東京-新大阪を結び、今年で開業60年を迎えた東海道新幹線。重さ約700トンの1編成16両の列車が1日350本以上も走っている。その高速、大量輸送は、真夜中に人知れず行われている保線作業が支えている。
日付が変わる直前、下りの最終列車が京都駅を発車した。指令から許可が出ると、滋賀県栗東市にあるJR東海栗東保線所による保線作業が始まる。この日は同市内で、線路を支えるバラスト(砕石)の更換作業だ。
雨が容赦なく降る夜となった中、こうこうと明かりの照らされた現場は緊張感に包まれていた。与えられた作業時間は、始発が走るまでの約4時間。列車の運行を妨げることは許されない。同保線所の重森清輝助役(42)は「不測の事態に備え、安全対策は二重三重」。作業内容によっては、開始時間がわずか15分遅れるだけでも、実施を見送ることもあるという。
作業では保守車両が活躍する。まず登場するのがNBS(新道床更換機)。車両前部のカッターで古いバラストを掘り起こし、吸い込んで除去。同時に連結したホッパ車に積み込んだ新しいバラストを流し込む。
重森さんによると、この区間のバラスト更換は約30年ぶりという。新旧のバラストの大きさを見ると、古い方は砂利とまではいかないが、かなり細かくなっているのが分かる。
約60メートルの作業区間を進んでいくNBSに続いて現れたのはMTT(マルチプルタイタンパ)。新しく流し込まれたバラストを車体左右にあるタンピングツールで突き固めるとともに、線路の上下・左右のずれを修正する。
最新式の保守車両の導入で作業できる区間は長くなり、必要な作業員も少なくできた。しかし、まだまだ人力は必要だ。新しいバラストを流し込む位置や角度を調整したり、シャベルなどでバラストをならしたりするのは作業員。足場が悪い環境だが、安全に気を配りながら、てきぱきと進めていく。
一夜で1500人作業
東海道新幹線はバラストの上に枕木、レールを敷く「バラスト軌道」を採用している(一部除く)。列車の荷重が分散され、乗り心地がよく、騒音が抑えられる利点があるが、バラストの定期的な更換が必要となる。ほかの新幹線ではコンクリートの上にレールを固定する「スラブ軌道」を採用しているところもある。
バラスト更換作業は、営業距離約550キロの東海道新幹線で年間延べ600日以上行われ、軌道工事に携わる作業員は一夜平均で1500人を超える。保線所は20カ所あり、栗東保線所は同県近江八幡市から大津市までの約28キロを担当。バラスト更換だけでなく、レールや枕木の更換も行う。また、昼間も線路を歩き、異常がないか確認している。
作業中に積雪し、用具が埋もれてしまうこともある。ただ、作業は夏の方が過酷という。重森さんは「夜とはいえ、温度が高い。熱中症に気をつけなければならない」と話す。
この日の作業は最高時速285キロで走行が可能な区間で行われた。重森さんは「車両が性能を発揮できるのは、線路がしっかりしていてこそ。事故や災害が発生すると私たちが復旧や点検を行うので、新幹線が安全に運行するのには、私たちが目立たないのが一番」。日本の大動脈を守る作業は人知れず行われている。
「名古屋飛ばし」解消に一役
バラスト更換の作業を締めくくる保守車両はDTS(道床安定作業車)。バラストに振動を与えて安定させる役割を持つ。
DTSが導入される平成9年以前は、バラストを更換した区間は微量な初期沈下が起きるため、数日間は時速170キロ程度に徐行する必要があった。東海道新幹線に「のぞみ」が登場した4年3月、名古屋と京都を通過するダイヤが早朝に1本設定され、JR東海のお膝元、名古屋にも停車しないことから話題となった。これは東京-新大阪間を2時間半で結ぶダイヤを実現させるため、やむなく両駅を通過することになったもの。
DTSを導入したことで徐行の必要がなくなり、9年11月のダイヤ改正では「名古屋飛ばし」は解消された。
新幹線60年 支える開業以来、約68億人が利用する東海道新幹線。日本の大動脈は今年60年を迎えた。世界に冠たる高速鉄道を支える人たちを紹介する。
- 「夢の超特急」新大阪駅発着500本 死傷事故ゼロ・ダイヤ守るプロフェッショナル集団
- 新幹線車内整備「18分」 時間との戦い 乗客の快適な旅を支える「ブルーのユニホーム」
- 旅を彩る駅弁「おいしかった」の一言を求めて 安全・真心込められた「味の玉手箱」
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