各種情勢調査によると、10月27日に投開票が行われる衆院選では自公過半数が微妙な状況だという。政治の不透明感が高まっている状況であり、政策を通じた日本経済への影響も読みにくい。もっとも、おそらく衆院選の結果を受けて日本経済の見通しを変更する必要はないだろうと、筆者はみている。基本的には与党が議席を落とす可能性が高い状況で、25年夏の参院選に向けて財政政策は拡張的(かつバラマキ的)になりやすいが、財政政策については岸田政権もインフレ対応で拡張的だった(大きく変わるわけではない)。金融政策については、円安も円高も問題視されやすい中で、無難に対応していくしかない状況である。マクロレベルでの政策の変化はあまり想定されないというのが実際のところだろう。
当レポートでは、日本経済と市場動向について筆者の見方を Q&A 方式でまとめた。

日本経済は強いのか弱いのか?~良くも悪くもない

24年前半は実質賃金の目減りによって個人消費が低迷し、世界経済の減速によって輸出や生産も低迷した。今後を展望すると、当面は「賃金上昇率>インフレ率」の状況が続くことが予想され、個人消費がさらに減少することはないだろう。もっとも、賃金上昇率は3%程度、インフレ率は2%程度の推移が想定されるため、実質賃金の回復ペースは1%程度になる見込みである。コロナ前と比べて実質賃金の水準は5%程度低下したことから、人々の「物が高い」という感覚は当面変わらないとみられる。勤労者世帯の貯蓄率が40%弱で推移していることを考慮すると、実質賃金回復のペースが1%程度であれば、個人消費は0.6%程度のペースで増加するだろう。少なくとも実質GDP成長率はプラスを維持できる可能性が高い。なお、今後想定される実質賃金の回復局面(2~3年程度は続くと予想)は賃金と物価の粘着性の違いによるボーナス期間に過ぎないと筆者はみており、実質賃金の水準はコロナ前を上回ることはないと予想している。

他方、世界経済の成長減速が続くことが予想されるため、外需については低迷した状態が続きそうである。なお、日本の景気循環は主に鉱工業生産などのデータによって決定されることから、実質GDP成長率はプラスでも、すでに日本経済は緩やかな景気悪化局面に入った可能性が高いと、筆者はみている。

日銀の利上げは続くのか?~24年12月、25年4月の後2回で利上げ停止へ

Bloombergは10月18日、「日銀は今月利上げの必要性乏しいとの認識、今後は排除せず-関係者」との記事を配信し、10月決定会合における利上げの可能性は低いという関係者の発言を報じた。もっとも、経済・物価見通しは「オントラック」という見通しは維持される見込みであり、利上げが停止されるわけではない。また、「オントラック」が維持されるのであれば、再利上げのタイミングとして25年1月展望レポートを待つ必要はない。筆者は24年12月の再利上げが有力だと予想している。

その先の見通しについては、25年春闘の結果が「4%台半ば~後半」になると、筆者は予想していることから、連合の第1回集計結果(3月)を確認した上で25年4月に再利上げを決めることは可能だろう。しかし、24年後半に円安が一巡したことを受けて25年春にはインフレ率の下振れが目立ち、25年7月の展望レポートでは日銀が「オントラック」と言えなくなる可能性が高い。利上げは24年12月、25年4月の後2回で停止されると、筆者は予想している。

衆院選の結果と影響をどうみるか?~財政拡張と金融政策ニュートラルは既定路線か

10月27日投開票の衆院選については、自民党が無所属で当選した議員を追加公認することなどによってギリギリで自公過半数が確保できると、筆者は予想している。しかし、その場合でも25年夏の参院選に向けた不安が残るため、年末に策定される見込みの経済対策(補正予算)は比較的大きなものとなるだろう。

青木官房副長官は10月16日に昨年の経済対策が補正予算13兆円、事業規模37兆円程度であったことに触れつつ、今回の経済対策について、昨年を上回る規模としていく予定であることを示唆した。いわゆる「真水」にあたる歳出増の規模が13兆円超になるか、乗数効果の大きい政策が重視されて事業規模だけが昨年の経済対策を超えるのか現状では不明だが、財政拡張的であることは間違いないだろう。

経済対策のメニューについては、電気代・ガス代・ガソリン代の補助策の延長に加えて地方創生臨時交付金の活用が想定される。すでに石破首相は現状では当初予算で1,000億円計上されている地方創生の交付金を倍増させる方針を表明している。地方創生の交付金は当初予算ベースでは少額だが、過去の政権は20年に創設した「地方創生臨時交付金」として地方自治体に18兆円超を交付してきた。むろん、コロナ対応で必要だった面もあるが、岸田政権ではインフレ対応のバラマキとしても活用されたという批判も多い。石破政権でも同様の手法によって地方自治体を介したバラマキが行われる可能性が高い。この交付金を使って成長力を高めている自治体もあるかもしれないが、多くの自治体ではキャッシュレス決済のポイント還元などといった短期的な個人消費や中小企業の支援策になっているとみられる。いずれにせよ、このような政策は岸田政権でも行われてきたことから、これが継続することで新たな経済効果が出てくると考えることはできない。

なお、筆者の予想が外れて自公過半数割れとなった場合でも財政拡張路線が強まることに変わりはないだろう。例えば、連立政権入りが指摘されている日本維新の会や国民民主党も財政拡張を主張している。自民党内で石破降ろしとなれば、高市氏が新総裁の候補となるが、高市氏は財政拡張を主張するだろう。

金融政策についても同様である。岸田前首相は円安によるインフレ高進の影響を緩和するため、日銀に利上げを促したと言われている。7-8月には円高が進んだものの、足元では再び円安圧力が強くなっている。この状況で金融緩和の必要性を訴えることは、支持率を引き上げる上で得策とは言えない。一方で、金融引き締めを訴えて株価が下がるリスクもある。金融政策についてはニュートラルとせざるを得ないだろう。為替動向についても、少なくとも日本の政策で動く可能性は低い。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)

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