3Dプリンターなどの原料の金属や樹脂の劣化度を高速で簡便に診断できる技術の実装を進めるトレスラボ(埼玉県和光市)。田島右副(ゆうすけ)最高技術責任者(CTO、59)は、独自の技術を3D造形の世界的な品質評価基準にできたらと熱が入る。
--創業のきっかけは
「出資会社(合同会社トレスラボ)で開発した粉末と溶媒を組み合わせた独自の粉末評価技術である『溶媒含侵核磁気共鳴(SIPN)法』の社会実装を目的に令和3年7月に設立しました。SIPN法は粉末材料に対し適度な親和性を持つ溶媒の緩和時間の変化から、粉末材料の形状や化学的変化を定量的に評価できます。トレスラボは革新的な材料評価技術で環境調和型社会の実現に貢献します」
--現在注力している事業内容や課題は
「SIPN法は、3Dプリンターなどの原料に用いられる金属や樹脂の粉末の劣化度を迅速かつ簡便に診断でき、3D造形の品質管理や製造コストの削減に役立ちます。今後は国内外の粉末材料メーカーや3D造形のサービス・ビューロー向けに装置販売や受託評価サービスを展開します。そのために、より製造現場で使いやすい可搬型装置の開発を目指します」
--今に至るご苦労は
「粉末材料の利用効率を高めることが3D造形業界に共通する重要な課題と知った私がSIPN法を考案しました。技術開発は順調に進みましたが、小規模のベンチャー会社ですので装置開発に必要な資金を調達するために出資を募り公的資金にも応募しました。幸い資金集めに成功し開発の目途がつきました」
--新たに取り組みたい事業や開発案件などは
「海外に向けた事業展開に必要な製造販売体制を構築するため、大手機械メーカーとのM&A(合併・買収)などを検討しています。また、3Dプリンター以外の業界にも当社の技術を広げ、粉末材料を扱うさまざまな業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)やモノのインターネット(IoT)化に貢献したいと考えています」
--埼玉企業としての意気込みは
「当社は起業時から近くに住む主婦がパートタイマーで参加しており、理系出身の方々ではないのですが、実験などを楽しんでいただき、今ではその方々が開発を支える貴重な戦力になっています。地域に密着した企業として発展するためには働きやすい職場環境を整備し、男女共同参画社会を実践する会社を目指す必要があると思っています。そのためには、公的支援、特に地元自治体の協力が不可欠だと考えています。SIPN法が3D造形の品質評価基準になる可能性があり、世界の製造業に大きな影響を与えます。この技術を本県から世界に発信し続けられるかどうかは、自治体との協力関係にかかっているといえます」(聞き手 那須慎一)
会社概要
・所在地:埼玉県和光市南2の3の13 和光理研インキュベーションプラザ209
・設立年月:令和3年7月
・主な事業内容:粉末材料診断装置の開発
・従業員数:5人(6年4月現在)
・資本金:400万円(同)
・その他:5年「埼玉県次世代ものづくり技術活用製品開発費補助事業」に採択
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