イランとイスラエルの緊張激化を受け、イエメンの親イラン民兵組織「フーシ派」が紅海で商船攻撃を強める懸念が高まっている。日本や欧州の海運大手は年末年始から紅海を避けてアフリカ南端を経由するルートへの変更を迫られたが、国際的な海上輸送への打撃がさらに深刻化する恐れもある。
世界海上貿易の1割
「いつ再開できるのかがますます分からなくなった」。海運大手関係者は中東情勢の一段の緊迫化を受け、紅海での通航について懸念を語る。
紅海は欧州とアジアを結ぶスエズ運河に連なるシーレーン(海上交通)の世界的要衝で、世界の海上貿易全体の約1割を占める。昨年11月以降にフーシ派が紅海を通航する船舶への攻撃を繰り返したことを受け、多くの海運会社が紅海での運航を避け、南アフリカの喜望峰を経由する航路に切り替えている。
日本郵船、商船三井、川崎汽船の国内海運大手3社についても、米英軍によるフーシ派への空爆開始後、今年1月16日までにすべての運航船の紅海通航を停止した。
国際通貨基金(IMF)によると、4月17日時点に紅海を通過した通航量(7日移動平均)は南部バベルマンデブ海峡で前年同期比73%減、北部のスエズ運河で63%減と大幅に減った一方、喜望峰は78%増えている。
インフレリスクにも
「国際物流の遅れによる生産への影響と海上輸送費上昇によるインフレ再加速が懸念される」とみずほリサーチ&テクノロジーズの川畑大地エコノミストは語る。紅海を迂回すると運航期間は2~3週間延びる。船腹の不足感が高まったことでコンテナ船の運賃は年初にフーシ派襲撃前の2倍以上に上昇し、その後も高止まりしている。
「この状態がいつまで続くか分からないので、軽々に船舶数は増やせない」と海運大手関係者は話す。物流遅延への対応で抜本的な手立てを講じにくい中、配船を工夫するなどして影響を軽減できるようにやりくりしているのだという。
だが、今の状況が長引けば、物流の遅れや海上輸送費の上昇が世界経済に大きな損失をもたらす懸念がある。日本総合研究所の藤本一輝研究員は「欧州や日本で今後内需回復が進んだ際に船舶の供給難が続いているようだとインフレリスクが高まる」と指摘した。(万福博之)
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