ドイツのショルツ首相は、中国から輸入する電気自動車(EV)に追加関税を課す欧州連合(EU)欧州委員会の提案に反対した。写真は5月22日、江西省にある江鈴集団傘下のEV工場で撮影(2024年 ロイター/Kevin Krolicki)
ドイツのショルツ首相は、中国から輸入する電気自動車(EV)に追加関税を課す欧州連合(EU)欧州委員会の提案に反対した。しかし、加盟国に追加関税案賛成の輪が広がるのを止めることができず、ドイツが国内政治分断によってEUの政策のかじ取り役を担うのが困難になっている構図があぶり出された。
ドイツの自動車メーカーは売上高のほぼ3分の1を中国市場で稼いでおり、追加関税による中国側の対抗措置を懸念。こうした声に押されてドイツ政府は今月4日のEU加盟国の採決で反対票を投じたが、同調したのは4カ国にとどまった。
これは10年前とは極めて対照的だ。2013年7月のある週末、当時の中国政府とドイツのメルケル首相、欧州委のバローゾ委員長の間で何度も電話のやり取りが交わされた結果、EUの太陽光パネルに対する関税案は撤回され、代わりに最低価格を設定する合意が成立した。
メルケル政権の16年はドイツの産業界が活況を呈すると同時に、メルケル氏の政治力がEUの結束を可能にしていた。ところが、現在のショルツ政権は社会民主党、自由民主党、緑の党の連立でなかなか内部の足並みがそろわない中で景気後退2年目に突入し、来年には連邦議会選挙を控えていることから、まずはEUの政策よりも国内問題を優先せざるを得ない。
こうしたショルツ政権の内部がばらばらな状態を巡っては、EUの外交官から憤まんが聞こえてくる。欧州におけるドイツの影響力を弱め、EUの団結を損なっているというのがその理由だ。EUはEV問題で引き続き中国と妥協できる線を模索すると約束しているが、ドイツの意見が異なることはEUの交渉力を低下させている。
市場調査会社ユーロインテリジェンスのアナリストチームは「ドイツと残りの(EU諸国)の溝は、個別の加盟国への外国による圧力に一枚岩の態度を示していくという欧州委にとって大事な取り組みの1つを台無しにしている」と記した。
緑の党出身のベーアボック氏がトップに立つドイツ外務省のある高官は、EUは中国の不公正で市場にダメージを与える措置を阻止するべきで、関税を選択肢から外してはならないと発言している。ショルツ政権内部の亀裂も露呈した形だ。
前途多難
政治的にまとまれないドイツが他の加盟国と同一歩調を取れなかったのは今回が初めてではない。3月には、企業寄りのドイツ自由民主党が強く反対したにもかかわらず、EU各国は企業に自社サプライチェーン(供給網)の監査を義務化する法案を支持。ドイツは採決で棄権した。
ショルツ政権はイタリア大手銀行ウニクレディトが意欲を見せているドイツのコメルツ銀行買収にも反対の姿勢で、銀行合併・買収の最終承認権限を持つ欧州中央銀行(ECB) の政策担当者がいらだちを募らせている。ECBが指摘するのは、ドイツがEUの銀行同盟創設を支持している点だ。その実現には国境をまたぐ銀行合併が有効となる公算が大きい。
中国製EV向け追加関税反対でドイツと連携した国の1つは、しばしばEU内で孤立する傾向があるハンガリーだった。オルバン首相は追加関税について、欧州経済とドイツの自動車セクターに「大打撃」を及ぼすと主張。X(旧ツイッター)への投稿で「ドイツと欧州の産業界はもはや欧州委が理性的になるよう説得するのが不可能になった。だがでは誰がそれをできるというのか」と述べた。
とはいえ、オルバン氏はEUの政策の推進よりも阻止する方の大物という側面が強く、かつてのドイツのようなEU結束の旗頭には到底なれない。
欧州改革センター(CER)のアシスタントディレクター、ザック・マイヤーズ氏は、追加関税を巡る論争は、ドイツがもうEUの通商政策を主導できない上、フランスの影響力もより限定されていることを物語ると分析。後者については、フォンデアライエン欧州委員長がフランス出身のブレトン委員を交代させ、後任者の権限を縮小したことが原因だとの見方を示した。
フォンデアライエン氏にしても、米国により接近して中国リスクの低減を図ろうとしているものの、ドイツとフランスの先導がなければ、せいぜい産業セクターごとの政策遂行と国際貿易ルールの尊重を通じて加盟国の支持を得るしかないだろう。
ロジウム・グループのシニアアドバイザー、ノア・バーキン氏は、欧州委は中国製EV向け追加関税で加盟国の賛成多数による支持を得たが、今後はドイツの後押しがなければ、中国に対して一貫したより懐疑的な政策を行っていくのは難しくなると警告した。
ドイツ国内で目先の視野の狭い問題が優先されている限り、欧州委は新たな対外経済政策の課題を推進するのに苦労を強いられるだろうと指摘している。
Copyright (C) 2024トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。