与野党一致していた「最低賃金1500円」
自公の過半数割れを受け、永田町では各党の駆け引きが激しくなっている。
選挙期間中、“裏金”や自民党の2000万円支給、景気対策等で論戦が行われたが、与野党で奇妙なほど一致していたのが「最低賃金1500円」だ。
この記事の画像(7枚)自民党は2020年代に、公明党は5年以内に、全国平均で「最低賃金1500円」を掲げた。
野党では時期等に濃淡があるものの、立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組も「最低賃金1500円を掲げた。ちなみに、大躍進し動向が注目される国民民主党は、「早期に1150円」を主張、日本維新の会は最低賃金の金額は打ち出していなかった。
最賃1500円には年7%以上アップも
現在の最低賃金の全国平均は1055円である。最も低いのは秋田県の951円、最も高い東京都でさえ1163円となっている。また、地方と都市部の格差も大きい。
このような中、与党が言うように、2020年代つまり5年以内に全国平均で最低賃金を1500円にしようとすると、毎年7%以上も上げなければならない。
厚生労働省が28日に公表した2024年の賃金調査によると、比較可能な1999年以降の最高を更新した今年の賃上げ率でさえ「平均4.1%」 だ。毎年7%がどれだけ高いハードルであるかが、よく分かる。
最賃1500円で「ありえなさすぎて…」人件費25%アップも
「ありえなさ過ぎて試算したことがないです」外食チェーンを展開するある会社の幹部は「最低賃金1500円」に表情をくもらせる。
飲食店の人件費は売り上げの約3割が相場といわれている。この会社のパートタイマーの時給は平均約1200円。時給1500円になったとしたら、単純計算でも年間の人件費が25%増えるという。すると、売り上げの中の人件費の割合は、約3割から4割弱にまで膨らんでしまう。
「円安で原材料費が大幅に値上がって、コスト1%をカットするのにどれだけ苦労していることか。それが一気に25%も増えるなんて、ありえなさ過ぎて試算したことがないです」と大きなため息をついていた。
円安による原材料費の高騰が続く中での急激な最賃引き上げは、コスト面で非常に厳しいのだろう。また、他にも難しい問題があるという。
実は6つも「年収の壁」
もう一つの難しい問題が「年収の壁」だ。「年収の壁」とは、パートで働く人などの年収が一定金額を超えると、税金や社会保険料の負担が生じたり増えたりすることをいう。
「壁」を越えてしまうと手取り額が減ってしまうため、「壁」を超えないよう働き控えが起きる。「年収の壁」は、実は100万円、103万円、106万円、130万円、150万円、201万円の6つもある。中でも大きな壁は103万円と106万円だ。
実際には見えづらいとも思われる壁だが、FNNが入手したある会社の内部資料では、その高さが歴然としている。
「年収別アルバイト人数」と題されたその資料のグラフを見ると、年収103万円まで働く人と、106万円まで働く人が圧倒的に多くその「年収の壁」の向こう側は、働く人の数が大きく減っているのが一目瞭然だった。その企業の幹部は「年収の壁がなくなれば、労働力は2倍になるのではないか」とも話す。
「年収の壁」で人手不足倒産増加か
「わが社の場合、時給が1500円になれば、80時間働いてくれていた人が60時間しか働けなくなります」。外食チェーンの幹部いわく、時給1200円で1か月80時間働いている人の場合、現状の年収の壁が続いたまま時給が1500円になれば、壁を超えない労働時間は80時間から約60時間に減るという。働く側からすれば、働く時間が4分の3になって同じ金額を受け取ることができるから嬉しいことだろう。
一方で、帝国データバンクによると、今年上期(4月から9月)の人手不足倒産は過去最多の去年を上回るペースとなっている。
そのような中、同じ給料で4分の3の時間しか働いてもらえないとなれば、この人手不足のなかで新たな人の確保が難航することは必至、人手不足倒産が増える恐れもある。
「最低賃金1500円」公約のツケは誰が払う?
一口に「最低賃金1500円」というのは簡単だ。有権者に対して分かりやすく耳ざわりもいいからこそ、与野党の“奇妙な”一致となっただろう。
経済界も、立場や言い方は様々だが、最低賃金を上げるという方向では一致している。むしろ経済界が問題視しているのは「達成可能か否か」である。
最低賃金1500円の実現にむけては、政治の混乱により進む円安と、円安に伴う原材料費の高騰、物価高による実質賃金の伸び悩み等のほか、6つもある「年収の壁」など、民間企業の努力だけでは解決できない問題がある。
にもかかわらず、政治側からは、最低賃金1500円にむけ「達成可能」な具体的道筋は示されていない。
政治が具体的制度改正などを行わず「最低賃金1500円」を強く求めた結果、負担増という“ツケ”を払うのが民間企業、特に価格転嫁が難しい中小企業となるならば、それは政治の怠慢ではないのか。
今後の政権の枠組みが不透明な今こそ、「達成可能」とするために与野党を超えた建設的な議論と国民本位の部分連合で、政策をしっかりと進めてもらいたい。
【執筆:フジテレビ経済部長 小川美那】
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