海外フィンテック企業は日本での国際送金事業に注力する

海外フィンテック企業が日本での国際送金に力を入れている。英フィンテック大手のワイズは4月中にも、最大1億5000万円を送金できるサービスを始める。従来は100万円以下だった。時価総額10億ドルのシンガポールのユニコーン、ニウムも送金の上限額を5000万円に引き上げた。銀行より低い手数料を売りに、需要拡大の見込める企業向けや在日外国人向けの取り込みを狙う。

英ワイズは3月、100万円超の送金ができる「第1種資金移動業者」の認可を得た。2021年にロンドン証券取引所に上場し、時価総額は2兆円に迫る。100万円以下の送金が可能な「第2種」では認可されていたが、第1種として認められたことにより上限額を引き上げた。

ワイズ日本法人によると、現在の100万円を上限としたサービスでは「『高額の送金ができず使い勝手が悪い』といった声が中小企業を中心に根強かった」という。円安の進行で海外通貨で換算した送金の上限額が下がった影響もでていた。

190以上の国に送金網を持つニウムも2月に第1種を取得した。現在は海外から日本への送金のみを扱うが、近く日本から海外に送るサービスも始める。

ワイズやニウムのサービスの特徴は手数料の低さだ。ワイズの場合、100万円を日本円で送り、海外で米ドルで受け取ると送金手数料は約6600円かかる。為替レートはほぼ実勢に近い。あるメガバンクでは送金手数料は8500円、このほか1ドルあたり2円の為替手数料と、外国銀行に払う手数料が発生する。

安さの秘密は独特のビジネスモデルにある。ワイズやニウムは世界各国に自社の銀行口座を持つ。A国からB国に送金する場合、送金人はA国にあるワイズやニウムの口座に資金を入れる。確認後、ワイズやニウムはB国の自社口座からB国内の受取人の口座に資金を振り込む。国内送金を生かした仕組みだ。

送金時間は短く、半数以上は受け取りまで数分以内で完結する。送金が長引いたとしてもその間の為替リスクは事業者が負担するケースが多い。

銀行間送金は国際的な決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(Swift、スイフト)」を使う。複数の銀行を中継するため手数料は高くなりがちだ。

日銀によると、銀行経由で200ドルを自国から海外に送金するには送金額の17.5%(19年時点)の手数料がかかる。第1種に登録し南米やアジアへの送金に強いウニードス(東京・新宿)は一律5000円、同じく第1種登録で日本から韓国への送金を扱うシースクェア(東京・新宿)は一律4000円、キャンペーン期間中は1800円の手数料に抑えた。

中小企業や出稼ぎ外国人を中心に海外送金ニーズは高い。金融庁によると、22年度の国際送金額は1兆6732億円と、19年度比で5割増えた。

銀行以外の送金サービスを広げようと、金融庁は20年の法改正で送金上限を一律100万円としていた枠組みを変更した。3月末時点で90弱の事業者が資金移動業者に登録しており、うち4事業者が第1種の認可を得ている。

国際送金を手掛ける資金移動業者と連携した新たなサービスを模索する動きもある。フィンテック企業のペイトナー(東京・港)は海外の取引先への送金の自動化を検討する。請求書を読み取って自動送金する国内企業向けのサービスを国際送金に応用する構想だ。

ペイトナーによると、国内の自動送金サービスの平均取扱額は中小企業で数百万円程度といい、国際送金も同程度になるとみている。100万円超の送金ができる第1種資金移動業者と組めば、中小の国際送金ニーズを取り込める。

高額の送金サービスはマネーロンダリング(資金洗浄)につながる恐れがある。ニウムなどは金額や送金頻度などを基にマネーロンダリングの可能性がある送金を自動検知するシステムを採用する。不審な取引を見つけた場合は、過去の送金履歴を参照したり、取引の目的を送金者に確認したりするなどしてリスクを減らしている。

規制緩和や技術革新による利便性の向上は重要だが、同時に不正を防止する枠組みの高度化も欠かすことはできない。

(古田翔悟、相松孝暢)

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