日銀からの資金供給量を示すマネタリーベース(平均残高)が1年2カ月ぶりに減少に転じた。日銀は8月から国債買い入れの減額を開始しており、金利正常化が進むなかで、「量」の正常化も進む兆しが見えてきた。

日銀が2日発表した9月時点のマネタリーベースは前年同月比0.1%減の669兆4463億円だった。マネタリーベースは市中に流通する現金(紙幣と硬貨)と、金融機関が日銀に預ける預金(日銀当座預金)の合計額を示す。内訳では紙幣の発行残高が1.1%減の119兆4670億円、貨幣(硬貨)の流通高は1.4%減の4兆6973億円だった。

マネタリーベースが減少に転じた背景には、日銀が8月に始めた国債買い入れの減額がある。7月に約6兆3000億円だった国債買い入れ額は、8月に約5兆3000億円に減った。日銀の8月時点の長期国債の保有残高は約593兆円と、前年比で2009年5月以来の減少に転じた。国債の買い入れ額が減るなか、SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「償還が買い入れ額を超えやすい局面がきた」と話す。

日銀は7月の金融政策決定会合で国債買い入れの具体的な減額計画を決めた。月間の買い入れ額を7月までの6兆円程度から26年1〜3月期に3兆円程度に減らす。3カ月ごとに4000億円ずつ減額していく計画だ。 

日銀は13年4月に異次元の金融緩和策を始めた。物価上昇率が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を維持する「オーバーシュート型コミットメント」を掲げ、長期国債の大規模な買い入れに動いた。異次元緩和の開始前に100兆円に満たなかった長期国債の保有残高は、ピーク時の23年11月には600兆円近くまで膨らんだ。

異次元緩和をめぐっては円高是正や株価をはじめとする資産価格の押し上げを評価する声がある一方で、デフレマインドの払拭や長期停滞からの脱却への効果を疑問視する見方もある。BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「金融緩和の実体経済への影響は極めて小さい」と指摘する。

米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)は大量の国債を市場で購入する量的緩和政策を打ち切り、保有資産を減らす量的引き締めに入っている。日銀も資産買い入れの縮小に動いている。

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