(ブルームバーグ):11日の日本市場では、円相場がドルに対し一時140円台後半と8カ月半ぶりの高値を付けた。日本銀行の中川順子審議委員が講演で、経済・物価見通しが実現していけば、金融緩和の度合いを調整するとの姿勢を改めて示す中、来週には米国の利下げが見込まれ、日米金利差の縮小観測から円買い・ドル売りが強まった。

円高が嫌気された株式相場は東証株価指数(TOPIX)が6営業日続落し、連続下落の記録としては昨年7月以来の長さ。前日の米国金利が低下した流れに加え、この日実施された日銀による国債買い入れオペの結果を受け、債券相場は上昇した。

中川日銀審議委員は秋田市で開かれた金融経済懇談会で講演し、先行きの金融政策運営について、日銀の経済・物価の見通しが実現していけば、「2%の物価安定の目標の下で、金融緩和の度合いを調整していく」と発言。一方、8月の金融市場の急変動を踏まえ「市場機能や企業の資金調達行動の変化が、見通しの実現する確度やスピードに与える影響について丁寧に評価を行い、判断をしていく必要がある」とも語った。

シンガポールが拠点のユニオン・バンケール・プリヴェ(UBP)でアジア株式調査責任者を務めるキーラン・カルダー氏は「来週予想される米国の利下げを前に、市場には不透明感が漂っている」と指摘。こうした中で「原油価格の下落や中国経済の弱さ、円高など市場を下落させる幾つかの要因がある」と述べた。

米大統領選候補者のテレビ討論会が10日夜(日本時間11日午前)に行われ、民主党候補のハリス副大統領の鋭い攻撃に、共和党のトランプ前大統領は女性の人工妊娠中絶の権利や2021年1月の連邦議会議事堂襲撃事件などで守勢に立たされる場面があった。この日の日本市場に対する影響は限られたが、米金融政策の行方とともに米大統領選情勢は市場参加者がリスクを取りづらい要因の一つとなっている。

外国為替

東京外国為替市場の円相場は一時1ドル=140円台後半と8カ月半ぶりの高値を付けた。日銀の中川審議委員の発言や日本株の下落を受け、円買いが加速。米消費者物価指数(CPI)の発表を控えた持ち高調整の動きも出ている。一方、米大統領選候補者討論会の発言に対する相場の反応は限られた。

三井住友銀行の鈴木浩史チーフ・為替ストラテジストは、米金利の低下に加えて中川審議委員の発言で日銀の利上げも意識され、日米両面からの円高圧力が根強いと指摘。「金融正常化に向けて執行部と同様の前向きな発言を繰り返していることがドル・円の重しになっている」と述べた。

米大統領選候補者の討論会については、ハリス氏優勢との見方も出る中で先行きは不透明で、「トランプ相場は時期尚早との見方からドル・円が下げている面もあるだろう」との見方を示した。

 

株式

東京株式相場は続落し、TOPIXと日経平均は約1カ月ぶりの安値を付けた。円高進行で業績への悪影響が懸念された自動車株を中心に、ニューヨーク原油先物の下落を受けた鉱業や石油など資源関連株、証券や保険などの金融株が売られ、東証33業種は全て安い。金融株は、米大手銀行幹部の慎重な業績見通しの発言も響いた。

TOPIXを構成する2132銘柄中、下落は1979に達し、上昇は125にとどまった。売買代金上位ではトヨタ自動車やアドバンテスト、三菱重工業、商船三井、みずほフィナンシャルグループが安い。半面、野村証券が目標株価を上げた富士通、自社株取得枠を拡大した三井物産は小幅高。

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの小林千紗日本株ストラテジストは「買い手不在の展開が続いている」と指摘。米連邦公開市場委員会(FOMC)などこの先イベントが多く、為替の不透明感も強いため、積極的に買うにはもう少し様子を見たいという雰囲気が強いと話した。

 

債券

債券相場は上昇。前日の米長期金利が低下したことや、日銀が実施した国債買い入れオペの結果を受けて買いが優勢となった。

りそなアセットマネジメントの藤原貴志債券運用部長兼チーフファンドマネジャーは、米国では雇用統計発表後でも利下げ幅が25bpになるのか、50bpになるかまだ分からないだろうと指摘。欧州中央銀行(ECB)の利下げも見込まれて世界的に金利に下方バイアスがかかる中、商品市況の下落もあり国内金利が上昇することも期待しにくいと話した。

SMBC日興証券の田未来シニア金利ストラテジストは、日銀オペ結果は残存1年超3年以下、3年超5年以下の落札金利が低かったとし、「5年債利回りが0.5%を下回るなど相場は強いという印象だ」と述べた。「米金利低下や大統領選テレビ討論会を受けてドルが下がり、株安となったことで債券が買われた」との見方も示した。

日銀は午前の金融調節で定例の国債買い入れオペを通知。対象は残存期間1年超3年以下、3年超5年以下、5年超10年以下、25年超。買い入れ額はいずれも前回オペから据え置いた。オペ結果によると、残存1年超3年以下、3年超5年以下の応札倍率が低下し、需給改善を示した。

日銀:国債買い切りオペ一覧 (表)

新発国債利回り(午後3時時点)

 

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--取材協力:横山桃花、Winnie Hsu.

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