10月24日、中国人民元は、トランプ前米大統領返り咲きの可能性が重圧になりつつある。2023年1月撮影(2024年 ロイター/Dado Ruvic)
中国人民元は、トランプ前米大統領返り咲きの可能性が重圧になりつつある。投機筋が人民元の売り持ちに動いているだけでなく、中国本土の輸出業者などが保有するドルを手放さないからだ。
中国経済の低迷や中国債券利回りの低さが響き、人民元は昨年初め以降軟調が続いている。過去17カ月は1ドル=7元よりも元安水準で推移し、下落率は約2%だった。
足元では中国政府の大規模な経済対策を本土の株式市場が好感して投資家が戻ってきたが、11月5日の米大統領選で対中関税の大幅引き上げを公約に掲げる共和党候補トランプ氏が勝利するかもしれないため、人民元への下げ圧力は強まり続けている。
3週間移動平均ベースの人民元下落率は約1.5%と、この1年余りで最大に達した。
イーストスプリング・インベストメンツの債券ポートフォリオマネジャー、ロン・レン・ゴー氏は「向こう12─18カ月で、中国はあらゆる方面から関税引き上げに直面するので、自国経済のための最も手っ取り早い政策調整は通貨安誘導になる公算が大きい」と指摘した。
実際これは中国が以前に採用した政策だ。
トランプ氏が1期目の米大統領だった期間には、2018年に初めて中国製品に関税が発動されると人民元は対ドルでおよそ5%下がり、1年後両国の貿易摩擦が激化するとさらに1.5%下落した。
市場参加者の話では、当時中国人民銀行(中央銀行)は元安を容認し、輸出収入を増やすことで関税の悪影響を相殺したように見受けられた。
今回トランプ氏は中国製品に60%ないしそれ以上の関税を適用すると表明している。
ジェフリーズのグローバルFX責任者を務めるブラッド・ベッチェル氏は、トランプ氏が大統領に復帰し、共和党が上下両院で多数派を握れば、数カ月で人民元が最大12%下落する可能性があるとみている。
バークレイズのマクロ・FXストラテジスト、レモン・チャン氏は、今年第4・四半期のオフショア人民元は1ドル=7.10元前後と、6月以降の7.00─7.30元というレンジの中心で推移すると予想する。
外貨志向
中国債券の利回りが抑え込まれていることも、人民元の価値を損なっている。
期間10年の米国債利回りは、年2%に過ぎない同期間の中国国債の2倍に上る。
こうした中で中国の輸出業者や投資家は資産を外貨建てに維持。その一部は商業銀行の外貨預金として保有され、9月末時点では8490億ドルに増えた。残りは中国国有企業のドル建て債などの形で置かれている。
インベスコのポートフォリオマネジャー、イフェイ・ディン氏は、国内債利回りがオフショア債の利回りよりすっと低いので、国有企業のドル建て債に中国の買い手からの資金が流れ込んでいると説明した。
さらに米国が関税を引き上げる恐れがあり、人民元に先安観が広がる以上、中国企業は海外資産を急いで環流しようとしていない。
上海の電子部品輸出会社の所有者は、トランプ氏と関税の組み合わせは米金利上昇とドル高を意味すると述べ、香港に持つオフショア口座にあるドル預金をすぐに人民元に転換するつもりはないと明かした。
中国当局も、人民元安を好むように思われる。8月に人民元が一時8カ月ぶりの高値になった場面では、大手国有銀行がドル買いに動き、輸出収入の目減りを防いだとみられる。
IGの市場アナリスト、トニー・シカモア氏は、トランプ氏が大統領に戻って対中関税を約束通り60%に引き上げれば、中国にとってはまずい事態だと分析。「恐らく、だからこそ中国当局は前倒しで金融緩和に乗り出し、財政出動に言及しているのではないか。これらの関税が実行されれば、中国の経済成長には逆風となるので、衝撃緩和の要素が欲しいのだ」と付け加えた。
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