発生時、原発から半径5キロ圏内の住民はすぐに避難を開始。5キロから30キロ圏内の住民は被ばくを抑えるため、自宅などに屋内退避とされています。鈴木さんは30キロ圏内に該当するため大規模な損壊などで公営住宅に留まれない場合は、隣接する町の総合体育館へ退避することになっています。その後、国の指示で広域避難に切り替える際は、栗原市が最終避難場所に指定されていますが…

女川町大原北地区区長 鈴木浩さん
「混んでいますからね、こっち行くまで。三陸道ありますけど、そこに行くまで大変ですね」

鈴木さんは、石巻女川インターチェンジから三陸道を北上することになっています。しかし、その石巻女川インターに向かうまでに走る国道398号線は海のすぐそばで、大雨の際には冠水も。さらに道路の幅も広くありません。

女川町大原北地区区長 鈴木浩さん
「大型トラックなんか来たらギリギリですよ、対向車」

急カーブが続く山道も…「この辺なんかいっぱい混んで(車列が)つながってしまうんじゃないですか。三陸道乗るにはこれしかないからね、道路は」

命綱とも言えるこの道路ですが、課題が放置されていたわけではありません。自治体と連携して広域避難計画を策定する県は、現状の国道よりも内陸部に2つのトンネルを作る新たな道路の整備を決定。高度な技術を要することから、村井知事は国の直轄事業とするよう要望し受け入れられました。今年に入り、設計についての住民説明会が開かれましたが、まだ用地取得を進めている段階で、着工も完成の時期も今のところ「未定」です。

住民説明会の参加者
「なるべく早めにやってほしいと思います」「能登半島地震でも分かる通り、道路が寸断された場合、実際問題としてどうなのかなっていうふうなこともありますので、その辺で使いやすい道路になればいいかなと感じております」

能登半島地震では志賀原発に異常はなかったものの、道路が寸断され、重大事故が発生した際の避難の課題が浮き彫りになりました。同じ半島部の立地という共通点がある女川原発。能登の教訓を、再稼動前に避難計画へ反映するよう求める声もありましたが、県は「内閣府が取りまとめる調査結果を注視する」との姿勢を保っています。同様の指摘が繰り返されることもあってか、村井知事は県議会で極端な答弁に走る場面もありました。

日本共産党宮城県会議員団 金田基議員(県議会9月定例会)
「半島部に位置した原発が複合災害に見舞われた際の現実。屋内退避も広域避難もできなくて被ばくを強いられる。こういう状況が目の前にあるわけですから避難計画と緊急時対応の見直しなしに2号機の再稼動に突き進むのは許されないと思う。改めていかがですか?」

宮城県 村井嘉浩知事
「私は許されると思います」

県の計画は、道路が寸断された場合、空や海からの避難を想定し訓練を重ねていくとしています。

宮城県 村井嘉浩知事
「紙の上だけで(計画を)いくら作ってもですね、本当にそれがいざという時に人が動いてくれるのか、物や動作がちゃんとするのかというのははっきり分かりませんので、これは訓練をしながらですね、常にブラッシュアップ。見直しを進めていくことが重要だと思っております」

訓練などを通じて県が普及を進める取り組みもあります。デジタル身分証アプリ「ポケットサイン」。この機能の一つ「原子力防災」では、迅速な情報の通知や避難所での受付がスムーズになる機能などを搭載しています。おととしから実証実験をはじめ、去年から女川町など7つの市と町で運用が始まりましたが、そのダウンロード状況は…

宮城県原子力防災対策担当 太田純一課長
「住民の約4割を超えています。しかしながら、訓練以外に住民が操作する機会がないこともあり、操作したことのある住民は少ないと思われます」

導入促進に向け、女川の商店街で利用できるポイント付与のキャンペーンなどを行ってきましたが、スマートフォンを使い慣れない高齢者も多く浸透していません。

宮城県原子力防災対策担当 太田純一課長
「県としては引き続きリーフレットなどによるアプリの周知と訓練時に操作いただく機会を提供するなどしていきたい。原子力防災には終わりも完璧もないと言われているので、再稼動の前や後ろにかかわらず、今後も引き続き実効性向上に取り組んでいきたい」

東日本大震災や能登半島地震…大きな災害のたびに備えや避難の見直しは指摘されてきましたが、未来へと先送りしてはいけない課題が再稼動した今も残されています。

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